2023年「探究雑感」

アドバイザーかサポーターか

学校で探究の手伝いをする際、肩書きは「探究アドバイザー」が多いでしょうか。ただ、先生に対してアドバイスすることはありえますが、生徒たちに対して行うのがアドバイスでいいのかは考えものです。少なくとも、助言はまだしも忠告するつもりで生徒と接するのは間違いです。生徒との接し方で大切なのは、生徒の自主性を重んじ、問い合わせがあってから生徒の悩みや迷いの整理の手伝いをするという意識です。先まわりは避けるべきで、我慢や忍耐が求められる役どころといえます。

意識はサポーター、行うことはファシリテーター、結果としてジェネレーター(= あらゆることを面白がり、好奇心を持って取り組んで生徒を刺激し、何かを生成させる人)になっているのが理想でしょう。

【参照】 第40回「探究対話の進め方」

サポーターと教師の連携

アドバイスしなくてはとの意識が強すぎ、何でも教えたがる大人を時々見かけます。ビジネスで成功する秘訣を伝える感覚で語る人もいますが、探究はビジネスではありません。ビジネススクールで習うような手法やフレームワークを教えることが求められていることなのかどうかは、学校の方針によります。先生とよく相談してからにするのがよいでしょう。先生側にも、協力を依頼する大人に対し、「こういう感じの(感じで)サポートをお願いします」がきちんと指示できるようにしておく準備が求められています。

大人の充足感・満足感と子ども達のそれが一致しないのはよくないことです。もちろん、優先すべきは子ども達の「腹落ち感」です。子ども達自身が、次にやるべきことをしっかり認識できるまで大人達は連携し合ってサポートする必要があります。

殻を破り、自分と付き合う

生成という意味で意識したいのは生徒たちに自分の殻を破ってもらいたいという気持ちで関わることです。探究発表会で取り組みの背景を説明する際、「何々に悩んでいる人が多いので」「何々が今問題になっているので」ということから入る生徒がまだまだ多いと感じます。人を悩ませる事柄や社会問題は他にも多くあるはずです。その中でわざわざそのテーマを選んだ理由があるはずなのに、そのことを吐露しようとしないのです。恥ずかしさが優っているのはわかります。しかし、他人事(ひとごと)を自分事(わがこと)にグッと近づけてこないと探究はできません。テーマと「私」の関係をよく考えてもらう作業は、サポート過程の中にぜひ織り込みたいものです。

探究は自分探究であると私は言い続けてきましたが、先日、荒瀬克己氏は「探究は自分と付き合うこと」と更に一歩突っ込んだ言い方をされました。生徒たちには、己を知り、殻を破り、本音で自分と付き合って欲しいと思います。

相談会・報告会の時期とやり方

探究サポーターが最も活躍すべきは相談会です。生徒たちに「誰かに相談したいこと」が出来たタイミングで彼らの前に現れることが重要です。学校が定めた年間スケジュールの相談日に、生徒の準備がまだ間に合っていないことはよくあります。現場に呼ばれた大人たちが「何かないの?何でも聞いていいよ」というのはおかしな状況です。今はオンラインでも簡単につながることができる時代です。学校の規則を守った上で、個別日程でのオンライン相談会を実施すれば良いと感じます。その際、生徒側から先に相談内容を知らされることがあれば、こちらは準備をしたり最適な人材を手配したりすることができます。

報告会については、中間報告会を最も大切にしたいと思います。最終報告会に相談することはあまりないでしょうから、そこはいっそのこと、保護者や後輩、また将来の入学予定者に対して成果を発表する会にしてしまえば良いと感じます。

中間発表会は、ある程度まとまっているものが見られる会ですから、サポーターも力の発揮し甲斐があります。反対にいえば、ある程度まとまったものがないのに中間発表会を開いても意味がありません。そこで、中間発表会は一度でなく年間に何度か機会を作り、生徒が自分はどこでやるかを決められるようにすると良いと思います。

中間発表会の目的に「資金集め」を

探究の活動資金集めにクラウドファンディングを利用する生徒がいます。生徒がプロジェクトの完成を目指して自身で資金集めを考えることには賛成です。その過程を通して学べることがたくさんあると思うからです。しかし、同時に、そこにあまり手間をかけさせたくはありません。また、優遇があっても手数料をいくらか取られてしまうというのも勿体無い話です。そこで、中間発表会のやり方を少し工夫してはどうかと考えます。

