「自分年表」から本音を探す

温故知新と融知創新

2つある脳内検索®︎の目的をそれぞれ一言で表現すると、一つ目が温故知新、二つ目が融知創新です。

温故知新は、記憶を呼び覚まし、それを今のあなたの新しい視点から見つめ直す「現在化」作業。融知創新は、そのあなたを将来に向けてパワーアップするために、そこに何を加えたら更に良くなるかを探しに行く「未来化」作業です。

振り返りたい子ども時代の「AIR」を集める

まずは温故知新から。見出しにはAIRと書きましたが、これをエアーと呼んでしまうと空気です。温故知新は「空気を読め」というわけではなく、むしろその逆。略語が一般化しているのかも不明。私の好みも含め、ここからは正式に Active Information Resource(能動的情報資源)と呼ぶことにします。能動的情報資源は、海馬から大脳皮質に転送された長期記憶を呼び起こすのに有効な情報のことです。

記憶を思い出すヒントとして考えられる材料には、写真アルバムやビデオ、自分で描いた絵や作った工作、当時の地図やその他の記録、家族・友人・先生からの話、などがあります。これらから思い出した言葉をヒストリーに書き込んでいきます。

行動と感情は分けて書き出す

ヒストリーの項目には、「行動や性格」「感情、思い」「憧れの人・モノ」「社会の出来事」「周りの声」などがあります。書き出す際にもっとも大切なことは、「当時やっていたこと・その時の態度や性格」など外面に表れていたことと、「当時おもっていたこと・考えていたこと」など内面に隠れていたことを、しっかり分けて書くことです。前回のレッジョ・エミリア教育に関する記述を思い出してください。

前回記事「内なる問いから「わくわく」「もやもや」を探す」

ひっかかるものを見つける

書き出した中に今も惹かれる何かが見つかれば、大きな前進です。興味・関心の気持ちが湧き上がるものもあれば、「そういえば、子どもの頃はいつもこれで遊んでいたけれど一体何が面白かったのだろう」と思うもの、ただ懐かしいと感じるものもあるでしょう。あるいは、いつもがっかりさせられていたことや悔しいと感じていた気持ちを思い出すかもしれません。

深い対話に有効なバブルワーク

ヒストリーに言葉を書き出す際、昔、誰かとしたある会話のことを「今なおどうしても頭を離れない」と、改めて思い出すかもしれません。そのような時は、ぜひその会話を吐き出してみてください。

バブルシートを使って、自分と相手の言葉だけでなく、その時、自分や相手はどんなことを考えていたか、特に、相手はどんな思いでその発言をしたと思うかに思いを馳せてみてください。例えばそれが親との会話だった場合には、その親の年齢になった今なら、「きっとこういう思いがあったからだろう」などと想像が付くことがあるかもしれません。

インターネットを活用して知識をアップデート

子どもの頃に気になっていた事柄や事象、あるいは憧れの職業や欲しかった物であっても当時と今では形や中身が変わってしまっていることはよくあります。あなたが今持っているそのことに対する知識が古くなっていないか、アップデートするつもりで調べてみましょう。知識を新しくし「使える情報」に変えます。

拙著『エビデンス仕事術』の元となったのは WASEDA NEO で実施していた朝活講座ですが、それを出身地の福井で実施する際には名称を「使える情報の収集と活用」としました。このエビデンスとして使える情報をインテリジェンス(intelligence)とも呼びます。

ところで、事情は変わっていないのですが、間違ったことを教えられ諦めてしまっていたことが、よく調べてみると問題なかったということもあるかもしれません。
例えば、「虫歯があるからあなたは宇宙飛行士にはなれないわよ」と言われていたあなた。虫歯は治療してあれば大丈夫だそうですよ。間違っていた知識を正す意味でも、改めて調べてみることを省略しないでください。

変化は少しずつ起こっている

ここからは融知創新に入っていきます。

温故知新で、今の視点から子どもの頃の自分を見つめ直したあなたが次に行うべきことは、未来に向けたトレードアップ作業です。トレードアップは、あたかもわらしべ長者のように、持っている何かをそれより少し上の他の何かと交換することを指します。

