バテる・疲れるのサイエンス

※この記事では、自身の身体データを知り、まずはバテることを避け、次にトレーニングで正しくレベルアップすることについて考えます。

疲れの正体を知ろう

前回は、チームスポーツにおいて全員がスター選手を目指す必要はなく、自分の身体データ(スペック)を知って自分だけの「最高のポジション(居場所)」を発見する探究をしました。
さあ、今回のテーマは、体育の長距離走や激しい運動で誰もが直面する、「バテる(疲れる)」のサイエンスです。
「途中でバテるのは、気合や根性が足りないからだ!」「苦しくても限界まで走れ!」
昔の体育では、そんな無理な根性論がよく叫ばれていました。でも、自分の身体の声を無視して走るのは、苦しいだけで運動が嫌いになってしまいますよね。
実は、科学の世界において「バテる」というのは、根性の問題ではなく、「身体の中のエネルギーの使い方と、筋肉の化学変化」に過ぎません。
心拍数という客観的なデータを使いこなし、無理なく自分のスタミナをコントロールしながら、科学的にレベルアップしていく方法を探究していきましょう。

息が切れる理由と、足がパンパンになる理由

「なぜ、最初から全力で走ると、息が上がって足が重くなっちゃうんだろう?」
大人はぜひ、お子さんと一緒に「走っているときの呼吸と、足の筋肉の張り」を観察してみてください。運動時のバテには、実は2つの理由があります。
息が切れる理由(2つのエネルギーモード):
ハイパワーモード(無酸素): 100m走のような全力疾走。ものすごいスピードが出ますが、身体の中のエネルギーを一気に使い果たすため、数十秒でエネルギー切れになります。
長持ちモード(有酸素): おしゃべりができるくらいのゆったりした走り。取り込んだ酸素を使って脂肪などをじっくり燃やすため、長い時間走り続けることができます。
足が重くなる理由(乳酸と筋肉の酸性化):
全力で走ると、筋肉の中に「乳酸」という物質が急激に作られます。乳酸自体は悪者ではなく、実は大事なエネルギーの再利用物質なのですが、これが短時間に一気に作られると筋肉の中が「酸性」に傾きます。これが、「足がパンパンに重くて動かない」という感覚の正体なのです。
「バテて動けなくなる」のは、根性が足りないからではありません。長距離を走るべき場面で、心拍数を上げすぎて筋肉の中に乳酸を溜め込みすぎてしまったからなのです。

心拍数データで自分の「長持ちゾーン」を見つけよう

「じゃあ、どうやって自分が今どちらのモードで走っているか知ればいいの?」
ここで大活躍するのが、手首につけるスマートウォッチや、手首・首元で測る「心拍数(1分間に心臓が打つ回数)データ」です。
自分の心拍数を測る: 走りながら自分の心拍数をモニターします。
「乳酸が溜まらないライン」を維持する: 心拍数が一定のラインを超えると、一気に足に乳酸が溜まり始めます。そうなる前に少しペースを落とし、心地よい心拍数(長持ちモード)まで整えます。
他人のペースに惑わされない: 周りの子が勢いよく飛び出しても、自分の心拍数データを見て「自分はこのペースが一番長持ちする」とマイペースを保ちます。
周りと競うのではなく、「自分の心拍数データ」と会話しながらペースを調整する。これだけで、長距離走は苦しい修行から「いかに心拍数を一定に保って遠くまで行けるか」という楽しく知的なゲームに変わります。

仕組みが分かったら科学的トレーニングでレベルアップ

ここでひとつ、とても大切なポイントがあります。
「あ、自分の長持ちモードのペースが分かったから、ずっとこのゆっくりペースのままでいいや!」と満足してしまうのは、もったいないですよね。
理屈が分かったら、次は「自分の限界を科学的に大きくするトレーニング(正しい鍛錬)」の出番です!
長持ちモードの領域を広げる: 「少しだけ心拍数を上げた状態」で短時間のトレーニングを繰り返すと、心臓が一度に送り出せる血液の量が増え、筋肉の周りに酸素を運ぶ細い血管(毛細血管)が新しく作られていきます。
乳酸に強い筋肉を作る: 正しいペースでのトレーニングを重ねると、筋肉が乳酸をエネルギーとして素早く再利用できるようになり、以前と同じスピードで走っても「足が全然パンパンにならない身体」へと進化します。
根性でただ耐えるのではなく、「自分の身体のエンジンを大きく育てるために、狙いを持ってトレーニングを重ねる」。これが、探究学習の体育が目指す、カッコいいレベルアップの姿です。

「次の挑戦」はどれにする?

