ビジネスの場で最善の解決策を導き出す方法

事前準備は「肝が据わる」まで

ビジネスの場で意見を通す準備が整ったなら、すなわち「会議で大きな疑義は出ないだろう」「もし出たとしても、それに対して自分は論理的・理性的に説明を返せるだろう」と、少なくとも自分の中では思えるようになったなら、自信を持ってプレゼンテーションに臨みましょう。
「ここを質問されたら嫌だな」「自分でも、ここは論理が飛躍しているのはわかっているんだよな」と思う部分があるうちは、本来なら、プレゼンに臨むのは時期尚早です。

ただし、「様々に考え抜いたけれども答えが出ない。でも、方向はこちらで合っているんだ」との確信があるなら、会議の場で素直にそれを白状し、参加者からアイデアを募ることは決して恥ずかしいことではありません。

「準備が整う」の中には、そこまでの肝が据わることも含まれます。参加者からの批判や助言、様々な意見に落ち着いて耳を傾け、それを正しく聞き取れる状態になっていればよいわけです。

傾聴はブラッシュアップのため

会議の場で他人の声を傾聴すべき理由は、その場で自身の主張の最終ブラッシュアップを行うためです。異なる立場からのフィードバックを取り入れ、自案をより良いアイデア、課題に対してより効果的な解決策に高めていきます。

この過程を、ヘーゲルによって定式化された弁証法ではテーゼ・アンチテーゼ・ジンテーゼ(定立・反定立・総合、または正・反・合)と呼びます。ジンテーゼはドイツ語で Synthese と綴ります。英語では synthesis シンセシス。電子楽器のシンセサイザー synthesizer にも通じた「合成する」の意です。

アンチテーゼは、自身の案(テーゼ)に対する反論ですが、これを聞く際に感情的になってはいけません。相手の話も論理的には正しい、相手の視点に基づけばその論は確かに正しい、と冷静に判断しましょう。

相手が論理的に破綻しているならもちろん取り入れる必要はありません。しかし「確かにそれも一理ある」と思える状態なら、相手の案をうまく取り込んで自案の完成度をより高めるべきと判断し、早速その作業に取り掛かります。

本当の「聞く」とは

以前、ある一流企業の技術研究開発所所長の講演を聞く機会がありました。色々貴重なお話を聞いたはずなのですが、途中、その人がこんな発言をした後は、大きなショックを受けて話が全く耳に入らなくなってしまいました。

「ウチの研究所の職員には、ボクはいつもこう言っています。営業やマーケティングスタッフの話を聞いてはダメだ。ヨソはこんなのを作っている、世の中では今こんなのが流行っている、などという話を聞くと、ついそれを真似した製品や技術を研究したくなってしまう。それではウチ独自の研究ということにはなりません」

これには本当に驚きました。「まさか、それ、本気で思っていらっしゃるんですか?」と声を上げそうになるのを慌てて抑えた記憶があります。でも、唸(うな)り声くらいは上げてしまっていたかもしれません。驚いたのは「聞く」の意味をわかっていないのではないかと感じたからです。

他人に話をする際に、意図が正しく伝わるよう「できるだけ具体的に話をしよう。具体的な例を示しながら話そう」と心がけることは大切です。聞き手は、その具体例を頭に描きながら、話の要点を聞き取ろうと努めます。話の一般化・抽象化ということで、これはアナロジー(抽象化)思考に通じるものです。また、分析して抽象度の高い形式に変換したのち、それらを再構成することを reengineering(リエンジニアリング)と呼びます。

それをせずに、具体例に対して、「A社はそれを100gいくらで売っているの? 200gは?」などと尋ね、「100gは100円、200gは少し割安の190円です」との回答を得ると、「そうか。ウチはその製品をまだ一度も作ったことはないが、A社に出来てウチに出来ないことはないはずだ。しかも、生産設備でウチが負けることはないんだから、作り出したら200gを180円で売り出すことなど簡単だろう。よし、それでいってみよう」と上司が即決してしまう。かくして「模倣作戦」が始まったなどとなれば、確かに先の研究所所長の懸念はわかります。

しかし、繰り返しますが、「聞く」はそうではありません。
相手の具体例の説明が意味していることを抜き出そうと努めることです。

この場合、話の要点は、「これまでkg単位でしか売ってこなかったものを、何故100g単位で売るようになったか」にあったのかもしれません。家での生活が「個」や「孤」のキーワードで説明できる世の中になり、大家族世帯が減っていること。それが問題の核心なら、それへの対処を考え、自社製品のラインナップの見直しとアップデートについてディスカッションする会議にすべきなのです。

質問者を巻き込む

会議で自身の提案に対して質問やフィードバックが来た際に、萎縮してしまうのではなく、まずはその質問やコメントの意味を確認しましょう。

「ご質問の主旨はこういうことでしょうか」「ご質問はこういうことだと思うのですが」のつなぎ言葉を入れて心を落ち着かせ、それから質問者とのやりとりを堂々と始めます。場合によっては、ホワイトボードに書き出したり、書き出したことについて他の参加者の意見を求めたりしながら、一旦議論を拡散させた上で、最後には収束に持っていきます。

拡散と収束の中心には、当然、最初に提示した自身の提案がありますから、行っていることは、自身の提案のファインチューニングに過ぎません。ファインチューニングの過程、すなわち、会議中に案が進化していく過程を実際に目に見せながら、参加者の「真の参加」を促しつつ行っていくわけです。いわゆる「巻き込み」です。

巻き込みが成功すると、きっと、あちらこちらからこんな発言が聞こえてくることでしょう。「どうだ。私のあの案、いいだろう」と。参加した全員が、私の案と思い込んでしまうような心の状態を作り出せたなら、それは間違いなく「最善の解決策を導き出した」ことになります。

エビデンス対話は真摯な意見交換

社会事・会社事・他人事のそれぞれ、あるいはその集合体をあわせて「ひとごと」と呼ぶなら、それを各人が自分事(わがこと)として捉え、共有事(ともごと)化して事に当たることができる組織、すなわち、構成員が皆、共通の目的に向かって一致団結し前進する組織は活気や勢いに溢れています。

ビジネスの場はもとより、学校で自分自身の意見・考えを確立していく模索の過程と呼べる「探究活動」のチーム討議の場でも、真摯な意見交換を通し最善の解決策を導き出して欲しいと思います。その際に大きな力を発揮するのがエビデンス対話です。

10歳からわかる「まとめ」

学校で何か発表したら、質問に堂々と答えて話し合うことを、この順番でやってみよう。

  1. 出そうな質問を予想しながら、発表の準備をしっかりする
  2. 発表が終わったら、質問がないか堂々と尋ねる
  3. 質問が来たら落ち着いて耳を傾ける
  4. 質問がよくわからない時は、聞き返して確認する
  5. 説明がよくわからないと言われたら、あせらずに別の言い方で伝え直す
  6. 黒板を使うのが得意なら、友達のいろんな意見を黒板に書き出してみる
  7. 書いたことを見て「どうしてそう思うの?」と聞いたり、「これとこれを合わせると、もっといいんじゃない?」など、考えて言ったりしてみる
  8. 最初の自分の考えにどんどん他の人の意見を入れ、クラスの意見をまとめる

【旧:WEBマガジン・作家たちの電脳書斎 デジタルデン2023年3月22日公式掲載原稿 現:作家たちの電脳書斎デジタルデン 出版事業部 (https://digi-den.net/)】

第5回「フランスの哲学教育がすごいワケ【前編】」を読む