評判を「管理」する

トレンドマネージャー

随分と以前、ある企業のトレンドマネージャーという肩書きの方とお会いしたことがあります。「流行を管理する人」とは凄いネーミングだなぁと思ったものです。実際の業務内容としては、過去から現在にかけてのあらゆるトレンドに関する情報を取り揃えていたようで、そこから何か傾向を読み取り将来を予測し、それらを製品やサービスの開発に役立てていたようでした。とはいえ流行の予測はそう簡単ではなかったはずです。ましてや、来てしまった流行に対して、「まだちょっと早いから、もう少し待ってほしい」とか「ちょっと波が大きすぎるから、もう少し程良い大きさに抑え、できれば長続きさせたい」などといったコントロールが効くとも、とても思えません。

それに比べれば、ある会社や製品の評判を管理する「レピュテーションマネージャー」であれば、やりようがありそうな気がします。

どんな評判を立てたいかを明確に

評判の管理を計画するには、まず、どんな評判を立てたいかを明確にします。もちろん、普段提供している製品やサービスと、立てたい評判の間に矛盾があってはいけません。仮に「品質が良い」という評判を立てたいのであれば、提供物は、実際に品質が良くなければなりません。どんな評判を立てたいかを考える際、以前紹介したAgenda(事業等を通して解決したい社会課題)を意識することは大切です。創業の理由ともなった、社会のある課題をより良く解決するには、このような態度・姿勢で臨まなくてならない、このような製品やサービスを提供しなくてはならない、と繋がるのが自然だからです。

評判を形成する要素は

次に考えるべきことは要素の具体化です。「因数分解」という言葉で表現されることもありますが、目指す評判を形成する要素・項目にはどのようなことが含まれるかを考えていきます。先ほどの例で続けると、「品質が良い」という評判に繋がるために、その製品やサービスが持っているべき特性を列挙していきます。例えば、「壊れない」「メンテナンスが簡単」など維持(費)に関連することがあるでしょうか。また、「軽い」「持ち運びやすい」など使い勝手に関連することがあるでしょうか。もちろん、その製品が持つべき本質的な要素、例えば計測器であれば正確に測れるなどといったことも関連します。

様々な観点から「品質が良い」という評判に繋がる要素群(Attributes)を挙げていき、精査し、必要なものを残していきます。その際、作り手側の視点だけから見つめると、必要な要素にヌケ・モレが発生してしまうかもしれません。使い手の側から見た意見・要望も取り入れながら作業を進めていきましょう。ブレスト感覚で、出る意見を否定せず、それに乗っかる形で発展させていくのが良い進め方でしょう。

各要素への満足度を高める

満たすべき要素がはっきりしたなら、その要素一つひとつに対して、提供する製品やサービスの現状レベルが充分かどうかを見ていきます。足りていないところに関しては、早急な改善・改良が求められることとして対策を施します。

満足度の測定は、実際の使い手の方に評価してもらえる方法を考えます。また、その際、購入や使用の直後だけではなく、暫く使ってもらった後での評価も取れるように計画することが大切です。これは、定期健康診断のような役割ですから、継続的に実施し、その評価を追跡(Truck)していく必要があります。

実際の使い手ではない人からの評価は「イメージ」になります。事実とは異なることもあるでしょうが、評判の良さは、未使用の人にも届かなくては意味がありません。未使用の人の評価も聞き、使用者のそれとの違いを比較してみることが、その後のアクションプラン策定の上で有益な示唆を与えてくれます。気をつけなくてはいけないのは、未使用者のイメージが使用者の評価を上回っている場合です。安堵してそれを放置することなく、むしろ、将来の使用を経て期待外れだったことが「バレて」しまう前に、不足を改善しておこうと努めなくてはなりません。使用を経た評価はイメージではなく実体験になります。体験に基づく評価を改めるには過去の悪い体験を打ち消す良い体験をしてもらう以外に手はありませんが、一度悪い体験をした人に再度試してもらうことは簡単ではありません。つまり、挽回のチャンスはほぼ無いに近いのです。反対に、体験者の評価より未使用者のイメージが悪い項目については、誤解が生じているわけですから、真実を積極的に伝えようとする努力が求められます。