体育編第4回の大人の伴走Tipsは、根性論をやめ、「自分の身体のデータを理解した上で、さらに自分をレベルアップさせる前向きな努力」へ目を向けさせる問いを投げることです。
運動が終わって、呼吸を整えながら最後のパスを投げます。
「『根性で走れ』なんて言わないよ。今日、自分の心拍数を観察してみてどうだった? 自分の長持ちモードが分かったら、今度はその長持ちゾーンのまま、もう少しだけスピードを上げる科学的なトレーニングに挑戦してみる?」
「自分の心拍数を130に保つ走り方が分かったよ。次はこの心拍数のまま、少しだけ歩幅を広げてスピードを上げる練習をして、ボクのエンジンを大きくしてみる!」
「最初に勢いよく走りすぎると足に乳酸が溜まって動かなくなるのがデータで分かった。次からは前半を長持ちモードで抑えて、後半に少しだけペースを上げるトレーニングでレベルアップする!」
データで自分を知り、科学的なトレーニングで昨日の自分を超えていく。
探究学習の【体育編】は、このスタミナ管理とレベルアップを経て、次は「ルール(環境)そのものを自分たちに合わせて変えていく」というルールのデザイン探究へと進みます。
(【体育編】第5回へ続く)

【おうちで試せるGoogle発の無料アプリ】
スマホで使える計測アプリ『Arduino Science Journal (サイエンス・ジャーナル)』を使ってみましょう。運動した直後に手首の脈拍を測ってアプリに入力したり、センサーと連携させることで、自分の心拍数の変化をグラフで記録できます。「軽く走ったときと、全力疾走したときで、心拍数の上がり方がこんなに違うんだ!」「トレーニングを重ねたら、同じスピードでも心拍数が上がりにくくなったぞ!」と、自分の身体がレベルアップしていく様子をデータで確かめるのにぴったりです。
URL: https://science-journal.arduino.cc/

10歳からわかる「まとめ」

バテるのは「気合」のせいじゃない! 心拍数データを使って体を賢くコントロールし、科学の力でレベルアップしよう!
【体育編】の第4回だよ!
長距離走で苦しくなったとき、「根性(こんじょう)で走れ!」って言われて嫌になったこと、ないかな?
バテて動けなくなるのは、気合が足りないからじゃないんだ。
実は、「体の中のエネルギーの使い方」と「筋肉にたまる乳酸(にゅうさん)」のせいなんだよ。
急スピードで走りすぎると、筋肉の中に「乳酸」が一気に増えて、筋肉が「酸性」になっちゃう。これが「足がパンパンで重い!」という感覚の正体なんだ。
そこで登場するのが「心拍数(1分間に心臓がドックンとなる回数)」データだ。
周りの子が速く走っていってもマネしなくてOK! 自分の心拍数を見て、「あ、上がりすぎたから、足がパンパンになる前に少しペースを落とそう」って自分で調整するんだ。
そして、自分のペースが分かったら、そこで満足せずに「レベルアップの練習(正しいトレーニング)」をしよう。
少しずつ心拍数を意識してトレーニングを重ねると、心臓が大きくなって、筋肉が乳酸をエネルギーに変える力が強くなるんだ。そうすると、同じスピードで走っても全然バテない「強い体」に進化できるんだよ。
無理な根性じゃなくて、科学の力でかっこよく自分のレベルを上げていこう!

*本原稿は、ジェミ兄さんとの対話を基に構成されました。

※この記事では、自身の身体データを知り、まずはバテることを避け、次にトレーニングで正しくレベルアップすることについて考えました。