
※この記事では、ICTを通した手軽な、芸術との触れ合い方を紹介します。
「ICTが苦手」という思い込みを解きほぐす
子どもの探究学習に伴走する中で、大人(親御さんや先生方)からよく聞く言葉があります。「私はどうもICTツールが苦手で……」「デジタルをどう教育に使えばいいのか分からない」という話です。
しかし、冷静に観察してみると、その躓きの原因は「使い慣れないデジタルだから」というわけではないことが多いものです。
例えば、紙と鉛筆を使うときなら、私たちは当たり前のように手元が暗ければ明るい場所に移動したり、書きやすいように紙の角度を少し傾けたりします。そんな「自分が扱いやすいように姿勢や環境を整える工夫」を、誰もが無意識に行っているはずです。ところが、相手がICTツールになった途端、なぜかそうした工夫や準備を一切忘れ、まるで、わざわざ画面が見づらい無理な姿勢のまま使おうとし、うまくいかずイライラしています。「いやいや、その扱い方じゃそもそもムリです」と言いたくなります。嫌いな相手の欠点を無理に探そうとするようなことはやめましょう。
私はこれまで、様々な企業の新製品や新サービスの開発に、消費者リサーチという面から関わってきました。その多くは企業が用意した試作品の改良ポイントを見つける目的で実施されます。試作品を消費者に実際に使ってもらいながら、「この場合はどう動かすんだろう?」や「もう少しこうして欲しい」などの使用上の困惑や不都合を、調査協力者の感想や意見としてまとめ、企業にフィードバックするのが私の仕事です。開発者は、例外なく、消費者が普段使い慣れているものからの想像、その延長で感覚的に考える「こうに違いない」に、最大限近づけようと努力しています。ユーザーとなる私達は、そのような度重なるテストをクリアした製品しか市場には出てきていないはずだと、まずは開発者の努力と粘り強さを信頼し、その思いを持って触ってみるようにしましょう。
まずは、ICTであることを何か特別なものと捉えたり、特別に意識したりするのをやめてみませんか。リビングでお気に入りの本を開くのと同じような態度で接してみましょう。デジタルは新しいお勉強のロボットではなく、私たちの視界をちょっと広げてくれる「新しい虫眼鏡」のようなもの。そうフラットに捉え、自分が一番リラックスして、画面を見られる姿勢や場所を見つけることから、親子のデジタル探究は始まります。
ソファーの上で出会う、ゴッホの「生々しい足跡」
そんな気軽なマインドで、ぜひ親子で開いてみてほしい無料のツールがあります。それが、世界中の美術館を網羅した『Google Arts & Culture (GA&C)』です。
美術に強い興味があるわけでなかった私自身、このデジタル虫眼鏡を覗き込んでみて、一気に興奮させられる面白い発見にいくつも出会いました。前回ご紹介したゴッホの作品を検索し、画面をこれでもかとズームしてみたときのことです。そこには、教科書の印刷では絶対に分からない、油絵の具のボコボコとした生々しい盛り上がりが映し出されていました。
さらに解説(ストーリー)を読んでいくと、驚くべき事実が書かれていました。なんと、ゴッホが描いた絵の具の隙間から、「植物の花粉」が発見されたというのです。これこそまさに、彼らが「アトリエの室内から外へ飛び出し、太陽の光と風の中でキャンバスに向かっていた」という、生きた探究の何よりの証明です。デジタルという虫眼鏡が、100年以上前の画家の息づかいを現代にタイムスリップさせてくれました。
「色褪せない思い出」と、科学のレンズ
もう一つ、私を深く考えさせた発見がありました。ゴッホの名画『アイリス』の青紫色が、実は長い時間を経て「変色・褪色(色があせること)」してしまっていることが、科学的に証明されたというお話です。
我が家の子どもたちは、幼い頃に「シュタイナー教育のぬらし絵(美しい水彩絵の具を濡らした紙に広げるワーク)」を体験する機会に恵まれました。その時描いた作品は、今でも我が家でいつまでも色鮮やかなまま残っています。「さすが、良い絵の具を使うと何年経っても違うなぁ」と感心していたのですが、あの天才ゴッホの絵画でさえも、長い歴史の中で色が変化していくという事実に触れ、「なるほど、それでもやっぱり褪色は避けられないものなんだな」としみじみと納得させられました。
