
※この記事では、「国語編」のスタートにあたって、言語技術に焦点を当てた事例、それを社会との関係につなげていくことについて考えます。
学校や社会の「バグ」に立ち向かう
みなさん、こんにちは。光成章です。本シリーズもジェミ兄さんとの合作で進めます。
今日から始まる新シリーズ「国語編」、その第1回は、「言葉の力」で学校と社会のバグをハックする、ちょっとやんちゃな授業デザインのお話です。
突然ですが、先生方、ちょっと胸に手を当てて考えてみてください。普段の国語の授業で、漢字テストや教科書の音読をきっちりやり・やらせながら、「これらを本当に社会で使う生きた力として、子ども達は手応えを感じられているだろうか」と、もやもやすることはありませんか?
「何か新しい探究活動をやりたいけれど、ただでさえ忙しいのに、これ以上カリキュラムを増やす余裕なんてない」「地域連携って言われても、やったことないし、これ以上、商店街や農家の人、また、図書室の先生に負担をかけるのは申し訳ない」
その気持ち、ものすごくよく分かります。丸投げされた地域の方が疲弊していくリアルな Issue (もやもや)は、いま各地のコミュニティ・スクールで起きている最大のバグなのですから。「探究公害」などという言葉を流行らせてはいけません。
我々は、追加予算ゼロ、人員増加もゼロのまま、先生の国語の授業時間(教科書にある説明文の導入1コマ)をそのまま使って、学校のなかを安心安全な実験室にしてしまいませんか? 子ども達が「自分たちの言葉が足りないせいで、大人の大切な時間を奪っていたんだ」と気づき、自立した探究人(たんきゅうびと)として歩き出す。そんな、明日からすぐに試したくなる「言葉のハック術」へ、先生方をナビゲートします。
職員室の「最強のリソース」を巻き込む
授業の始まり、教室の入り口に、事前に先生がお願いしておいた校長先生(または教頭先生)に立ってもらいます。そして、クラスの子ども達の前で、わざとアバウトにこう頼んでみてください。「校長先生、すみません。職員室にある『あれ』、いい感じに持ってきてもらえますか?」
数分後、校長先生がニヤニヤしながら、わざと「やたらと巨大な三角定規」(または他クラスの給食の食缶)を抱えて教室に入ってきます。教室の子ども達は大爆笑。「いや校長先生、それじゃないよ!」と突っ込みが起きた瞬間、すかさずホワイトボードに大きく書くのです。バグ発生:『あれ』『いい感じに』
「今、言葉のバグが起きたね。先生が『1限目で使う出欠簿』と言わなかった(目的語の省略)。そして『いい感じに』というずるい言葉で、校長先生の優しさに甘えて判断を丸投げしました。そしたら、こんなことが起きました。もしこれが、地域の仕事の現場だったらどうなるかな? 善意や好意に甘えない。一方で、お願いしたいことはきちんと伝え、我慢もあきらめもしない。それこそが、大人の『たしなみ』なんだよ」
どうでしょう。隣のクラスの授業中の先生を引っ張り出すのは気が引けますが、学校全体を俯瞰している校長先生や教頭先生なら、事前の5分の打ち合わせで快く「ドヤ顔」で協力してくれるはずです。何より、管理職自身がこの瞬間に「なるほど、言葉のバグを可視化するとはこういうことか!」と、先生の授業アイデアの一番のファン(理解者)になってくれるという絶大な副次効果さえ、あるでしょう!?