融知創新はそもそも知識・知恵を融合し新しい何かを創り出すことですから、今自分が持っていない何かを外から探し出し、それを自分と融合するのでももちろん構いません。ただ、世の中、急にゼロからイチが生まれたものばかりとは思えません。そんなデジタルの動きばかりではなく、時計の針が止まらずにずっと動き続けたまま0から1を通って2に達するというアナログな動きもあることでしょう。

0から1にカチッと急に動いたように見えるのは、その間の進歩を知らなかった・追うことができていなかったからではないか。そう考えると、今持っている何かを、まず、それの最新アップデートバージョンと入れ替え、それと相性の良い組合せの相手を探す方が見つけやすいかもしれません。

その際、自分一人ではなかなか旧体の最新進化版を見つけるのは困難です。レコードがCDに代わった程度は想像がついても、ダウンロード式に変わったとなると、再生のためのハードウエアは形を変えて残っていてもソフトウェアそのものの入れ物は消失してしまっている訳ですから、そこに連続性を見出すのは素人には困難です。
未来予想を立てる時には積極的にその分野の先端を行く人の話を聞きに行きましょう。その人の目には、変化が連続性を保持した形で映っていると思えるからです。

ホンキの自分の本音を見つける

ヒストリーに書き込んだ言葉の中にきっと見つかるはずなのが、あなたにとってのキーワード群です。それらを付箋に一つずつ書き出し、それぞれの関係を探る作業を行うのが脳内検索®︎「一区切りの作業」となります。付箋の並べ替えをしながら自分との対話を繰り返します。しばらく経ってからまたやってみると、並べ替えが変わることもあります。完成形がなかなか、或いはいつまでも出来上がらないので、一区切りと呼ぶことにします。

私自身のことを振り返るなら、まさか今、大学や高校で教壇に立つことになるとは子どもの頃は全く想像もしていませんでした。大学に進んでもその気持ちだったので、教師にならなくて済むようにと教職課程を取りませんでした。間違っても教職には就かないようにと自分を制御したのです。社会経験を持たない自分が他人に何かを教えるなどというナンセンスなことをし始めないようにしたかったためです。

それが、何の因果か今、大学では講義を担当してしまっています。ただ、4年前に始めた当時から知識の伝達は最低限に留め、学生に、自ら調べ、有効そうなケースを自ら探し、それに当てはめて考えてもらうという形式は守っています。子どもの頃から知識偏重的な教育への反発が大きかったからなのですが、その原因を脳内検索®︎で突き止めた頃、学校のあり方も大きな変化を遂げていました。知識は機械に任せればよい、人間は考えることに集中しよう、となりました。そうなると、私も役に立てそうです。みんなと一緒に考えることがとても好きだからです。

脳内検索®︎の実例を目にしたい方へ

もし、この考え方の変化の過程とともに、私のプライベートの写真や素材をふんだんに取り入れた実例で、実際の脳内検索®︎のやり方を知りたいという方は、Peatix か Facebook で「たんきゅうびと」をフォローください。定期的にセミナーを開催しています。脳内検索®︎は、個人作業ではなかなか難しいものがあります。自分では気づきにくい部分を気づかせてくれるガイドがいるとスムーズに進みます。

10歳からわかる「まとめ」

・小さい頃のことを振り返る際は、自分年表を作ってみよう。言葉をその年表に書き出す時には、行動と感情は分けて書き出してみよう
・誰かとした会話のことが気になっているなら、その時の言葉をバブル(漫画のセリフの吹き出し)に書き出してみよう。その時、その言葉を発した時、相手はどんな気持ちだったか、どんな思いからその言葉を口にしたのかも合わせて想像してみよう
・その時の世の中のできごとで気になることがあれば、インターネット検索で詳しく調べてみよう。その事件が起きた理由がわかると、見方が変わることもある
・自分のことを振り返ってみると、今の自分には足りないものが見つかるかもしれない。どんなことをこれから見つけていったらいいか、身につけていったらいいか、書き出してみよう
・身につけたいものが見つかったら、それを自分のものにできるようやってみよう

【旧:WEBマガジン・作家たちの電脳書斎 デジタルデン2023年5月31日公式掲載原稿 現:作家たちの電脳書斎デジタルデン 出版事業部 (https://digi-den.net/)】

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