運動神経という名の神経は存在しない

※この記事では、体育を「科学する」ことに焦点を当て、他人ではなく以前と今の自分の体の動きを比較する方法や意味について説明します。

体育の授業は順位争いから「自分の身体ラボ」へ

探究学習の冒険、新しいステージ【体育編】へようこそ!
「体育の授業が始まるよ」と聞くと、皆さんは何を想像しますか?
「足の速い子が目立つ場所? ドッジボールは強い球を投げる人がいるチームが勝つゲーム? それとも、運動が苦手な自分を見られてしまう恥ずかしい時間?」
もしそう思っているなら、大間違いです!
私たちが挑む【体育編】では、他人とタイムや順位を競い合うことには注目しません。
タブレットを使い、最新のデータを駆使して、「世界にひとつだけの自分の身体」の仕組みを解き明かし、昨日の自分を超える成長を楽しむ、最高に刺激的な「実験場(ラボ)」になりますよ。
想像とはちょっと違うかもしれない、体育の正体。記念すべき第1回のテーマは「運動神経の真実」と「身体をデータから見ること」です。

「運動神経が良い・悪い」のウソ

「自分は、生まれつき運動神経が良いあの子とは違うから…」とあきらめたことはありませんか?
実は、医学や身体科学の世界には「運動神経」という名前の神経は存在しません。
運動が得意に見える人は、「脳から筋肉への命令(伝達)経路が、スムーズに繋がって」います。いわば、プログラミング(回路)が優れているのだといえます。それは、生まれつきの才能というより、その動作を、過去に経験・体験しているかどうかで違ってきます。
動作の未体験: 脳が「手と足をどう動かせばいいか」の回路を、まだ作っていない状態。
動作の習熟: 練習やコツによって、脳の回路が太くなり、命令がきちんと筋肉に届く状態。
つまり、ある運動がまだうまく「できない」のは、「脳にその動きのプログラム(回路)がまだ書き込まれていない」からなのです。適切な方法で自分の身体を観察し、回路をしっかりつなぐようにすれば、誰でも、自分の身体をもっとスムーズに動かせるようになります。

「理想の自分」と「今の自分」を重ね合わせる

「じゃあ、どうやって脳の回路を太く、プログラミングすればいいの?」
ここで大活躍するのが、学校や家庭にあるタブレット(ICT機器)です。
ひと昔前の体育では、先生の「もっと腕を振って」「もっと足を高く上げて」という、みんなに共通したアドバイスを頼りに練習してきました。また、「がんばれ」という言葉で、気持ちを鼓舞して一生懸命やっていました。みんなには、自分の身体がどう動いているのかが見えていませんでした。見てみる方法がなかったからです。それだと、本当にうまく修正できているか、結局、前と同じ動作を繰り返してしまっているかがわかりません。
しかし、今の探究学習の体育は違います。見ることができるのです。
動画で撮影する: 自分が走っている姿や、ボールを投げる姿をタブレットで動画撮影します。
理想のフォームと比較する: お手本の動画と自分の動画を画面上で重ね合わせます(オーバーレイ)。
「違い(ズレ)」を発見する: 「あ! 自分ではまっすぐ足を上げているつもりだったのに、膝が外側に開いている!」「腕を振る角度が少し足りないぞ!」と、目でズレを確認します。
感覚ではなく「客観的なデータ(映像)」として自分の課題が見えた瞬間、脳は「あ、ここを修正すればいいんだ!」と理解します。次に、実際に、その理想通りに身体を動かします。理想のフォームを身体で理解したところで、脳は、新しい回路を作り始めます。まさにこれは自分というロボットのOSをアップデートするゲームのようです。おもしろそうじゃないですか。

