
※この記事では、我が家からはじめる「その手があったか!」の方法を紹介します。
「自由にどうぞ」の前に、あえてルールを渡す
前回の記事では、無料のICTツール「Google Arts & Culture (GA&C)」をソファーでリラックスしながら覗き込み、ゴッホの絵の具の隙間に隠された花粉や、科学的な褪色(色あせ)の謎に親子で驚くデジタル探究をご紹介しました。こうして先人たちの「問いのバトン(型)」をたっぷりインプットした子どもたちは、世界を見るための無数の「魔法のメガネ」を手に入れた状態になっています。
さあ、ここからはいよいよ最終ステップ、「アウトプット(自分だけの表現・工夫)」の段階です。
ここで大人がやりがちな失敗が、足場をたくさんプレゼントした安心感から、いきなり「じゃあ、あとは好きなように自由に作ってごらん!」と完全放任の砂漠に突き落としてしまうことです。
美術編・第2回でお話ししたラグジュアリーブランドのクリエイターたちを思い出してください。彼らが最高のクリエイティビティを発揮するのは、完全な自由ではなく、守るべき「ブランドコード(枠)」があるときでした。子どものアウトプットも全く同じです。最初はあえて「魅力的なルール(枠)」を大人がプレゼントしてあげることで、子どもの工夫は爆発します。
巨匠の力を借りた「真似とアレンジ」の伴走法
家庭で子どもが「自分だけの表現」に挑戦するとき、伴走者である大人が使える、具体的な3つのステップをご紹介します。
ステップ① 徹底的な「オマージュ(真似)」から入る
「オリジナルの作品を作りなさい」と言われると子どもは固まりますが、「誰かの真似をしてごらん」と言うと、ハードルは一気に下がります。
例えば、GA&Cで見つけたゴッホの『星月夜』を画面に映しながら、「このボコボコした筆のタッチを真似して、自分の好きな景色(家の窓からの景色など)を描いてみよう」と誘ってみるのです。これは単なる模倣ではなく、天才の「視点の型」を自分の体に取り込む作業です。
ステップ② ルールを一つだけ変える(アレンジ)
真似ができるようになったら、今度は「ブランドコードを内側から押し広げる」挑戦です。
「ゴッホのタッチはそのままだけど、もし夜じゃなくて『お昼の太陽の光』だったら、どんな色になるかな?」
「ピカソみたいにバラバラに組み合わせるけれど、人間じゃなくて『大好きなカレーライス』をいろんな角度から描いたらどうなる?」
ベースとなる「型」を守りながら、条件を一つだけ変えてみる。これだけで、大人も予期しなかった「その手があったか!」というアレンジが生まれ始めます。
ステップ③ 自分の「問い」を形にする
ステップ②まで来ると、子どもはルールの中で工夫するゲームの楽しさに完全に目覚めています。そうなれば、「次は、みんなを驚かせる『新しいルール(問い)』を君が自分で作ってみて」と伝えます。「誰も見たことがない新しい色の組み合わせを作る」「あえて鉛筆1本だけで、感情を表現してみる」など、子ども自身が立てた問いが、そのまま「自分だけの探究成果」として形になっていくのです。
光成式「言葉ハック」の型
実は、私自身が子どもたちに向けて話をするときにも、決まった「型」があります。何について話すかが決まったら、まずは「その言葉自体」に注目してみる、というアプローチです。
その単語が英語やフランス語であれば「語源」に遡り、日本語であれば構成する「漢字一つひとつの意味」を徹底的に紐解きます。言葉の裏にある構造(型)を知ることで、目の前の事象への理解がガラリと変わるからです。
例えば、子どもたちと「ディスカッション (discussion)」をするとき。
この「cussion」は、パーカッション (percussion: 打楽器)にも含まれるように「叩く」という意味があります。「ディベート(debate)」の「bate」も、元は「beat (叩く)」です。ですから私は、いつもこう切り出します。
「今から、私が自分の考えを示します。これは『叩き台』です。皆さんに『dis: 徹底的に』叩いてもらうために用意したもの(枠)ですから、遠慮なくよろしくお願いしますね」と。
あるいは、「情報」という言葉。
これは「情(なさ)けへの報(しら)せ」です。それを知っても相手の気持ち(感情)が動かなかったとしたなら、相手にとって、それは「意味を持つ情報」ではなかったということを指します。
もし大人が「情報は全部渡しているのに、どうして子ども(あるいは部下)は、すぐに行動してくれないのだろう」と悩んでいるなら、あなたが情報とみなしているその、ものやこと自体を見直す必要があります。受け取った相手の顔に「腹落ち」した様子はありましたか? そうでなければ、それは相手にとっての「情報」ではなかったということなのです。
そして、私たちが今進めている「探究」という二つの漢字。共通しているのは何か分かりますか? そうです、どちらにも「穴(あな、あなかんむり)」があります。
