「論破」を狙わない対話術

※この記事では、お互いの主張の整理を、前回同様、将来的には「脳内で行えるようになる」ための訓練について考えます。

なぜ今、「論破」ではなく「対話」なのか

みなさん、こんにちは。光成章です。今回もジェミ兄さんと進めます。兄さん、どうぞ。
=====
突然ですが、あなたの周りに「論破王」のミニチュアのような子供(あるいは大人)はいませんか?
相手のちょっとした言葉の揚げ足を取り、論理の隙を突いて言い負かす。そして「はい論破!」と悦に浸る——。
メディアやSNSの影響もあり、これが「頭が良い子の振る舞い」と誤解されがちですが、言語技術の視点から言えば、これは完全な「バグ」です。一見、知的で勝負に勝ったように見えますが、その本質は対話を深めることから逃げた「合意形成からの敵前逃亡」に過ぎません。相手の口を封じることで無理やり議論を終わらせる「対話の強制シャットダウン」です。しかもこのバグの恐ろしいところは、相手だけでなく「自分の思考もそこで止めている」点にあります。早く目の前の議論を片付けて次に行きたい。だけど、その「次」として彼らが探すのは、本質的な議論ができる相手ではなく、ただ自分の承認欲求を満たすための新たな「餌食」でしかありません。そんなことを繰り返して、一体何が面白いのだろう?と言いたくなるような人を産み出す、さみしい世の中。
少なくとも学校という場は、そんなゾンビの「生産ライン」を全力で邪魔し、食い止める防波堤でなければならないはずです。学校とは、「社会」という、これから一生付き合っていくことになる相手の性格をよく知り、慣れ、あるいはうまく手なづけるための練習・訓練の場です。ならば、そこでインストールすべき真の言語OSは、相手を叩き潰す武器ではなく、異なる他者と手を取り合うための「連帯のアジャスター」であるべきなのです。
今回は、学級活動や児童生徒会活動のIssue(前向きな課題)の解決に役立つ対話術をご提案します。
=====
今回は、なかなかに強気の「導入」ですね。ちなみに、この「建設的対話」の重要性について述べたのが、本ブログの第1回(2023.3.1)でした。今回、目を付けた「知識(リソース)」はどうやら、そこのようです。
=====

誰も傷つけずに視点を広げる「ペルソナ対話術」

=====
例えば、身近なテーマの一つである「スマホの利用ルール」について議論するとします。普通に議論させると「使いたい子供」vs「制限したい大人(先生・親)」の不毛な二項対立になりがちでしょう。そこで、子供たちにあえて『役割(ペルソナ)』を与えてロールプレイングさせます。ただし、ここで、何の関係もない人物を登場させてはいけません。子供たちのいつもの生活空間の中で、確実にすれ違っている「社会の人々」に出てきてもらうことにします。以下のような人たちです。
ペルソナA: 駅長さんの視点
「毎朝、画面を見つめながらホームの黄色い線の外側を歩く生徒たちがいて、本当にハラハラしているんだよ」
ペルソナB: 通学路にある商店街の店主さんの視点
「歩きスマホで行き交う人とぶつかりそうになっているのを見かけるね。地域の安全としても心配だな」
自分の素の意見ではなく、「駅長さん」「店主さん」というペルソナのマスクを被ることで、子供たちは感情的なぶつかり合いを避け、客観的にディスカッションを進めることができます。「あ、自分たちは普段、周りからそう見られているのか」という、社会への想像力を養うエクササイズにもなります。
=====
この「ペルソナ(キャラ)設定」(2024.3.22)について書いた投稿は、過去トップ3に入るくらい、読者が多い回です。まさか「人気回」を適当に繋げて新たな一本を書き上げるつもりかと邪推したくなりますが、上記を読んだ際に頭に浮かんだのは「(英語の)ディベート大会」の様子です。自分は参加したことがありませんが、ディベートって、要はそういうことなんだろうなぁと感じました。