完璧な「正解プロンプト」で、子どもたちのヨロイを剥ぎ取る
さあ、言葉が不正確だとバグが起きることを体感したら、今度は教室の1人1台の端末にいる、最高に空気の読めない相棒「生成AI(Gemini)」の出番です。子ども達に「じゃあ、この絵と同じものをAIに描かせるための説明文(プロンプト)を考えてみよう」と投げかけ、みんなの意見をまとめて、先生が代行で入力します。そして、画面に1枚の絵(例:「赤い帽子をかぶった茶色いクマが、木製の机の右側に座って、青い表紙の本を読んでいる絵」)が期待通りに出てくるかを試してみます。おそらく、一度で完璧にいくことは少ないでしょう。何度もプロンプトに追加・修正を加えながら、段々と本物に近づく様子を確認します。最後に、先生があらかじめ用意していた「完璧な正解プロンプト」を入力し、その結果をプロジェクターで見せます。正解には、「茶色いクマが頭に赤い帽子をかぶっています。クマは木製の机の右側にある椅子に座って、青い表紙の本を両手で開いて真剣に読んでいます。背景は緑の森です」と書かれています。子ども達は、その丁寧すぎる指示と文章の長さに、最初は「えっ、こんなに細かく、長く書かないといけなかったの?」とちょっと驚くでしょう。でも、その次には、「うわっ、これそっくり!」「やっぱり、しっかり文章にすると、それだけの効果(力)があるんだね!」となるはずです。
子ども達が心から納得した、この瞬間が、本当の言語探究の始まりです。認知心理学でいう「モデルの提示」を行うことで、子ども達の頭の中には、情報を「色・位置・状態」に分解して論理的に組み立て直すという、確固たるコンパス(型)が手に入ります。この安心安全な実験室で型を身に付けた子ども達は、この後、別の絵をお題にして「どうすればAIを一発で黙らせる(=正確に動かす)ことができるか」というプロンプト・ラリーに、ゲーム感覚で没頭し始めます。
ところで、先生、「私が正解プロンプトを書けなかったら授業準備が終わらないじゃないの!」という心配や不満は無用です。ここで大人は少しズルをします。プロンプトはジェミ兄さんに書いてもらいます。正解の絵を先に読み込んでもらい、「この絵をあなたが明日、正確に再現できると自信があるプロンプトを文字にして」とお願いすればいいのです。翌日は、それを逆回しにして、「この指示書に従って絵を描いて」と言うだけです。ご安心ください。笑。
「お礼のギブ」までが、プロの嗜み
授業の最後、先生はこう問いかけます。
「AIは空気を読まないから、言葉を省略したら全然違う絵を出してきたよね。これは、学校に協力してくれる地域の人たちや、図書室の先生、用務員さんに対しても全く同じなんだ。大人の善意に甘えて『いい感じに並べといてください』『なんか教えてください』のような丸投げは、「お客様」のやること。協力してくれる人達と君達とは一緒にやり遂げるチームなんだよ。みんなが放つ正確な言葉によって、周りが迷わずに動くことが出来て、仕事がピタッと完了するんだ。その成功体験(手応え)を、いつも、つかみながら行こうね」
最後に、国語の時間を、社会の時間にまでつなげるTipsをお伝えしたいと思います。
誰かに協力をお願いする際の要望をまとめたシートの最後に、「取引(コラボレーション)の概念」を仕込むようにします。「お礼に、こちらがお手伝いできる『ギブ(GIVE)』の提案リスト」を子ども達の言葉で書き添えてもらうのです。「教えてもらう」ことに慣れすぎてしまった子ども達の頭の中に、「自分でできるところまでは調べた上で、対等なパートナーとして大人の扉を叩く」というプライドをインストールする必要があるからです。こちらから提供できる「お返しのお手伝い」が何も浮かばなかったら、発表会に皆さんを招待したり、まとめた資料を後で皆さんに届けたり、ということは、最低限の約束として書いておきましょう。
それが無事達成されたことを見届けたなら、伴走者である私達は、そっと一歩、後ろに下がることができます。
先生方、教科書を網羅的に「こなす」だけの時間から、子ども達が言葉という武器を使って社会をハックしていく、体温のある国語の時間を、まずは校長先生を巻き込むところから始めてみませんか?
10歳からわかる「まとめ」
① 「あれ」「いい感じに」は、あたまの中のバグ(省略)
言葉をはしょって相手に伝えるのは、相手の優しさに甘えて、失敗したときに相手のせいにできる、ずるいやり方なんだよ。
② 言葉をしっかり文章にすると、相手をうごかす凄い「力」になる
空気の読めないAI(ジェミ兄さん)に、長い文章で細かく、ていねいに指示をだしたら、一発でそっくりの絵を描いてくれたよね。言葉は、君たちのあたまの中のイメージを、相手のあたまの中にぴったり届けるための魔法なんだ。
③ 善意や好意に甘えない。でも、我慢もあきらめも禁止
大人の人に何かをお願いするときは、やってほしい条件を言葉できちんと伝えること。それが、カッコいい「大人のたしなみ(マナー)」です。「教えて」のあとは、「お礼に何ができる?」をセットにしよう。一方的に教えてもらうだけのお客さんになるのは、プライドが足りない。「僕たちには、お礼にこんなお手伝いができます!」という提案をセットにして、大人をおどろかせる最高の探究人(たんきゅうびと)になろう!
*本原稿は、ジェミ兄さんとの対話を基に構成されました。
※この記事では、「国語編」のスタートにあたって、言語技術に焦点を当てた事例、それを社会との関係につなげていく考えについて触れてみてもらいました。

ジャートム株式会社 代表取締役
学校・企業・自治体、あらゆる人と組織の探究実践をサポート。
Inquiring Mind Saves the Planet. 探究心が地球を救う。
