
自らの人生を舵取りする力
現在、次の学習指導要領の策定作業が進んでいます。その中で、今回初めて使われる表現があると聞きました。それは、子ども達には「自らの人生を舵取りする力を身に付けること」が今後益々重要になってくるというくだりです。
舵取りするとは、自身の人生航路を定め、途中で進む方向を誤らないよう自分を導いていくことを指すのでしょう。また、一度定めた航路であっても、状況の変化に応じて臨機応変に舵を切り返すという意味も含むでしょう。確固とした意思・主体性と、柔軟な対応力を併せ持つことを目指していると感じます。
資料の文章は、この後、「異なる価値観を持つ多様な他者と、当事者意識を持って対話を行い、問題を発見・解決できる、『持続可能な社会の創り手』を育てる必要性がこれまで以上に高まっていると考えられます」と続きます。
港を出てどちらに向かうか
今や18歳で選挙権を持つ成人となる我々ですが、その年齢までの、まだ出港前の高校生が、やるべきことはどちらに向かうかを決めておくことです。私の時代に「一般的」な進学先の決め方は、まずは自身の学力の偏差値を認識し、その近辺の大学を目標として、その後で、具体的な学部を決めるというものではなかったでしょうか。同じ大学でも学部間で偏差値に大きな差があれば、学部選びが先に来る場合もあったでしょう。少なくとも私はそんな選び方で、第一志望の大学・学部、第二志望、と目標を定めていきました。そうなると、大学2年生の秋頃に大きな悩みを抱えることになります。「さぁ、どのゼミに入ろうか」と、この時点で考えることになるからです。そのゼミの選び方も、「あの教授は産業界にネットワークが強いらしい。毎年、一人は確実にA社に、さらにはB社にも多くの先輩が入っているようだ」などという噂が飛びかい、結局は、どの有名企業に就職できそうかを基準に、ゼミ選択を行なっていた同級生を多く見ました。私には偏屈なところがあるため、よく知りもしないのに「大企業に入って、一生歯車になって働くのは勘弁」と決めつけ、就職先企業にまで気をまわすことはありませんでした。
そんな私に果たして資格があるのかどうか不明ですが、現在、高校生に対して進学先選びの話をする際には、次の順番を薦めています。
1. まずは、自分の興味・関心に目を向けます
2. いくつかある興味・関心の中で、深く取り組みたいと思うテーマを一つ選びます
3. そのテーマタイトルで、researchmap を使って検索をかけます(最初は、「経済」「経営」といった大タイトルで構いません)
4. 上記の検索でリストアップされた研究者名をクリックして、その研究者の具体的な研究内容を知るよう努めます
5. 読み進めるうち、最初の段階より更に興味・関心が深まり、もう少し細かなカテゴリーに絞って研究者を探すことができるようになっているはずです。例えば、経済学分野にはマクロ経済とミクロ経済があり、計量経済学や行動経済学、また、その他様々な学問があります。自身の関心がどれにより向いているかを徐々に絞り込んでいきます
6 そのうち、「この教授のところに行きたい」という気持ちが段々固まってくるのではないでしょうか
7. そうなれば、もう、その教授の所属大学を進路希望先として意識し始めるでしょう
つまり、先の「私の時代の一般的」と比べれば、今や、絞り込みの順番がおよそ正反対になっているわけです。
【参照】 JST 国立研究開発法人科学技術振興機構 researchmap
入試方法にも目を向ける
入りたいゼミ・学部・大学がはっきりしたら、次は入学選抜方式にも目を向けます。従来型の筆記試験だけなのか、他に何かユニークで新しい選抜方法も採用されているのかをチェックし、自身により好都合な挑戦手段を見つけます。
自身に有利な方法で受験に臨むことができれば、受験生時代から余裕を持った生活ができるはずです。研究・探究を開始するのに、何も大学入学を待つ必要はありません。時間に余裕があるなら、高校時代から既に開始してしまって構わないのです。最近は、大学1年次から学会に入って、多くの学外の研究者とも交流を図りながら、研究に没頭する若い大学生もいます。早め早めの準備によって、そのような充実した学生生活が保証されていくことになります。
サッカー選手になるのが夢
先日、私がオンラインで面談した高校生は、恥ずかしそうに「1年生の時から、自分の探究のテーマは毎年変わっているんですよ」と話してくれました。「1年の時は、ドリブルが上手くなるにはどうしたらよいか、2年の時は英語でのコミュニケーション能力を上げる方法を探究しました」との説明でした。話を聞きながら、「君は、将来、海外で活躍するサッカー選手を目指しているんじゃないの?」と尋ねてみました。すると、彼は、「そうです」とはっきり答えたのです。「なんだ。じゃあ君の探究テーマ選びはバラバラなんじゃなくて、むしろ、しっかりとした筋が一本立っているってことじゃないか」と伝え、卒業後はすぐプロを目指すのか、大学での選手生活を挟むつもりなのかを尋ねました。すると彼は、選手生活は長くは続かないので、引退した後のことを考え、大学では経営を勉強したいと思っているということまで話してくれたのです。
ここまできた段階で、先のresearchmapの使い方を説明しました。まず聞いたのは、サッカーのスタイルを見て、入りたいと考えている大学のサッカー部が今、既にあるのか、慕っている大学サッカー部のコーチや監督がいるのか、ということです。もし、いるなら、入学すべき大学が決まるので、大学のホームページから、経営学部の研究室案内を見て、自分が入りたいゼミの教授を探せばよいのです。
いないなら、いよいよresearchmapの出番です。経営というキーワードで研究者リストを表示させ、興味あるテーマを研究している教授陣を絞り込みます。その教授が所属している大学のサッカー部を研究して、自分が活躍できそうなスタイルのサッカーなのかどうかを見ていきます。両方マッチするところが、彼にとってベストの進学先となります。

10歳からわかる「まとめ」
・自らの人生を舵取りする力を身に付けることが、今後益々重要になってくる
・「私の時代の一般的」と比べ、今や、進学先の絞り込み順はおよそ正反対。まずは興味・関心からresearchmapなどを活用し、その分野の主な研究者、その研究者が所属している大学、という順序で調べていく

ジャートム株式会社 代表取締役
学校・企業・自治体、あらゆる人と組織の探究実践をサポート。
Inquiring Mind Saves the Planet. 探究心が地球を救う。