「探」は、火をつけた木(つまり、松明)の明かりを頼りに、暗い穴の中を手探りで探る行為を指します。「究」は、穴の中に窮屈にかがんだ竜の姿からなり、ここから「きわめる」という意味に転じました。つまり「探究」とは、自分が興味関心を持った「穴(テーマ・分野)」の中を、広く探り、深く究めることなのです。
イノベーションとマーケティング: 終わりなき「自己探究」へ
美術の世界でもビジネスの世界でも、最後に求められるのは「イノベーション(革新)」です。
「innovation」は、「in(中)」+「nova(新しいもの)」で成り立っています。今あるものの「中」に、新しい何かを組み合わせることで生まれます。
一方で私は、自分の「中(内面)」を「新しい目」で見つめ直すことからこそ、本当の自己改革(イノベーション)が始まると考えています。自分はどこから来て、どこに行こうとしているのか。それを定期的に振り返りつつ、その自分自身を、今度は「マーケティング」していくことを忘れないでください。
自分自身という「製品(product)」をどう改良改善し、質や機能をアップデートし続けるか。そして、その日々良くなる自分を「いくらで(price)、どこで(place)、どう売り込むか(promotion)【マーケティングの4P】」を意識して生活していくのです。
モノとサービスの違いに注目すると、サービスの場合は提供と消費が同じタイミングで起きる「同時性・不可分性」があります。つまりストック(保存)しておくことができず、その場で消えていってしまうのです。だからこそ、「瞬間を逃さない勝負力」も大切になってきます。
経営の神様・ドラッカーは、企業の目的は「顧客の創出」であり、そのために必要なのは「イノベーション」と「マーケティング」の2つだけだと述べました。実はこの2つは、今説明したように完全に連続しています。どちらか一つだけでは完成しません。
あえて設定した「枠(穴)」をどこまでも深く掘り下げること(イノベーション)。そして、その中で生まれた「その手があったか!」という工夫を、相手の心が動く「情報」として世界に届けること(マーケティング)。これらを生涯にわたって続けていくこと。それこそが、私たちが子どもたちに手渡したい「自己探究」の本当の正体なのだ。私は、そう思うのです。
(次回・最終回へ続く)
今週の探究ワークアイデア
「2色だけの世界」に挑戦しよう!
お子さんと一緒に画用紙を用意し、使う色をあえて「黒」と「黄色」の2色(あるいは好きな2色)だけに制限してみましょう。テーマは「自分だけの秘密基地」や「明日の天気」など、なんでも構いません。
「2色だけで、どうやって奥行きや光を表現するか?」という魅力的な不自由の中で、お子さんがどんな「その手があったか!」を生み出すか、ぜひ特等席で見守ってみてください。
10歳からわかる「まとめ」
「その手があったか!」で、みんなをアッと言わせよう!
これまで、むかしの天才画家たちが残した「かっこいい見方のルール(型)」をたくさん見てきたよね。魔法のメガネをたくさん手に入れたきみは、もう立派なアートの探偵(たんてい)です。
さあ、次はきみが「自分だけの作品」を作る番!
でも、「なんでもすきに作っていいよ」と言われると、ちょっと迷っちゃうよね。
そんな時は、世界一流のデザイナーたちと同じ作戦を使ってみよう。
まずは、大すきな画家のマネっこ(オマージュ)からスタート。ゴッホみたいに絵の具をボコボコぬってみたり、ピカソみたいに形をカクカクさせてみたりするんだ。
その次にするのは、「ルールをひとつだけ、自分で変えてみる」こと。
「ゴッホのぬり方だけど、夜じゃなくて朝の景色にしてみたらどうなるかな?」って考えてみる。ルールという『枠(わく)』を守りながら、その中で「自分だけのアイデア」をちょっとだけプラスするんだね。
実はね、「探究(たんきゅう)」という漢字をよーく見ると、どちらの漢字にも「穴(あな)」が隠れているんだ。探究っていうのは、自分がみつけた「ふしぎな穴」の中に松明(たいまつ)の火を持って飛び込んで、奥の奥まで探りまくる大冒険のこと。
だから、まわりの大人を「うわあ!その手があったか!」ってびっくりさせるような、きみだけの最高の工夫(くふう)を穴の中で見つけてみてね。
正解(せいかい)なんてどこにもない。ルールの中で「どうやってみんなを驚かせようかな?」とワクワクしながら考え続けるきみは、世界でたった一人の、最高にかっこいいクリエイターなんだよ!
*本原稿は、ジェミ兄さんとの対話を基に構成されました。
※この記事では、我が家からはじめる「その手があったか!」の方法を紹介しました。

ジャートム株式会社 代表取締役
学校・企業・自治体、あらゆる人と組織の探究実践をサポート。
Inquiring Mind Saves the Planet. 探究心が地球を救う。
