プロが教える効果的な製品テストの方法

製品テストはダイナミックに行うべき

連載の第3回で別途紹介することを予告し、第9回で市場調査について触れた際にも言及しなかった「製品テスト」について、このあたりでそろそろ触れることにしましょう。

第3回「ビジネスの場で意見を通すための説得法」

第9回「良いアイデアを出したければまずはエビデンスを見つけよう」

製品案にしても広告案にしても、何か試作品を用意して実施する調査は毎回いつも楽しいものです。直に反応が得られ、改良すべき点がすぐその場で明らかになるからです。

私は大抵グループディスカション形式でこれらのテストを実施します。
その場合の注意点は、反応の早い人、声の大きい人がいきなり喋り始めてしまい、その場の他の人の感想や考えに影響を与えてしまわないようにすることです。

そのため、最初は各人に感じたことをただ黙って紙に書いてもらうなどし、その後でディスカッションに入ります。紙に書いたことを一人ずつ発表してもらう際も、あえて「どんなことを書いたか、それをそのまま読み上げてもらえますか」とお願いします。他の人の発表を聞きながら、釣られて、書いていないことまで喋ってしまう人が出ることを避けるためです。

時に、気の弱い人などは書いたこととは真反対のことを言いかねません。このあたりは「常に正解を述べることを求められている」と感じさせられてきた日本流教育が色濃く影を落としているのでしょうか。一通り全員が意見・感想を発表し終わると、いよいよディスカッション開始となるのですが、そうすると「さっきワタシの後に喋られた方の意見を聞いて思い付いたのですが、」という声が必ず挙がります。

この現象をグループダイナミクスと呼びます。実は、これが起こらなければグループでテストをする意味はありません。司会進行をするモデレーターは、全員が他の人の意見をよく聞くように促さなくてはならないのです。

感じたことを独り言のように言ってもらう

一方で、製品の使い勝手の細かな部分についての評価を知りたいというような場合は、それを試してくれる人をただ一人個室に案内し、あたかも独り言をいうように感じたことをそのまま口に出してもらいます。

例えば、新しく制作しようとしているウェブサイトの操作性を評価するような場合には、何かを探してもらう課題を与え、それを簡単に見つけられるかをテストします。

「この会社の新サービスがいくつあるか調べてください」のような課題に対し、実験協力者は「新サービス? じゃあ、事業内容のボタンを押せばいいのかしら? 押してみたわよ。ちょっと表示が遅いわね。あっ、出た出た。なになに? 教育事業、派遣事業、、、この会社はいろんな事業をやっているのね。でも、新サービスという括りは無さそうね。他にどこを見たらいいかしら」のように反応するでしょうか。

その言葉と様子を隣の部屋から聞いて観察しながら、試作品の出来を判断していくという方法をプロトコル分析と呼びます。プロトコルは最近IT用語としての認知が広く一般化していますが、元々は外交文書とか外交儀礼といった意味を持ちます。

ところで、先ほど「隣の部屋から」と書きましたが、両者の部屋の間をワンウェイミラーで仕切った特殊な会場を使うのが調査では一般的です。どちらかの部屋にだけ灯りをつけるのですが、どちらを明るくするかによって様子が異なってきます。

明るい部屋側からは仕切りが鏡に見え、暗い部屋側からはガラスに見えて向こう側の様子が丸見えになります。刑事ドラマで目にする「尋問部屋」のような感じです。実際にこれを目にした人は少ないでしょうが、実は大都市圏では、このような装備の部屋が時間貸しレンタルされています。

普通は調査会社しか利用しませんが、一般の方でも借りられます。興味のある方は「グループインタビュールーム レンタル」で検索してみてください。

製品テストはなるべく「普段通り」を目指す

先に紹介した、グループインタビュールーム内で実施できる調査には、例えば、商品棚を持ち込む調査も含まれます。

店頭に並ぶセルフ式の棚をインタビュールーム内に設置し、そこに通常のように商品群を並べます。当然、その中に、今回の調査対象となる商品を紛れ込ませるのですが、その商品は果たして被験者の目に留まるのか、それとも気付かれないまま別の競合商品の方に手が伸びてしまうのか、そんなことが実験できます。