比べる相手は、昨日の自分

体育編第1回の大人の伴走Tipsは、他者との比較(速い・遅い)を捨てさせ、「昨日の自分との差分(成長)」に目を向けさせる問いを投げることです。
タブレットで撮った動画を一緒に見ながら、最後のパスを投げます。
「学年で一番速い子と比べる必要なんてないよ。先週の君のフォームと、今日の君のフォーム。タブレットの動画で重ねて見比べてみて。どこが一番カッコよく変わっていた?」
「先週より腕がしっかり後ろまで振れるようになって、1歩の歩幅が大きくなっていた」
「ボールを投げるとき、踏み出した足先の向きが理想のお手本に近づいてきていた」
人と比べる体育は、もう終わり。データを使って、自分だけの身体の可能性に注目する。
探究学習のOSを搭載した【体育編】の冒険は、この身体ラボからさらに深く、関節や筋肉の物理学、そして極限の集中(ゾーン)の謎へと向けスタートします。
(【体育編】第2回へ続く)

【補足】「理想と自分のフォーム比較」に使えるサイトの紹介

1. 『Teachable Machine (ティーチャブル・マシン)』の「Pose (ポーズ)プロジェクト」
Googleが提供している、カメラの前で自分の身体を動かすだけでAIが関節や骨格の位置(ポーズ)をリアルタイムで自動検出・認識してくれる無料ツールです。
できること: Webカメラの前に立ち、「腕をしっかり振ったフォーム」「軸がブレたフォーム」などをカメラに見せて登録する(学習させる)と、AIが「今の動きは理想のフォーム率80%!」などと判定してくれるAIモデルを、コードなしで数分で作れます。
探究ポイント: 「脳から身体への命令(回路)」をAIに教えてあげる体験を通して、動作を客観的なデータ(骨格データ)として捉える感覚が直感的に分かります。
URL: https://teachablemachine.withgoogle.com/

2. 『Move Mirror(ムーブ・ミラー)』
GoogleのAI Experiments(実験室)のひとつで、Webカメラの前でポーズをとったり動きをすると、AIが関節(17箇所の骨格ポイント)を瞬時に読み取り、世界中の8万枚以上のスポーツやダンスの画像から「今のあなたの骨格・ポーズと全く同じポーズ」をリアルタイムで検索して画面に映し出してくれるツールです。
できること: 自分が走るポーズや投げるポーズをすると、画面の中でプロのアスリートやダンサーが「同じフォーム(関節の角度)」で重ね合わさるように画面に並びます。
探究ポイント: まさに今回の本文にある「理想のフォームと今の自分を画面上で重ね合わせる」体験を、ブラウザだけでゲーム感覚で遊ぶことができます。
URL: https://experiments.withgoogle.com/move-mirror

10歳からわかる「まとめ」

「運動神経(うんどうしんけい)」なんて存在しない。タブレットを使って自分の身体をあやつれるようになろう!
【体育編】の第1回がはじまるよ!
「たいいく」って聞くと、足が速い子が威張(いば)る場所だと思っていない?
でもね、探究の【体育編】は、他人とタイムや順位を競う場所じゃないんだ! タブレットやデータを使って、「世界にひとつだけのキミのからだ」を探究するサイエンス&ゲームなんだよ。
「あの子は運動神経が良いからなぁ。いいなぁ」なんてうらやましく思う必要はナシ。
実は、科学の世界には「運動神経」という名前の神経は存在しないんだ。
運動が得意に見える人は、ただ「脳から体への命令の線(回路)がスムーズにつながっているだけ」。キミの脳にも、練習とコツでその回路を作ってあげれば、いろいろな動きがしっかりできるようになるよ!
そのための秘密兵器がタブレット(動画)。
自分が走ったりボールを投げたりする姿を動画で撮影(さつえい)して、上手なお手本と見比べてみよう。
「あ! 自分ではまっすぐ走っているつもりだったのに、手が横に振れていた!」って目で見えれば、脳は「よし、ここを直そう!」って一瞬で新しい回路を作り始めるんだ。
足が遅いとか早いとか、他人と比べる必要はゼロ!
「昨日の自分」と「今日の自分」を動画で見比べて、キミだけの成長(アップデート)を楽しもう。

*本原稿は、ジェミ兄さんとの対話を基に構成されました。

※この記事では、体育を「科学する」ことに焦点を当て、他人ではなく以前と今の自分の体の動きを比較する方法や意味について説明しました。