内なる問いから「わくわく」「もやもや」を探す

市場調査重視から、内なる問いの重視へ

ビジネスで、何をどう作ればより売れるかの解を消費者のニーズや評価に求めようとして実施されるのが市場調査です。まだまだ世の中にモノが充分でなく、それを満たすため大量生産・大量消費方式でモノをどんどん供給していた時代には、特に有効な手法でした。

これからの時代、モノの充足とともに、環境やサステナビリティ重視に価値観がシフトしてくると、新製造よりも既存製品の再利用に関心が向き、新製品についても、直しながら長く愛用できる点が好まれることになります。古着を活用した服のように、いわゆる一点物を目にすることもますます増えるでしょう。

このような状況においては、誰かが欲しがるものを作ろうとするより、自分が作りたいものを作るというように発想を転換することも大切になります。自身の「内面から湧き出る問い」を元にコトを進めていくわけです。

どんな人にも「内なる問い」はある

自身の内面を「脳内」と表現しました。心の内でもあるでしょうが、私の前著の帯で検索に注目が集まったため、それを活かすなら、脳内検索®︎がしっくりくると感じたためです。

脳内検索®︎の商標登録は2021年11月です。その半年前に出願しているわけですが、私が独立開業した2018年には既に、「内なる問い」を重視しなければ、この先うまく進まなくなるのではと感じる場面に出くわすことが増えてきていました。

起業を考える人に向けたリサーチ講座を、Startup Hub Tokyoで複数回実施していた時のことです。

「皆さんの頭の中に、取り組みたい事業や作りたい製品が具体的にあればあるほどリサーチは役に立ちます」と私は説明するのですが、参加者の中には「今の会社をもうすぐ辞めるのだが、辞めた後に自分で何を始めるかはまだ全然決めていない」という人がいました。毎回必ずいます。それも複数いたのです。

「皆さんの頭の中の仮説を見える化・聞こえる化・嗅げる化・味わえる化・触れられる化し、それを、こんな人に使ってもらいたいとあなたが思う人達から、建設的な視点で評価してもらう。その声を製品やサービスの案の改良に役立てるのがリサーチです」と私が話したところで、やりたいことがない人にとってはちんぷんかんぷんです。

セミナーの最後に「ここに来るのが、どうやらまだ少し早かったみたいです」と言い残し、しょんぼりと立ち去る人々を毎回見送ることになる度に、私もいつしか罪悪感さえ抱き始めました。と同時に、そういう人達に何か共通点はないかと考えるようにもなりました。そして、気付いたのが、その人達は皆「今までの自分をほぼ全否定し、あたかも生まれ変わって、何かこれまでとはまったく別のことを新しく始めたい」と望んでいるようだということでした。

私の見立てが正解だったかどうかはわかりません。でも、それが原因の「しょんぼり」になら、解決の手はあるよと呼び掛けたいとも思いました。それが脳内検索®︎の手法整理に繋がっています。メッセージは「生まれ変わらなくても大丈夫、必ず、あなたの『内』に答えは見つかる」です。

「わくわく」と「もやもや」を探す

何のために脳内を検索するのか。それは、今より以前に、興味を持っていたこと・好きだったこと・夢中になっていたことを思い出すためです。あるいは、今より以前に、納得がいかなかったこと・不平不満や疑問を感じていたことを思い出すためです。

前者を「わくわく」、後者を「もやもや」と呼びますが、もしかしたら、「もやもや」については、わざわざ思い出そうとしなくても、今なおその思いを引きずっていて簡単に書き出せてしまうかもしれません。

一方、「わくわく」については、他にもっと関心を引くものが見つかると、そちらに気を取られいつしか忘れ去ってしまうこともありえます。それを成長と呼ぶのかもしれませんが、脳内検索®︎は、その「成長」以前の自分、自分の原点すなわちレガシーを客観的に見つめに行く作業、メタ認知作業とも呼べるものです。