中間発表会に集まった大人が、話に納得して協力したいと思ったら、そこに協力金を直接置いていく形式にするのです。精神はまさにクラウドファンディング(Crowd Funding)です。しかも、資金提供者は目の前で繰り広げられるピッチを見て協力するかどうか、いくら協力するかを決められます。生徒たちは、少しでも多くの協力金を集めようと、質問者の疑問点にしっかり答えようとします。インターネット上なら、もっと不特定多数の人から資金が集められそうな錯覚に陥るかもしれません。しかし、目の前の人すら説得できないなら、それはおそらく無理でしょう。むしろ、ライブで交渉できる利点をフルに活用できる方に、集金回収力の軍配は上がるはずです。

例えば、入場料を一人千円ずついただき、交換で100円チケット10枚を渡します。10チームの発表を見た大人が各チームにチケットを1枚ずつ渡すのか、あるチームに10枚まとめて渡すのかはチームの熱意次第です。

資金集めを必要としない探究プロジェクトもあります。その場合は、この「投げ銭方式」の資金集めを実施する必要はありません。資金集めを行うチームと行わないチームを分ける意味でも、中間発表会は何度かに分けて機会を作るのがよいでしょうか。

先生の探究

先生が自身で探究に取り組む姿を、最近益々多く見かけるようになりました。素晴らしいことだと感じます。「やってみる」は「わかる」への必須ステップです。実践が伴う理論は重みが違います。「企業ではこうやっている」を企業体験のない先生が口にするのには無理があります。「やっているらしい」「やっているはず」と段々トーンが落ちていくことでしょう。テンプレートやフレームワークにこだわり過ぎたり、カリキュラムをガチガチに組みそうになったりするのは、対話の価値をまだ少し軽く見過ぎているからのように感じます。探究は授業ではありません。年間計画を立てるにあたっても、知識の伝達を中心に置く授業のカリキュラムを組むのとは異なります。予定調和に向けた誘導では全てがぶち壊しになります。探究を自身で体験した先生なら、それが実感できると思います。

先・元を知る、先・元も動く

中学の先生から「高校の探究学習・探究活動のことを知りたい」と言われることが増えてきました。高校でやることを知り、それを中学でのカリキュラム計画に活かしたいという考えのようです。素晴らしいことです。子ども達を送り出す社会のことを知らずに教育にあたる教師は無責任だとの主旨の発言を戸田市の戸ヶ崎教育長はよくされます。社会の前に、学校教育の中にも順番があり次があります。一つ前、一つ後をお互いが意識し連携し合うべきでしょう。

一方、最近、企業研修等で話をする際には「今の生徒は高校でこんなことをやっていますよ」となるべく紹介するようにしています。探究心旺盛な新入社員が入ってきた際、迎える側とのギャップが大きすぎるとお互いに不幸が起こり得るからです。そういう意味で、先ほどの先生と同じように企業人にも今後は探究体験・探究実践が必要となりそうです。

10歳からわかる「まとめ」

・探究に関わる大人は、サポーターであるという意識を大切に持っていたい。サポートの相手は生徒であることも先生であることもある。先生とは上手な連携が必要

・探究は自分と付き合うこと。自分の殻を破り、自身をさらけ出せるほど、充実した探究につながる

・中間発表会は、「ピッチ式・投げ銭方式」で必要な資金の獲得につながるやり方を考えても面白いのではないか

・先生自身が探究をすること、中学の先生が高校探究について知ること、企業が探究について知ることが、探究を「孤立」させず、社会に定着させる意味では大切

以下、余談です。

みっつぁんの探究サポートbot

先日来、私の代わりに生徒からの問い掛けに応じ、反対に生徒への問い掛けもしてくれるChatGPT4 botのチューニングを進めていますが、まずまずの出来に仕上がりつつあると感じています。このような生成AIが普及してくると、人間の探究サポーターが必要なくなる日が来るのも、もうすぐですね。果たして、2024年は、この連載にどんなことを書いているでしょうか。私自身が楽しみです。

*2024年1月以降、探究サポートbotは「ジャートム探究サポーター」として公開されています。

第42回「そもそも思考での地域探究」を読む