
※本稿では、スキー型、タンデム型、ラリー型、それぞれの「サポート」の特徴と違いについて考察します。
「伴走」の形は、一つではない
ここまで私達は、ガイドロープで繋がったマラソンのように、常に隣で走り続ける姿を「伴走」の基本として考えてきました。しかし、パラスポーツの世界には、その競技の特性に応じた多様なサポートの形が存在します。
今回は、サポートのあり方を「スキー型」「タンデム型」、そして一見すると伴走とは異なる「ラリー型」の順に紐解きながら、伴走の先にある「アダプティッド(適応)」の精神について考えていきましょう。
1. 「スキー型」: 声を道標にする「非接触」の伴走
まず、マラソンのガイドロープに近い形でありながら、より高度な情報伝達を必要とするのが、視覚障害スキーに見られる「スキー型」です。この形態では、伴走者は走者の少し前(あるいは後ろ)を滑りながら、拡声器やインカムによる「声」だけでコースを伝えます。マラソンのようにロープで物理的に繋がっているわけではありませんが、伴走者は「競技の舞台」に共に立ち、リアルタイムで危険を回避させ、進むべき道を照らします。まさに「一歩先(あるいは半歩後ろ)から未来を言語化する」伴走の王道と言えるでしょう。
2. 「タンデム型」: 動力を共有する「一体化」の伴走
次に、より密接なサポートとなるのが、二人乗り自転車の「タンデム型」です。この形態では伴走者と選手が一つのマシンを共有し、文字通り「一心同体」となってペダルを漕ぎます。
伴走者は単なるガイドではなく、エンジンの役割も果たします。二人の呼吸が完全に一致した時、一人では決して到達できない領域へと加速する。これは、子どもの探究が非常に困難なフェーズにあるとき、伴走者が動力を100%共有し、一緒に汗をかいて壁を突き破るような「共走」の姿を象徴しています。
【道具箱1】伴走者は「情報の翻訳機」であれ
スキー型やタンデム型において、伴走者が行っているのは単なる指示ではありません。まわりを取り囲む膨大な世界の情報の中から、主役が今必要としているものだけを抽出し、瞬時に伝える「同時翻訳・同時通訳」作業です。
- 解像度の調整: 「右に曲がって」ではなく「時計の1時の方向。30度」と、相手が受け取りやすい言葉に変換する。
- 優先順位の整理: 10ある情報の中から、例えば、命に関わる1つと、パフォーマンスを上げる2つだけ、のように、厳選したものを今、伝える。
この「情報の翻訳機」としての精度を高めることが、主役の脳内ノイズを減らし、純粋な探究(走行)への集中を生むのではないでしょうか。
3. 「ラリー型」: 舞台を整える「適応」の精神
そして、これら二つとは見た目は大きく異なりますが、テニスや卓球といった「ラリー型」の競技に見られるサポートというのもあります。この形態では伴走者が共に試合場に立つことはありません。コートに立つのは選手一人です。では、どこにサポートが存在するのでしょうか。それこそが「アダプティッド(適応)」の精神です。
- 車いすテニス: 車いすでの移動時間を考慮し、「ボールのバウンドを2回まで許す」というルール変更。
- サウンドテーブルテニス: 視覚障害のハンディキャップを補うため、金属球が入った、音が出るボールを転がして使い、ラバーのないラケットで打ち返すという、プレースタイルの再構築。
これらは、伴走者が「隣で走る」代わりに、「その子が主役として輝けるように、ルール側を調整する」というアプローチです。これは厳密な意味での伴走(共走)を超えた、さらにクリエイティブなサポートの形と言えるのではないでしょうか。
【道具箱2】伴走者は「環境のアジャスター」であれ
ラリー型のようなサポートにおいて、伴走者の実力は「アジャスター(調節つまみ)」を回すセンスに現れます。
- 「難易度」のつまみ: 難しすぎて心が折れないよう、かつ簡単すぎて飽きないよう、ルールの壁を数センチ、数ミリ単位で上下させる。
- 「時間」のつまみ: 納得いくまで考えられるよう、あるいは適度な緊張感が保てるよう、制限時間を伸縮させる。
「できない」と諦めさせてしまうのではなく、つまみを回して「これならできる!」という参加ラインを主役の目の前に引き寄せること。これこそがアダプティッドの本質といえるでしょう。
「参加ライン」に立たせるためのクリエイティビティ
大人の役割は、単に隣を走ることだけではありません。ある時は「スキー型」のように声を届け、ある時は「タンデム型」のように共に力を尽くす。そして、もしその子が一人で舞台に立ちたいと願うなら、「ラリー型」のようにルールや環境をアダプト(適応)させ、その子が「参加ライン」に立てるように舞台を整えます。
「どうすれば、この子がこの競技(探究)を心から楽しめるだろうか?」
そう問い続け、ルールや道具を柔軟に変えていくクリエイティビティこそが、最高のアダプティッド・スポーツ、ひいては最高の教育的伴走を生むのではないでしょうか。
スポーツの魅力は「教え、教わる」コミュニケーション
どんな形態であっても、根底にあるのはコミュニケーションです。ルールを調整する過程で、大人は子どもから「今のルールで遊びやすい?」「もっとどうしたい?」と尋ねます。そして、「こうすると、もっとやりやすくなる」「もう少しこうしてほしい」と希望やアイデアを聞きます。この「教え、教えられる」という双方向のやり取りがあるからこそ、スポーツ(探究)は単なる活動を超えた「魂の交流」になるのではないでしょうか。
次回は、ここからまた進んで、良かれと思って差し出す「サポート」が、時に逆効果を生んでしまうこともあるという、「『悪い伴走』の正体」について考えていきます。
10歳からわかる「まとめ」
・3つの「助け方」のちがい。「いっしょにすべる(スキー型)」、「いっしょにこぐ(タンデム型)」、そして「ルールを工夫する(ラリー型)」。どれが一番ワクワクするかな?
・伴走者は「ほんやく機」。むずかしい世界の話を、相手にわかりやすい言葉に直して伝えてあげるのが、かっこいい伴走者
・「ラリー型」は、舞台を整える魔法。試合場に立つのは選手一人。でも、周りがルールを変えてくれるから、みんなが主役になれる
・「アダプティッド」ってなんだろう?「できないこと」を数えるのではなくて、「どうすれば一緒にできるか」を考えてルールを変えること。みんなが平等に参加できるルールがあれば、世界はもっと楽しくなる
*本原稿は、ジェミ兄さんとの対話を基に構成されました。
※本稿では、スキー型、タンデム型、ラリー型、それぞれの「サポート」の特徴と違いについて考察しました。

ジャートム株式会社 代表取締役
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