オノマトペは、より深く伝わる言葉

※この記事では、オノマトペに注目し、社会との関係をつなぐ方法について考えます。

オノマトペは最強のプロンプト

みなさん、こんにちは。光成章です。今回も前回からの流れで、「言葉の省略の問題」について、ジェミ兄さんと対話を続けてみています。
「ヤバい」「エグい」「すごっ」……。いま、子ども達がいる教室を見渡すと、あらゆる感情や風景が、このわずか数文字の記号に吸い込まれて消えていくのを目にします。友達同士の休み時間やランチタイム後の昼休み。狭い「いつものコミュニティ」の中であれば、これらは言葉として機能します。「最近どう?」「ヤバい」「あー、ヤバいよね」で会話が成立してしまうのです。でも、ちょっと待ってください。
一歩その狭い世界を出たとき、その言葉は本当に相手に「通じて」いるのでしょうか? 今回は、前回に続き、言葉の解像度を爆発的に上げるための言語技術(Language Arts)、中でも、【オノマトペ】という最強の「道具」の乗りこなし方を提案します。

「ヤバい」を使い続けることは、なぜ社会では命取りなのか

大人のビジネスの場で「場を困惑」させる人には、ある特徴があると思います。その人が、何の根拠(エビデンス)もなしに発言しているか、あるいは、その人が使う言葉には解像度が足りないか、です。前者の場合は、「おとぎ話(アネクドート)」を語っていると思われても仕方がありません。会議で自分の提案を通すには、今のままでは説得力が足りないのだと捉え、その点を再考してみるのが良さそうです。一方、たとえば、「ヤバいくらい」とか「スゴく」という言葉の多用は後者にあたります。あなたが「ヤバい(美味しい)」と思って発した言葉を、食べる前の相手は「ヤバい(不味い・変な)味なのか」と真逆の意味に受け取ってしまっているかもしれません。
先日たまたま、全盲ろう(視覚と聴覚の両方に障害を併せ持ち、光も音も全く感じない)という方のお話を聞く機会がありました。その方は、お母様が発明した「指点字」という方法で、通訳者の力を借りて、外の世界とコミュニケーションをとっておられます。その方法でどこまでニュアンスや「程度の差」を伝え切れるのか、私には今すぐにはわかりませんが、声の大きさやトーン、顔の表情といった「補助」を当てにできないことは明らかでした。そのような条件のもと、単語のみでよりよく伝えられるとしたら何があるだろうか——私の頭に浮かんだのがオノマトペでした。

「社会科見学・遠足」が舞台のオノマトペワーク

子ども達が安易に妥協せず、自分で操れる言葉の数を増やすのに、例えば、こんなワークはどうだろうかと考えてみました。
社会科見学を、そのまま言語技術の実験場に変えてしまうというアイデアです。以下は、明日、教室で1人1台の端末を開くだけでスタートできる45分間の完全パッケージです。例の如く「準備のための追加書類も、新しい予算も一切必要ありません*」。
*補足: この言葉が頻繁に出てくることの種明かしをします。実はこれ、アイデア出しの際に、私が最初にいつもジェミ兄さんに課す「守るべき絶対条件」なのです。

STEP 1:【最初の10分】「身内マジック」の解体

先生は、今度の社会科見学で訪れる予定の地元の場所の写真や、その商店街で売っているお惣菜などのイラストを、子どもたちのタブレット画面に提示します。
教師の指示:
「今から、これらの食べ物の紹介カードを作ります。ただし、『ヤバい』『ひどい』『エグい』『すごっ』などの言葉は、システムエラーが起きるので使用禁止です!」
子ども達は一瞬フリーズしてしまうかもしれません。いかに自分が無意識のうちに、それらの言葉に思考を丸投げしていたかに気づくからです。しかし、この「もやもや」や「どきどき」こそが、自律的に学びを調整し始める最高のスイッチになります。