総合評価は、次、使いたいか

評判の管理が上手くいくと、「次、使いたい」という人が増えます。現在の使用者は、次も使い続けたいと思い、現在の未使用者は、(評判を聞いて)次一度試してみようかと思うようになるからです。未使用者に関しては、現在使用している他の製品やサービスが何かあって、そこから乗り換えてもらおうとする訳ですから、相当なエネルギーが必要です。現在使用している製品やサービスに特に問題を感じていなければ、早々スイッチすることはないと覚悟すべきです。「他を試してみよう」と思うタイミングが来るのを待たなくてはいけない場面もあるでしょう。

待っている間にすべきこと

その「待っている間」にすべきことは、自社の製品やサービスを覚えてもらう努力です。「品質が良い」との結びつきで、「品質が良いといえば何々」ということで一番に名前が上がってくるように広報・宣伝活動を展開します。最初は、使用者に、あなたの製品やサービスの品質の良さを理解・実感してもらうことから始めます。話は逸れますが、私の場合、独立してずっと自己紹介に「福井出身」であることを入れていましたから、「光成といえば福井」は周りに伝わっていたかと思いますが、そこから「福井といえば光成」と一番に思い出してもらうようになるには、更に努力を続ける必要があることは自明です。

どこで評判を立てたいか

さて、ここまで、どんな評判を立てたいかを考えてきました。次は、どこで、その評判を立てたいかを定めましょう。全国なのか、エリア限定でよいのか、年齢や性別や職業なども絞ってよいのか、あなたがターゲットと考える範囲を定めます。まずは現在取引のある会社や顧客が含まれることは間違いないでしょう。それプラスどの範囲まで入れたいかは今後の業務展開の計画を睨んで決めることになります。

評判の浸透度を測る

ターゲットを定めた後はいよいよ、そこでの評判の浸透度を3つの視点から測ります。一つ目は、First Recallです。「何々といえば」と、(あなたが訴求したい特徴を兼ね備えた)製品やサービスカテゴリーを挙げた際に、一番目にあなたの提供物の名前が上がってくることです。その際、単に製品やサービスのカテゴリー名だけで尋ねても名前が挙がって来るようになれば、それだけ浸透してきたことが確認できます。条件付きと条件無しという考え方です。二つ目はNext Buyです。「同じ目的で利用する製品・サービスの中で、次に買いたいと思うのはどれか」という質問です。名前は知っていても、利用意向・購入意向がなくてはビジネスになりません。三つ目はKnow Whatです。「要素項目への理解」がどの程度、広く深く正しいかを確認します。これらが揃うことで、評判の現状と、今後、特に訴求を強化すべきポイントが明確になります。

10歳からわかる「まとめ」

・あなたが提供する製品やサービスについて、どんな評判をどこで立てたいかを定め、評判の「管理」を考えよう

・あなたが目指す評判が立つには、具体的にどんな事柄を満たしていないといけないかを考え、それらを言葉にしよう

・それらの要素が正しく伝わった上で、あなたの提供物について名前をよく覚えてもらい、一番に思い出してもらえるようになろう

・ただ名前を思い出すだけではなく、現在の利用者からは「次も」、未利用者からは「次は」使ってみよう、買ってみようと思ってもらうことが大切

以下、余談です。

ランキングは意味がない

評判やイメージの浸透度を他者と比較し、ランキングを作成して結果を提示するやり方があります。これらの調査は「定期健康診断」に当たるものという言い方を本文中でしましたが、健康診断と異なるところは、いわゆる「正常値」を客観的に示すことができない点です。そのため、充足・不足を見るため、勢い、他者と比較したくなってしまうのでしょう。しかし、他者との比較は意味がありません。比較の対象はあくまで過去の自身です。第一回の調査では各項目の浸透度で訴求の強いところ・弱いところを見つけ、次からは毎回の同じ項目のスコアの伸びで、戦術の正しさを測っていくようにします。

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