ヒントは、レッジョ・エミリア教育

イタリアのレッジョ・エミリアという土地を起源とする独特の教育があります。世界最高の幼児教育メソッドとも呼ばれ、Google や Disney が本社併設の附属幼稚園に導入したこともあって注目を集めています。ここでは幼児が自ら取り組むプロジェクトを通して社会性が育てられるそうです。

そして、私が注目したもう一つの特徴がドキュメンテーションです。幼児の行動の様子、先生に質問されて答えたその時の気持ち、プロジェクト途中の様子がしっかり記録に残されるそうです。その時々の気持ちを表す自分の言葉を何年も経ってから振り返ることができるという、そんな素晴らしい財産をここの子ども達は手にします。

残念ながらそれを有しない私たちは、それに代わるものを何に求めたら良いでしょうか。おそらく自分で辿(たど)る記憶の他にはないでしょう。

能動的情報資源(AIR)を活用して記憶を辿る

昔の記憶を辿ろうとする際、人はまず、思い出すヒントがどこかにないかを探しに行くものです。1週間前の夕食のおかずを思い出すような場合は、手帳を見ながら「あぁ、午後一の会議準備に気を取られ昼食を抜いてしまった日か。お腹ぺこぺこで帰宅して・・・」などと呟いているうちに、その晩に何を食べたか思い出すことができるでしょう。このように、記憶を呼び覚ますのに有効な働きをする情報を Active Information Resource と呼びます。この AIR となるキーワードを手動で年表に書き出すことから脳内検索®︎の準備が始まります。

ちなみにインターネット検索では、Web Crawler と呼ばれる、いわば「泳者」(註: クロールは泳法のクロールと同じ)がリンクを辿って世界中の Websites を巡回し、Web ページ上の情報を複製・保存します。それが検索エンジンのデータベースに追加されるので、あなたが検索窓に、ある言葉を入力して検索ボタンを押すと、その言葉に関連するページへのリンクが表示されるという仕組みです。

脳内検索®︎の場合は、書き出されたキーワードを自身で俯瞰(ふかん)し、当時の出来事やその時の自分の気持ちなどを呼び起こします。ここで特に大切になるのが「情けへの報せ」としての情報です。あなたの感情を虜にしていたものは何だったのか、そして何故だったのかに思いを馳せます。

伏線の回収をしないのはもったいない

そうすると、子どもの頃あんなに夢中になっていたのに何故か、そして、いつしか忘れてしまっていたモノやコトがあるのに気付くでしょう。それが見つかったら、自分に問いかけます。
こんまりさん流に言うなら、「あなたは今もそのことに『ときめく』か」です。そして、あなたが ”Spark Joy” を感じたなら、それは、あなたが敷いた伏線だったと言えるのではないでしょうか。であるなら、その伏線を回収せずにあなたの人生ドラマを終わらせるのは、実に何とも勿体ない話です。

次週は、脳内検索®︎の詳しい手順を改めてご紹介します。

10歳からわかる「まとめ」

・世の中の人が欲しがっているものを調べ、それを作るのも一つ。自分が欲しいものを形にするのも一つ。これからはきっと、同じもので全員が満足することは少なくなると予想される。自分だけの何か、自分流に加工した何かが、より求められそう
・自分が本当に欲しいと思っているものは何だろうか。小さい頃に特に楽しかったこと・わくわくしたことや、反対に全然面白くなかったこと・もやもやしたことを思い出してみよう。今でもそれにもやもやするなら、その問題は、あなたの解決を待っている
・自分でうまく思い出せない時は、まわりの人(家族や幼稚園の時の先生など)に聞いてみよう。「小さい時、私はどんなことが好きだった?」「どんなことが嫌いだった?」教えてもらったことで思い出せたことがあれば、それについてよく考えてみよう
・そうやって、自分が来たところがわかると、行きたいところもわかってくる

【旧:WEBマガジン・作家たちの電脳書斎 デジタルデン2023年5月24日公式掲載原稿 現:作家たちの電脳書斎デジタルデン 出版事業部 (https://digi-den.net/)】

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