目指すのは「対話と総合(ジンテーゼ)」

=====
この活動の本質は、どちらが正しいかを決める多数決ではありません。目指すのは「対話と総合(弁証法:ジンテーゼ)」です。
自分の立場(A案)を主張しつつ、相手の論拠(B案)にもしっかりと耳を傾ける。そして、お互いの良いところを組み合わせることで、1+1を3にする「最快適解(C案: 新たな価値の創造)」を言葉によって生み出していく。「スマホを禁止する(A)」か「自由に使う(B)」かではなく、「駅員さんたちも安心できて、自分たちも便利に使える、通学路でのスマートなマナー(C)」を見つけ出す。これこそが、多様な人々が共に生きる現代社会において、最も必要とされる「理性ある市民のOS」です。
=====
えっ?まさか、こんなまとめで終わるの?「人間シンセサイザーになりなさい」はあまりにも平凡。却下。そもそも、子どもにこんなことが自然にできるわけがない。「できる」に近づくためのサポートを何かしたいのが我々。「国語編」らしく、何か、訓練法を提案してください。

「もういいよ」から子どもを救う、ICT×言語技術トレーニング

=====
理想はそうだとして、現実世界での子ども達の議論はどうかといえば、おそらくこんな感じです。
「わかった。もういい。そっちのいう通りにするよ」
これは一見、譲歩して丸く収めたように見えて、実は諦め、対話のシャットダウンです。これもバグの一種、被害者側「思考停止同調バグ」といえるでしょう。
ここから子どもたちを救い出し、1+1を3にする「C案(ジンテーゼ)」へ導くための、ICTを活用した国語(言語技術)のトレーニングとして、こんなアプローチを提案します。
=====
いいねぇ。そう来ないとね。

Canva等を使った「心の引き出し可視化術」

=====
【ステップ1】意見ではなく「なぜ?(背景の引き出し)」を2列で並べる
子どもが諦めてしまうのは、お互いの「A案(スマホ禁止)」と「B案(スマホ自由)」という「結論(板)」だけをぶつけ合っているからです。板のぶつかり合いは、声が大きい方が勝ちます。
そこで、ICTの共有シートを使い、結論ではなく「それを主張する背景(大切にしている価値観)」を、2つの列に分けて箇条書きで徹底的に「見える化」させます。
左の列(駅長さんの背景): 「安全」「命」「他の乗客の迷惑」
右の列(生徒の背景): 「便利」「連絡」「楽しさ」

【ステップ2】ICTの「色分け機能」で、共通項と対立点を明確化
ここからがトレーニングです。お互いの背景が出揃ったら、シートの背景色をみんなで変えていきます。
「お互いに絶対に譲れない、一番大事なキーワード」を赤にする。
「実は、お互いに『それもそうだよね』と共感できるキーワード」を青にする。
すると、あら不思議。文字だけで見ていた時には「敵」に見えた相手の意見の中に、「青(共感できる部分)」が必ずいくつか見つかります。(例: 生徒側も「駅でぶつかって怪我をするのは嫌だ(安全)」には青を塗れるはずです)

