「刺激」の有効活用

避けたい一般論

自身の興味・関心からスタートして取り組めれば理想の探究といえるでしょうが、生徒全員が最初からそうなるとは限りません。やりたいことが特にない、すぐには見つかりそうにない、という生徒が必ず現れます。一方で、時間的制約がある学校カリキュラムにおいて、自身の興味・関心が見つかるまで本人のやりたいようにやらせる、生徒に任せきりにする、などのことは学校側はできません。そこで、各学校とも生徒に刺激を与える手段を様々に工夫することになるのですが、その中で、SDGsに注目しているところを多く見かけます。SDGsの17の目標は幅広いため、生徒のそれぞれ異なる興味・関心にも、何かしら引っかかりを持たせるのに都合が良さそうです。

ただ、一方で、話が一般論になりがちな傾向も見て取れます。例えば、「6. 安全な水とトイレを世界中に」に刺激を受けた生徒の中に、アジアやアフリカの水問題に取り組もうと意欲を見せる個人やグループが出てきます。しかし、知らないことを「知って」「やってみて」「わかる」というプロセスを大切にしようとすると、いきなり、アフリカやアジアというのはどうだろうかと考えてしまいます。現地(現場)を直接見ないで進めることになりそうな探究は避けたいところです。もちろん、アジアの中に日本を含んでいるのなら話は変わりますが、話を聞くとそうではなさそうです。

私の個人的な感覚ですが、「世界」という言葉を聞いた時、無意識のうちに「日本以外」を連想してしまう日本人は多いような気がします。日本も世界の一員であることをしっかり意識したいものです。

日本に当てはめて連想する

家族のために生活用水を川まで汲みに行かなくてはいけないことから、学校に行けない子ども達が世界にはいる。ある国のある村の学校に水道を引こうと活躍した日本人がいる。そのようなニュースや公共広告を見たことがあるのでしょう。世界の水問題というと、機械的にある一定のイメージが頭に浮かぶのかもしれません。しかし、水問題は日本でも起こっています。今年お正月に発生した令和6年能登半島地震の後、既に4か月超が経過した今も、水道の復旧は完全にはなされていません。

また、最近ニュースで頻繁に見かけるようになったのは、水道管の経年劣化によって起こった水漏れや水の突然の噴き出しの様子です。

水道がまだ一度も通ったことのない地域とは別の問題ですが、水とトイレの問題は、日本でも確かに存在しているのです。

興味を持ったテーマが見つかった際には、身近なところに「現場」がないか、まず、日本に当てはめて連想することを癖にしてほしいと思います。

学校プログラムの活用

他にも、学校の中には、生徒に刺激を提供するため、定期的に様々なプログラムを計画するところがあります。外国人旅行者にインタビューする目的で、近隣の観光スポットにクラス全員で出かけストリートキャッチを試みたり、デザイン思考のプロセスを実体験することを目的に「駅前再開発」等の名目で、道行く地元の人にインタビューし、どんな駅前になって欲しいかを尋ねたり、といったことをするようです。

この際の注意点は、生徒が「やらされ感一杯」で取り組まないようにすることでしょう。自分事(わがこと)化して取り組むには、得られる情報を何に使うかを先にしっかり考えた上でインタビューの内容を計画しなくてはなりません。自分で考えたフィールドワークではないかもしれませんが、学校がせっかくお膳立てをしてくれたのですから、これらの機会を無駄にすることなく自身の探究にどう活かすかを充分に検討したいものです。

教員はPM

一方、様々な仕掛けを考える側の教員には、是非プロジェクトマネージャー(PM)の感覚を持って関わって欲しいと感じます。一つひとつの刺激には当然意味・意図があります。ただし、それぞれの有効な連携や順序をあまり考慮せずに「テキトー」にただプロセスに放り込むだけでは思いが通じず、何か勿体無いことになりそうです。せっかくですから、熟慮の上での仕掛けにして欲しいところです。

リサーチを生業とする私の立場で特に気になるのはインタビューです。「インタビューで一番大切なことはなんですか」と聞かれるたび、私は「聞く相手を間違えないこと」と答えるようにしています。バイアスをかけないように注意しつつ、相手の本音に迫る上手な聞き方を知りたがっている人にとっては拍子抜けの回答であることはわかっているのですが、いくらそのようなテクニックを磨いたところで、あなたが聞きたいことに対する回答を持っていない人にインタビューを実施しても良いことは何もありません。もっともらしく返された作り話を信じてしまうことになっては大変です。したがって、インタビューのフィールドワークを刺激・仕掛けとして探究活動に組み込む場合には、生徒のプロジェクトに関連した意見や考えを持っていそうな人が集まる場所、極端にいえば、そういう人しか集まっていない場所をまずは選択してもらいたいと願います。

有効な仕掛けや刺激を取り入れた探究学習を体系的にコーディネートするというのは一大プロジェクトです。地域の大人、地元の企業など様々な分野からの協力があればあるほど、生徒にとってはより深い学びになります。

生徒の、個人やグループの探究学習を「伴走者」として優しく静かに見守るのとは違い、探究学習全体のカリキュラム計画や協力者との良好な関係作りなどは、教師や学校全体の腕の見せ所といえるでしょう。探究学習は、少なくともその学校に在籍する数年間を通したプロジェクトとして、しっかり計画・実行したいものですし、可能な限り、小・中・高と繋がる連携も模索したいところです。各自治体の教育庁が積極的に役割を果たすことが大切でしょう。

10歳からわかる「まとめ」

・探究への取り掛かりとしてSDGsに注目する学校がある。うまく活用するには、話が一般論化しないよう、生徒が自分事として問題を捉えるための工夫が必要だろう

・教師や学校は、探究を有効に進められるよう、生徒への刺激や仕掛けを様々に考えている。生徒は自ら積極的にそれらを有効活用すべき

・一方、教師・学校・教育庁の側には、それらの刺激や仕掛けを体系的にコーディネートする工夫や努力が必要とされる

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