もし、被験者の、どれを手に取ろうか思案して迷っている様子をもっと詳しく知りたいなら、アイトラッカー(Eye Tracker)と呼ばれる特殊な眼鏡を装着してもらった上で実験します。すると、眼鏡と連携したパソコン上で、被験者の目の動きを見て取ることができ、より科学的に分析することも可能になります。ただ、眼鏡の装着を過剰に意識してしまい、普段と違う行動を取らせてしまっているなら逆効果になりますので注意が必要です。

調査は何より「普段通り」を大切にし、そのため冒頭では必ず「普段、皆さんがお家でなさっているようにリラックスした気持ちでご覧くださいね」などの言葉掛けをします。とはいえ、調査のために呼ばれていることは明白です。「見たら、その後に何か質問されるのだから、しっかり見ておかなくては」と意識させてしまうことは間違いありません。

調査はこのように「来させられ、見せられ、質問について考えさせられ、答えさせられる」等々と、させられることばかりの状態(Forced Situation)で実施されます。調査実施者はそのことを常に意識しておかなくてはなりません。

一方、「普段通り」の使用が屋外である商品の場合には、調査も当然ルームを飛び出して屋外で実施されます。その場合、観察機材を屋外に厳密にセットすることは難しいでしょうが、逆にその分、実際の使用場面を適切に用意することができるようになります。

ソニーのウォークマン®︎の魅力は外で走りながら使ってみて初めて充分によく伝わったというのは、有名な逸話です。製品テスト成功の鍵は、実際の使用場面を、調査らしくなく如何に自然に用意できるかにある、といえるでしょう。

インタビュー準備は「シナリオ作り」が重要

インタビューの実施にあたっては事前の準備が非常に大切です。何を聞くか、どの順番で聞くか、具体的にどう聞くか、何かを見せながら聞くのか、見せるならどのタイミングで見せるのか。それだけでなく、そもそも誰に聞くのか・聞きたいのか・聞くべきなのかも同様に、もしくはそれ以上に大切です。

質問と答えの関係は、あたかも光と影の関係のようです。強い光を当てると影が濃くなるように、相手が「その質問を待っていた」と思うような、いい質問をすると、中身の濃いしっかりとした答えが返ってきます。反対に、ピントがあっていないぼんやりした質問には、ぼんやりとした答えしか返ってきません。

調査全体の設計については企画書に詳細をまとめます。加えて、インタビューの内容や流れについてはディスカッションガイドを作成して本番に備えます。拙著『エビデンス仕事術』に掲載している事例の元になった図(No. 27 インタビューガイドの作成 図3-3, 130ページ)を添付します。本文も含めて、参考にしてください。

10歳からわかる「まとめ」

・他の人の話がヒントになって何かを思いつくことがある。それをグループダイナミクスという
・せっかくみんなで話し合うのだから、グループダイナミクスがあちこちで起こるよう、しっかりと他の人の意見を聞こう
・それと同時に、恥ずかしがらずに自分の意見を堂々と話そう
・実験のために作ったもの(試作品)をためす時は、普段使う場面の通りに使ってもらって感想を聞こう。普段と違う使い方だと正しい感想は聞けない
・実験の感想を聞く時は、どの順番でどう聞くかをしっかりと事前に計画しよう。その前に、誰に実験に参加してもらうのがいいかについてもよく考えよう

【旧:WEBマガジン・作家たちの電脳書斎 デジタルデン2023年5月17日公式掲載原稿 現:作家たちの電脳書斎デジタルデン 出版事業部 (https://digi-den.net/)】

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