子どもが固まってしまう放任と自由にする型

※前回からの続きです。「型」があることで持てる気持ち、なれる態度について考えます。

Think out of the box (枠の外で考える) の罠

前回の記事では、日本の図工の「いきなり自由に作ろう」というアプローチと、フランスの美術教育の「まずは分厚い教科書で歴史や系統(型)を学ぶ」というアプローチの対比をお話ししました。
「型を教え込むと、子どもの自由な発想が縛られてしまうのではないか?」
そう心配される親御さんや先生方は少なくありません。新しい発想を積極的に取り入れていこうという文脈では、よく「Think out of the box (枠の外で考えよう、常識にとらわれるな)」と言われます。
しかし、私はかつて長く勤務していたフランスのラグジュアリーブランド企業で、全く逆のクリエイティビティのあり方を目にしていました。ブランド企業というものは、何よりもその「box (枠)」を大切にします。彼らにとっての枠とは、創業者のおもい、ブランドの歴史や真髄を定めた「ブランドコード (Brand Code)」です。それが明文化されているかどうかは、おそらくブランドにより異なるでしょう。しかし、このコードは、いわば絶対的なルールであり、ある種の強い「制限」になります。

制限があるからこそ「その手があったか!」が生まれる

では、強い縛りを持つブランドで働くクリエイター達は、不自由でつまらない仕事をしているのでしょうか?
答えは、完全に「ノー」、全くの正反対です。むしろ彼らは、その縛りがあるからこそ、その中での自由の発揮を心から楽しんでいます。
ファンがブランドの新しいコレクションを見るとき、求めているのは単なる自由奔放なデザインではありません。「自由」に振る舞えば、「これは、もう違うブランドよ」と評価され、ファンはただ離れていくだけでしょう。
「確かにブランドコードを守っている。そして尚且つ、いつも『その手があったか!』と私たちを驚かせてくれる」
この絶妙な裏切りと工夫に、人々は「さすが」「らしいね」と憧れを抱き、魅了されるのです。
ただ同じものを繰り返し作るだけでは衰退します。かといって、枠を無視して好き勝手に作ればブランドは崩壊します。クリエイターたちは、絶対的な枠を守りながら、それを「内側から少しずつ押し広げるように」して、新しいクリエイティブを世に送り出し続けているのです。
「何もかも変えたい」と思うクリエイターは、自分のブランドを創ればよいのです。一方で、既存のブランドを受け継いだクリエイターは、創業者クリエイターに思いを馳せなくてはなりません。「シャネルさんが今、生きていたら、どうしただろう」と、まずは考える。それが「さすが、シャネル」「シャネルらしい」の源泉です。

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子どもの探究に必要な「魅力的な不自由」

この「ブランドコード」の話は、子どもの探究学習、そして美術における「型と自由」のジレンマに、そのまま美しい答えをくれます。
子どもに「何でもいいから自由に探究してごらん」「好きな絵を自由に描いてごらん」と完全な自由を渡すのは、実は一番過酷です。何も足場がない砂漠に一人で放り出すようなものだからです。
子どもの探究心を本当に爆発させるのは、完全な自由(放任)ではなく、「魅力的な不自由(=型やルール)」なのではないでしょうか。
例えば美術において、
「今日は『青い絵の具』と『白い絵の具』の2色だけで、夜のしずけさを表現してみよう」
という枠(制限)をあえて作ってあげたとします。すると子どもは、「どうすれば2色だけで暗闇や光を描き分けられるだろうか?」と、脳をフル回転させて考え始めます。色の混ぜ方を工夫し、筆のタッチを変え、それこそ「その手があったか!」という、大人には思いつかないような内側からの工夫を生み出すのです。

「型」は、自由へと羽ばたくためのジャンプ台

探究学習で最初に「やり方の型」や「ツールの使い方」を教えるのは、子どもの個性を縛るためではありません。クリエイターたちにとってのブランドコードのように、「その中で工夫する楽しさ」を味わうための、最初の陣地(ベースキャンプ)をプレゼントするためなのです。型があるからこそ、子どもは「じゃあ、この型の枠を、自分ならどうやって少し押し広げてみてやろうか?」とワクワクしながら試行錯誤を始められます。
美術の歴史とは、まさにこの「先人たちが作った枠」を、次の世代のアーティストたちが「その手があったか!」という新しい問いで内側から押し広げてきた、エキサイティングな歴史そのものです。
次回は、いよいよ美術の具体的な中身に踏み込みます。美術の歴史を「お勉強」ではなく、アーティストたちの「問いの変遷」として読み解く方法についてお話しします。

10歳からわかる「まとめ」

「なんでもすきにしていいよ」より、「制限」がある方がおもしろい?
世界中で大人気の高級なバッグや洋服を作るデザイナーたちは、実は「どんなデザインにしてもいいよ」とは言われていません。むかしから決まっている「このブランドの絶対に守るべきルール(枠)」の中で仕事をしています。
一見つまらなそうに見えるけれど、じつはデザイナーたちは「このルールの中で、みんなを『その手があったか!』と驚かせるにはどうしたらいいだろう?」と、ゲームのようにワクワクしながら考えているんだって。ルールがあるからこそ、アイデアがどんどん湧いてくるんだね。
学校の図工や、自分で進める「探究(たんきゅう)」も、これとまったく同じ。
最初に「やり方のルール(型)」を知ることは、きみの自由をしばるものじゃない。そのルールを上手に使いながら、「自分ならこうやってルールをおもしろく使っちゃうぞ!」と、大人の想像を超えるようなかっこいい工夫を生み出すための、最高の秘密基地なんだよ。

*本原稿は、ジェミ兄さんとの対話を基に構成されました。

※この記事では、「型」を持つことで持てる気持ち、なれる態度について考えました。