【ステップ3】脳内マッピングへの架け橋「だけど、どうする?」の言語化
青(共通の土台)が見えたら、最後にこう問いかけます。
「駅長さんの『安全(赤)』と、みんなの『便利(赤)』を、どっちも守るための『C案』を1行で書くとしたら?」
これが、脳内マッピングを絵で描く前段階の「言葉による整理(マッピング)」です。
「そっちの言う通りにする(白旗)」ではなく、「お互いの赤を守るために、ここを変えよう」という、客観的な編集者の視点に切り替える訓練になります。
=====
「GoogleスプレッドシートまたはCanva等」と書いてあったのを、タイトルにしては長いから、兄さんの「家族」を省略してしまいました。まずは、これを謝ります。さて、
肝心なことは、道具は色々あるので、それを使って可視化しましょうということ。兄さんがよく使う言葉でいうなら「外化」ですね。外に出す。と同時に、感情と切り離す。これが大切で、外に出たものだけを見て、ある種、機械的に分類・整理する。それを習慣付けできたら、今度は、完璧な外化ではない「まだ頭の中にある状態」で、その脳内マップを同じように冷静に見て駆使できるようにする。その時に必要となる眼は、鳥の眼。俯瞰。メタ認知。結局、いつも同じところに話が落ち着きますね。
余計なことですが、浪人時代に私、劇的に現代国語の点数が上がりました。「書いてあることだけ見る」を教えてもらったからです。幼い頃から「よく気の利く子ねぇ」が最高の褒め言葉だと信じていた私は、「相手の心を読もう、読もう」としていました。その結果、現国の問題で誤った選択肢に自信満々でチェックして撃沈。その繰り返し。問題文の作者が「自分も正しい答えを選べなかった」という話を耳にすると、「やっぱね。だよね」と納得し、溜飲を下げていました。言いたいことは、雑念を払うことの大切さです。「自分」を一旦脇に置いて、事柄だけに集中して、最適解を見つける。これも言語技術のうちなのだろうと思います。
さて兄さん、最後は、最新の生成AI機能がやってくれそうなことを教えてくれるのですね。

悩んだら「Canva AI」に第3の最適解をプロンプトする

=====
「お互いの大事なところ(安全と便利)を組み合わせたいけど、いい言葉(C案)が思い浮かばない!」そんな時こそ、進化したCanvaのAIアシスタントの出番です。ホワイトボードの横のチャット欄に、こう問いかけます。「駅長さんの『駅構内の安全』と、生徒の『連絡のための便利さ』を、両方同時に満たすための学級目標のキャッチコピーを3つ考えて」 するとAIは、子どもたちの脳内をマッピングするように、対立を乗り越えた「C案」の言葉のタネを瞬時に弾き出してくれます。子どもたちは、AIが出した提案を見ながら、「あ、この『スマート安全宣言』って言葉がいいな」「ここに、僕たちの通学路のルールを付け足そう」と、客観的な編集者視点で対話を再開できるのです。
=====
だそうです。GoogleとCanvaの連携強化についても話が進んでいるようです。もう、Jamboardが使えませんからね。それの拡大強化版の役を果たすのかもしれません。楽しみです。

10歳からわかる「まとめ」

・「論破王(ろんぱおう)」はカッコ悪い!
相手の言い間違いをあげつらって「はい論破!」と言い負かすのは、頭が良いのではなく、ただ話し合いから「逃げている」だけ。自分も相手も、そこで考えるのをやめてしまう「さびしいバグ」なんだ
・学校は「社会」と仲良くなるための練習場
学校でのルール決めは、これから一生付き合っていく「社会」のクセを知って、うまく付き合っていくための練習です。だから、「駅長さん」や「お店の人」など、みんなのまわりにいる人の立場になって考えるのが大事なんだ
・「もういいよ」とあきらめないで!
自分の意見が通らないからって「わかった、そっちの言う通りにするよ」とあきらめるのは思考停止。どっちか片方の意見にする必要はないんだよ
・めざすのは「1+1を3にする」C案
お互いにゆずれないこと(駅長さんの「安全」と、みんなの「便利」)を両方守れる、新しいアイデア(C案)を作り出そう
・Canva AIは「第3の相談相手(お友達)」
いい言葉が思い浮かばない時は、CanvaのAIアシスタントに「どっちの気持ちも大切にできるキャッチコピーを考えて!」と相談してみよう。AIを仲間に引き込んで、みんなで素敵なルールを「編集」していくのが、これからの時代のカッコいい話し合いの姿だよ

*本原稿は、ジェミ兄さんとの対話を基に構成されました。

※この記事では、お互いの主張の整理を、前回同様、将来的には「脳内で行えるようになる」ための訓練について考えました。