AI時代に求められる「文理融合」国語OS

※この記事では、「解釈の力」の養成と、解釈を表現する国語力について考えます。

四大メディア全投下の「大誤算」から学ぶこと

みなさん、こんにちは。光成章です。今回、ジェミ兄さんに投げかけたエピソードはこれでした。
「テレビも、新聞も、雑誌も、ラジオも、全部に広告を出せば完璧に(= 何重にもなって)届くはず!」 かつて、ある企業が莫大な予算を投じて行った大々的な新製品キャンペーンがあります。しかし、キャンペーン後に行った効果検証の結果は期待を大きく下回るものでした。なぜか?
理由はシンプルです。消費者にはそれぞれ、「私はテレビは見るけど新聞は読まない」「ラジオは聴くけど雑誌は見ない」というように、自分が好きでよく接するメディアがあるのです。「全部網羅すれば、あちらで目にし、こちらで耳にして、というようによく届く。ラジオで耳にし興味を持った製品名の広告を、その後雑誌で目にすれば、読みたいという気持ちも増し、必要で欲しい情報をしっかり読み取ってくれるだろう」は、送り手側の期待過剰な思い込みに過ぎませんでした。

AI時代に求められる「文理融合」国語OS

実はこれ、今の学校の授業でも同じようなことが起ころうとしているかもしれません。
文科省の資料を開くと、子どもの思考を深めるために「比較する」「分類する」「具体化・抽象化する」といった【考えるための技法】が10項目並んでいます。これを見た真面目な先生ほど、「10個全部を網羅して教えなきゃ!」「全部同じようにマスターさせたい」と、緊張を覚えるのではないでしょうか。その思いが強すぎると、先ほどのマルチメディア戦略と同じ罠にハマってしまうかもしれません。無機質な数字や技法を「全部」並べられた子どもたちの脳内は、完全にフリーズしてしまうだろうからです。 本当に必要なのは、網羅することではありません。まずは、自分のやり方でやってみてもらうことです。それを後から、「今のは、比較したということなんだよ」「△△さんは、分類してみたんだね」などと解説します。そのようにして、各人が、2つ目の得意技の獲得に向けたヒントを、他の人のやり方の例から学べるようにしてみてはどうでしょうか。
ジェミ兄さんに言わせると、目の前にある無機質な数字に対峙して、「つまり、このデータが意味していることは、こういうことだ」と、自分自身の言葉をぶつけて新しい事実を導き出す力。無数のデータの中から「これだ!」という1行(インテリジェンス)をスナイプ(狙って獲得)する力。それが、生きた国語OS(解釈の力)なのだ、となります。

「本物のe-Stat」を使い、羊羹の謎をスナイプ

では、明日から追加予算ゼロ、人員増なしで、10歳の児童が「大人向けの道具を使いこなし、数字の壁を破る快感」を味わえる、具体的な授業デザインをご紹介します。
使うリソースは、国語の指導要領にある「情報と情報との関係(共通・相違・原因と結果)」、そして大人がビジネスや研究で使う政府統計ポータルサイト「e-Stat」の本物です。子ども向けに優しく丸められたデータではなく、プロの道具に直接触れさせるからこそ、子どものWill(知的好奇心)が爆発します。
【必須行事(遠足・修学旅行)の事前学習】
遠足の事前学習を国語の時間でハック(攻略)します。
「みんな、お店で売っている『羊羹(ようかん)』って、いつ一番売れると思う? 普通はお盆の8月っぽいよね。じゃあ、これから遠足で行く『福井県』のデータを、大人が使う『e-Stat』の本物で確かめてみよう!」
子どもたちが図書室のPCを開き、本物のe-Statを叩くステップは黒板に書く数回の手順だけです。
・「eStat」の画面を開き、真ん中の検索窓に「家計調査」と入力する
・「データベース」から「家計調査」(2つのうちの1つ)を選びます
・「二人以上の世帯」の「月次(つきじ=月ごとの意味)」ボタンを押す
・「品目分類」の「DB(データベース)」ボタンを叩く
・「表示項目」選択で、「品目」「地域」「時間」などを、選択肢から選んで確定します
「全国」と「福井市」の生の数字や、そのグラフを見た瞬間、子ども達は驚愕します。
全国のデータ: 確かに、山は夏の7月と8月にある
福井市のデータ: なぜか夏は低く、しかも9月は0、そして12月に年間消費量の40%という異常な大爆発(山)が起きている。
ここで、数字の壁に子どもの「言葉」をぶつけさせます。
「つまり、このデータが意味していることは、全国では羊羹は夏の食べ物だけど、福井では『冬のこたつで食べるもの』っていう、全く逆の文化(相違)があるということだ!」
子ども達は、これが「比較」なんだと身をもって知ります。比べなければわかりません。福井の子が福井のデータだけを見たなら、「そうそう。羊羹は冬の食べ物や」で終わってしまうのです。東京の子が全国のデータだけを見ても同様です。「そうだよね。羊羹は夏の食べ物で間違いない」となって、スルーされてしまうのです。
大人向けの複雑なデータベースから、自分たちの言葉で「1行の意味」を翻訳できた瞬間、子ども達の国語力と探究力は完全に接地します。・・・と、ジェミ兄さんは言いますが、それはまだです。福井に行って、その羊羹(水羊羹)の正体を目にし、口にし味わった後です、接地・着地は!
欲を言えば、お土産に買って帰ってもらい、もらった人はその後、通販リピーターになってもらいたいです。笑。

