
※本稿では、「消しゴムを使わず、あえて足跡を残す」算数について、考えます。
消しゴムを使わない算数
みなさん、こんにちは。光成章です。
前回は、ニュースや広告に潜む「大人のズルい数字(バグ)」を暴き、誠実な形へと書き直すエビデンス・リテラシーについてお話ししました。
子ども達は今、数字の裏にある構造を疑う確かな「眼力」を手に入れつつあります。今回は、そんな子ども達が日々向き合っている「ノートの手元」に注目してみましょう。日本の教室で当たり前のように使われている、あの見慣れた文房具を「ちょっとお休みさせてみよう」というスリリングな提案です。
その文房具とは、「消しゴム」です。
消せないことにこそ、価値がある
少し余談ですが、私は世の中で大ヒットしている「消せるボールペン」があまり好きではありません。「なぜそんなものを発明してしまったんだ」とさえ思っています。だって、ボールペンの価値とは、本来「消せないこと」にあるはずだからです(笑)。
これは算数のノートも全く同じです。子ども達は、計算を間違えたり、図の描き方を失敗したりすると、すぐに消しゴムでゴシゴシと消してしまいます。そして、まるで「最初から正しいルートを知っていました」という顔をして、綺麗な式を書き直すのです。
運動エネルギーの無駄遣い、とまでは言いませんが(笑)、消しゴムで消すということは、自分の成長のための大切な足跡を自らゴミ箱に捨てているようなものです。プロのビジネスでも研究でも、一発で正解に辿り着くことなど、滅多にありません。むしろ、「あ、このルートは行き止まりだった」という失敗の痕跡(データ)こそが、次に進むべき正しい道を教えてくれる最高の宝物なのです。
なぜ、消そうとしてしまうのか
ここで一歩立ち止まって、そもそも子ども達は「なぜ、そんなに必死に消そうとしてしまうのか」を、別の角度から考えてみたいと思います。
彼らが間違いを必死に消そうとするのは、書いていることが間違いだと途中で認識するからです。では、なぜ間違いをそれほど恐れ、隠したがるのでしょうか。
それは、これまでの学校教育の中で「正しい答えは一つしかない」という勉強の進め方に、あまりにも慣れすぎてしまっているからです。もちろん、計算問題の正解は一つだけでしょう。しかし、その正解へたどり着くための「アプローチ(解き方)」は決して一つではないはずです。もしかしたら、そのまま進めていたら、先生に教えてもらった通りのやり方よりも、もっといい方法を見つけるかもしれないのです。
それなのに、ノートに書かれた「バツ」や「迷走した跡」を恥ずかしいもの、悪いものだと思い込まされている。これこそが、子ども達の探究心や「まずはやってみる」という挑戦のエネルギーを奪っている、教育の静かなバグ(仕様ミス)なのではないでしょうか。
「見開きノート」の贅沢なすすめ
だからこそ、伴走者である大人が「失敗する権利」を保障してあげる必要があります。お父さん、お母さん、ノートの節約精神からは少し外れてしまうのですが、ここはぜひ「ノートを贅沢に使うこと」を子ども達に許してあげてください。
ルールは、「見開き2ページを、1つの探究に使う」です。
* 左のページ:【痕跡バンバンの部屋】 消しゴムは一切禁止。間違えたら二重線(==)を引いて、その下や隣に新しい考えをどんどん書く。ぐちゃぐちゃの計算、迷走した図、すべて大歓迎。子ども達にはこう伝えてあげてください。「ここが君の戦った足跡。カッコいいよ」
* 右のページ:【自由なアレンジの部屋】 ここは子どものタイプに合わせて、好きなように使わせてあげます。
綺麗に正解を書きたいタイプの子は、左のページの失敗をじっくり見つめながら、右のページに正しい答えを書けばいい。あらかじめ失敗ルートが分かっているから、ここでも消しゴムを使わずに済みます。
一方で、綺麗さにこだわらないタイプの子には、もっと別のことにこの右のページを使ってもらいたいのです。「なぜ、最初は違ったのか?」「どこで勘違いしていたのか?」という原因を自分なりに振り返り、その「気付き」を言葉で書き出してもらうのです。
「綺麗に書く」より「気付き」の方が、実は大切
最初は「右側を綺麗に埋めること」にこだわっていた子ども達も、クラスみんなのノートを共有していくうちに、ある大切なことに気づき始めます。
先生が「おおーっ!」と絶賛し、みんなが「なるほど!」と拍手を送るのは、右側に美しく正解が書かれたノートではなく、左側で盛大に間違え、右側に『ボクはここで分母の数を勘違いしてた。だから次はこう直した!』などと、深い気づきが泥臭く書き残されたノートの方に、だんだんと移っていくからです。
1年間の探究のまとめ発表会でも同じです。「分かったこと(結果)」だけをスマートに発表するのではなく、「ボクは最初ここで失敗して、次にこのルートを試して紆余曲折して、最後にこれに辿り着きました!」というストーリーを語る子こそが、本当の拍手を浴びるべきです。
間違えることは、恥ずかしいことじゃない。むしろ、自分の頭がステップアップしている最高の証拠(エビデンス)なのです。消しゴムを置いて、贅沢に見開きノートを広げ、書き始めた瞬間から、子ども達の「失敗を恐れない、逞しい人生の舵取り」が始まる気がします。
10歳からわかる「まとめ」
① 間違えたあと(足跡)は、つぎの正解への宝箱! 計算を間違えたり、図に失敗したりしたあとは、宝物のデータ。消しゴムでゴシゴシ消して、なかったことにしちゃうのはもったいない!二重線を引いて、下や、となりに新しいアイデアを書こう。
② ノートは「見開き」でぜいたくに使おう! 左のページは、あたまの中で悩んだ足跡をそのまま残す場所。右のページは、それを見つめながら「正しく書き直す」か、それとも「なぜ間違えちゃったのかの気付き」を言葉にする場所。2つのページでアプローチしよう。
③ 綺麗に正解を書くより、「気づいたこと」を書く方が100倍カッコいい! 算数で一番すごいのは、一発で100点を取ることじゃない。「あ、ここで勘違いしてたわ!」と自分の頭のバグに自分で気づけた瞬間なんだ。その気づきを言葉にできる子が、最高の探究者だよ。
④ 「正しい答えは一つ」のまほうを解こう! テストの点数や一つの答えだけを気にして、まちがいを恥ずかしがる必要は1ミリもない!正解へ向かうルートはたくさんある。たくさん悩んで、たくさん歩いた人ほど、あたまはどんどん強くなるんだ!
*本原稿は、ジェミ兄さんとの対話を基に構成されました。
※本稿では、「消しゴムを使わず、あえて足跡を残す」算数について、考えました。

ジャートム株式会社 代表取締役
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