この「変色」という事実もまた、子どもたちにとっては最高の探究のタネになります。
「この絵、昔はもっとどんな色だったんだろう?」
「なんで色が変わっちゃったのかな?」
画面で絵を見るだけでなく、そこに隠された歴史や科学のレンズを重ねることで、1枚の絵から無限の「問い」が溢れ出してくることでしょう。
親は教える人ではなく、一緒に驚く「ナビゲーター」
GA&Cを使うとき、親は美術の知識を教え込む必要はまったくありません。「ICTが苦手」と身構えるのもおしまいです。
大切なのは、「うわ、この絵の具の盛り上がりすごいね!」「えっ、花粉が混ざってるってどういうこと?」と、子どもと一緒にソファーで横になりながら、ツールの面白さに純粋に驚くことです。
特別なITスキルはいりません。ただ拡大してみる、ただ解説を一緒に読んでみる。そのフラットな体験の積み重ねが、子どもたちの中に「もっと知りたい」「自分ならどう見るか」という探究のレンズ(型)を、自然と、そして頑丈に育てていくのです。
世界中の「問いのバトン」を自宅にいながら集めたら、次はいよいよ最終ステップ。手に入れた型を武器にして、子どもたちが自らの手で「自分だけの表現」へと踏み出す、アウトプットの伴走法についてお話しします。
(次回へ続く)
ソファーの上のルーブル美術館、『Google Arts & Culture』
今回のデジタル探究で大活躍した、Google提供の無料のプラットフォーム「Google Arts & Culture(グーグル・アーツ・アンド・カルチャー)」について、改めて紹介します。
これは単なる絵画の画像検索ツールではありません。世界中の数千もの美術館や博物館と提携し、国宝級の名画から歴史的な遺物までを、信じられないほどの高解像度(ギガピクセル)でデジタルアーカイブ化している、いわば「インターネット上の巨大な美の殿堂」です。
特別なアプリのダウンロードや会員登録も不要。ソファーでくつろぎながら、あるいはお子様と一緒にタブレットを囲みながら、ブラウザ一つで世界中のアートの「問い」に触れることができます。
皆さんもぜひ、この魔法の虫眼鏡を手に入れ、家族や仲間と、新しい探究の旅に出かけてみてください。
🌐 Google Arts & Culture (完全無料)
https://artsandculture.google.com/
10歳からわかる「まとめ」
パソコンやタブレットは、むかしの天才たちに会える「魔法の虫眼鏡」!
「パソコンやタブレットを使うのって、なんだかむずかしそう」って身構えちゃう大人は多いよね。でも本当は、ソファーにごろーんと寝っ転がりながら使える、すっごく楽しい「魔法の虫眼鏡」なんだ。
この虫眼鏡を使って、天才画家ゴッホの絵を思いっきり大きく拡大してみると、教科書には載っていない信じられない秘密が見えてくるんだよ。
なんと、ゴッホがぬった絵の具のあいだから、「本物の植物の花粉(かふん)」が見つかったんだって!これって、ゴッホが部屋の中じゃなくて、本当の外の風の中で、汗をかきながら絵を描いていたっていう証拠(しょうこ)なんだ。
それから、ゴッホが描いたむらさき色の花が、じつは長い時間がたって、少しずつ「色が変わっちゃった(あせてしまった)」ことも科学でわかったんだ。
むかしはどんな色だったんだろう?って、まるで探偵(たんてい)みたいに推理してみたくなっちゃうよね。
お父さんやお母さんも、美術の先生みたいに「正しい答え」を知っているわけじゃない。だからこそ、みんなと一緒にこの魔法の虫眼鏡をのぞいて、「うわ、これすごい!」って一緒にびっくりしたいんだ。
むかしの天才たちが残したヒントを見つけて、きみならどんな「次の質問」を考えてみる?
*本原稿は、ジェミ兄さんとの対話を基に構成されました。
※この記事では、ICTを通した手軽な、芸術との触れ合い方を紹介しました。

ジャートム株式会社 代表取締役
学校・企業・自治体、あらゆる人と組織の探究実践をサポート。
Inquiring Mind Saves the Planet. 探究心が地球を救う。