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「比較」と「時系列変化に着目」が二大ポイント

ここで少し「脱線」します。子ども達が実施するアンケートは、正直に評価すれば問題だらけです。統計的な不備を指摘すればキリがないでしょう。ここで、「問題を発見する」ということに絞って、一つのやり方を提示したいと思います。それが「比較」です。アンケートで幅広い年齢の人に回答を求めるといいよということの背景にあるのは、後で、結果を比較したいからです。「若い人」の意見と「お年寄り」の意見を比べる、「男性」と「女性」の意見の差を見る、といった具合です。学校であれば、先生と児童・生徒の意識の差を見るというのも面白いやり方です。両者に同じ質問をして、その項目に対するお互いの「自己評価」の差を見るのです。例えば、算数の授業を楽しく進められているかという項目で、教師は5段階で下から2番目の評価を厳しく自分に付けたとします。ところが、児童は上から2番目の評価(つまり、4)で、授業が楽しいと思ってくれているとわかったとします。教師は、まず安心し、その次に、どこをもう少し改善したらいいのだろう?という意識で、子ども達が書いてくれた自由回答(フィードバック)に、真剣に目を通すでしょう。
さて、ここでついでに「360度評価」という仕組みについても触れておきましょう。企業人であれば、その人に対する「評価コメント」が、上司、部下、同僚、取引先、等々のあらゆる関係者から集まってきます。上司に見えていない部分が同僚には見えているなどすると、上司が、その人に対する厳しい目をやや緩めてくれることも期待できます。もちろん、一面だけでなく「多面的に正しく」観ようというのが、これを行う目的でしょう。ただし、私はいつもここで疑問を感じます。典型的な例は、「当人の将来を考え、厳しく指導する上司」が辛口に評価されてしまいがちだろうという点です。将来、その人が過去を振り返り、「あの時、厳しくしてもらったおかげで今の自分がある」と思えば、そのかつての上司に対する思いは大きく変化するはずです。「360度評価」には、是非、「時間差評価」の考えも取り入れてもらいたいと思います。
この項のタイトルに「時系列変化に着目」を入れた理由は、そんなところにもあります。

グラフを文章にする「訓練」

「脱線」は、実は、もう一つあります。私は、かつてまだまだ「新人」だった頃(実は、我々世代は「新人類」と呼ばれていましたが)、「国民生活白書」が発行されるのを毎年楽しみにしていました。私にとっては、それがとても良い教材だったからです。白書に書かれたグラフや表を見て、まず、その説明文を自分で考えます。その後、本文に書かれた解説を読んで、表現を学ぶのです。当時は日本はイケイケの時代ですから、伸びているグラフが多かったのを覚えていますが、それでも増加の割合は異なります。「急増」「激増」もあれば、そうでない増え方のものもありました。私が「漸増」という言葉を覚えたのは、まさにこのエクササイズを通してです。国語の時間には、是非こうした「程度の差などを表現する言葉の種類の数々」も紹介してあげて欲しいと思います。
さて、本題に戻りましょう。

現場の「無理です」を無力化する伴走シールド

「大人の統計データベースなんて、ローマ字入力も怪しい小学生には教えられません!」
そう不安になる先生方の抵抗感を完全に無力化するシールドが、「二人一組のバディ制」と「学校図書館利用」です。
インストラクターにならなくてよい: 担任がe-Statの操作プロになる必要はありません。タイピングが得意な子と、画面を読み解くのが得意な子でバディを組ませれば、子ども達は勝手にバンプし合って(ぶつかりあいながらも)進みます。学校司書を「情報資源のプロ」として巻き込み、PCの立ち上げやアクセスをサポート(足場かけ)してもらうだけで十分です。
成果のアーカイブ: 子ども達が「つまり、こういうことだ!」と意味づけたe-Statのグラフとポスターは、学校図書館にアーカイブ(保存・公開)していきます。これこそが、文科省のいう「節目としての探究(集大成)」への接地であり、後輩たちがe-Statを叩くときの新たな「能動的情報資源(AIR: Active Information Resource)」として学校の財産になるのです。

10歳からわかる「まとめ」

・『全部のメディアに広告を出せば、同じ人に何重にも届くはず』という大人の思い込みが失敗したように、たくさんの数字や難しい言葉をただ並べるだけでは、誰の心にも届かないんだ。
・e-Statに並んでいる大人のデータは、そのままではただの数字の山。そこに『つまり、こういうことだ!』という君だけの言葉をぶつけることで、初めて生きた意味(インテリジェンス)が生まれるんだ。
・大人が使う本物の道具(e-Stat)を使って、世の中の『普通』を自分の言葉で確かめてみよう。数字と言葉を組み合わせられるようになった君は、自分の人生の羅針盤を自分で動かせる、最強の探究人(たんきゅうびと)になれるんだ。

*本原稿は、ジェミ兄さんとの対話を基に構成されました。

※この記事では、「解釈の力」の養成と、解釈を表現する国語力について考えました。