STEP 2:【真ん中の25分】言葉をロジックの道具に

ここでは、五感を表現することに挑戦します。しかし、行うことは、情緒的な作文を書いてもらうことではありません。
教師の指示:
「感情をそのまま書くのはいけません。代わりに、耳、目、鼻、口、手で感じた『音や様子(オノマトペ)』だけで、カードを読む人の脳内に、それらの「絵」を一瞬でイメージさせることをやってみましょう!」
子ども達は、1人1台端末の共有画面(スプレッドシートやホワイトボードツール)に、五感の言葉をパズルのように組み合わせていきます。
「サクサク」×「じゅわー」(あの店のコロッケの音と肉汁に対応した言葉)。ただ「美味しい」と書くより、噛んだ瞬間の音が聞こえてきます。
「ひんやり」×「さらさら」(遠足で行く公園の、木陰を通り抜ける風の肌触りを表現)。
【余裕があれば、追加ポイント!】「正しい引用」の習慣化
子ども達が面白いオノマトペを見つけたら、すかさず先生はこう問いかけます。
「その言葉、どこから発掘してきたの?」「こないだ読んだ国語の教科書の〇〇のページ」「図書室の絵本にあった」そう答えたら、カードの隅に小さく【出典:『ごんぎつね』新美南吉】等と書かせます。学術文献やリサーチの世界で最も大切な「研究倫理(クレジットへの敬意)」を、10歳のうちからゲーム感覚で体得させるのです。単なるコピペ(盗作)に対して100点を付けてしまうからフェイクが生まれます。どこから言葉を見つけてきたかの「痕跡」を堂々と示すことこそが、知的な市民のたしなみといえます。学術論文用の検索サイトである Google Scholar のトップページには、「巨人の肩の上に立つ」という言葉が書かれています。

STEP 3:【最後の10分】「意味の更新」と社会的接続

完成した「超・解像度紹介カード」をクラス全員で読み合います。「絵が描いてないのにコロッケの匂いがしてきた」「味の感想が書いてないのに一番食べたくなった」という相互作用がその場で巻き起こります。
そして、ここからが「探究」の本番です。完成したカードをラミネートし、それを、社会科見学当日に「いつもお世話になっている地元の商店街の店舗」へ、実際に手渡しに行くのです。もし、快く店頭に飾ってもらうことができれば、それは、子ども達の生身の言葉が、地元の魅力を発信するインフラの一部として、確かに、社会と接続されたということの証になります。
これ以上の「生きて働く確かな知識」の獲得はない、といえるのではないでしょうか。

オノマトペの授業導入への障害

オノマトペを授業に導入する際にぶつかるであろう障害としては、現在の教室の中の多様性が考えられます。私にはこんな経験があります。フランス系の会社でスキンケア製品の開発に関わっていた際、「もちもち」という赤ちゃんのような理想の肌を、感覚的にパリの人達にわかってもらう必要に迫られました。そこで、私は、虎屋さんのパリ店に行き、白玉を使った和菓子を買ってきて、これが「もちもち」だと説明したのです。あいにく、小豆を使った甘さが、当時はまだ今ほど欧米人には受け入れられておらず、余計なところでバイアスがかかってしまいましたが、まぁ「もちもち」については伝わったと思います。
ここで伝えたかったのは、オノマトペは生活に根差したもので、育った環境・暮らしている環境に大いに依存するものだということです。
さて、本題に戻りましょう。

教師の「不安」「抵抗感」に対して

「オノマトペって感覚的なものだから、子どもによって出来栄えに差が出ませんか?どうやって客観的に評価すればいいか自信がありません」という声が、先生方からは上がってきそうです。
それに対しては、こう答えたいと思います。
文章全体の「上手さ」を評価しようとすると難しくなります。評価規準を国が打ち出している「言語能力の3要素」に絞り、極限までシンプルに引き算してはどうでしょうか。
* 【知識・技能(A/B/C)】: オノマトペと五感の言葉を適切に選択し、紹介カードを「表現」できているか
* 【思考・判断・表現(A/B/C)】: 読み手の立場を意識して、言葉の解像度(原因や理由の記述)を調整できているか
* 【付記する『〇』(学びに向かう力)】: 自分のカードを他者と読み合う過程で、友達の優れた表現や教科書の言葉(出典)を素直に、かつ敬意を持って自分の記述に取り入れようとしているか
この3点だけをワークシートの記述から見取るようにすれば、慣れていない先生でも迷うことなく、かつ過度な文書作成負担なしに「指導と評価の一体化」が完了するのではと思います。

10歳からわかる「まとめ」

①「ヤバい」「すごい」は、いつも一緒にいる友達の間でしか通じない、狭い世界の言葉。一歩外に出たら、相手には何も伝わっていないと考えよう。
②相手に何かを伝えたいときは、オノマトペ(音や様子を表す言葉)を使って、五感(目・耳・鼻・口・手)の解像度を上げよう。文字だけで、相手の頭の中に豊かな絵を浮かび上がらせることができるよ。
③本や教科書から素敵な言葉を見つけて使うのは大正解。ただし、そのときは必ず「どこで見つけたか(出典)」を書いて、先人への感謝と筋を通そう。
④言葉は、目に見えない心や、遠く離れた人、さらには生きる時代が違う人ともつながることができる、人類最高のテクノロジー(技術)なんだ。

*本原稿は、ジェミ兄さんとの対話を基に構成されました。

※この記事では、オノマトペに注目し、社会との関係をつなぐ方法について考えました。