算数は「世界を透視するレンズ」

※本稿では、「構造を捉え、未来を想像する」ために算数を使う、ということについて考えます。

未来を当てる「予言者」への招待状

みなさん、こんにちは。光成章です。
前回のブログでは、宿題を「解く」から「創る」に変え、教室に江戸時代の「算額」を蘇らせる提案をしました。今日はその一歩先。算数という道具を使って、いかに「目に見えない世界」や「まだ見ぬ未来」を透視するか、というお話です。

「どこをどう計ればいいか?」を見極める力

これからの時代、複雑な計算はAIがやってくれます(。ただし、LLM: 大規模言語モデルである生成AIは、単純な計算を誤魔化すこともあるので要注意ですが)。電卓を使うよりも、さらにはるかに楽になるでしょう。では、人間にしかできない算数とは何か。それは「何を計算に入れるか(変数)」を見極めることではないでしょうか。
例えば、こんな問いを教室に投げてみたいと思います。これも、子ども達がいつも目にしているモノについてです。「今、工事のために校庭の端に『砂利(じゃり)』が積まれているね。あれ、全部で何個あると思う?」
「え〜!」という子どもたちの悲鳴が聞こえてきそうです。そう、全部数えるのは無理です。しかし、算数というレンズを使えば「透視」できます。「バケツ一杯分の砂利」を数えて、砂利の山の「広さ」と「高さ」から全体の体積を導き出して、バケツ何杯分くらいだなと見立てて掛け合わせる。すると、全体の数が「ざっくり」と見えてくるのではないか、ということを、児童と話しながら導き出してみてはどうでしょうか。
ここで大切なのは、正確な数ではありません。「だいたいこれくらい」と自信を持って言える「計り方のアイデア」を持てるようになるかどうか。この、「アタリをつける力」こそが、将来、実社会のあらゆる場面で効いてくると、経験上、私は思うのです。

「変な先生」が教える、未来の需要予測

ではここで、少し「変(数)な先生」になって、もう少し複雑な現実の課題を、児童達に投げかけてみることにしましょう。
「今度のイベントで、参加者に生菓子をその場で食べてもらいます。申込みは100人で締め切りました。でも、当日の天気予報は『雨』。会場は屋内だから実施はできます。さて、君なら何人分を用意しますか? その生菓子はすぐ傷んでしまうので、余分に作って置いておくことはできません。無駄を最大限に無くしたいという希望があります」
教科書的な正解は「100人分」でしょう。要らぬトラブルを避けるために「保険をかける*」という意味でも、申込者全員分を用意しておくのが筋です。ただし、社会を構成する人間には「感情」があります。それが「変数」となります。「会場は屋内でも、移動中の雨を嫌がって来場を断念(= 心変わり)する人がいるはずだ。どのくらい減ると思う? その根拠(エビデンス)は?」
「過去の雨の日のデータは?」「駅からの歩道には屋根はある?」「近所の人なら来るかも」「風も強くなる予報なの?」。こうして「悪天候」や「心理」を数字に置き換えようとする試みこそが、食品ロスをはじめとした社会の無駄を減らし、仕組みを最適化するのに役立つ、「生きた算数」の力なのではないでしょうか。

*保険をかけるといえば、保険会社こそ、精緻な計算をして保険料を算定しています。ここでは、それは、さておくこととしましょう。

実録: テーマパークが求めた「予言者」

なぜ、今度は、前回の「ざっくり大雑把に」とは反対に、「細かく分けてみようとする力」が大切なのでしょうか。私の30年近く前の実体験をお話ししましょう。
当時、知り合いのヘッドハンターから「ある専門家」を探して欲しいという極秘の依頼がありました。関西地方のある有名なテーマパークが、喉から手が出るほど欲しがっていた人材。それは、なんと「予言者」でした。
その人の仕事は、その日の入場者数を正確に予測すること。天気はもちろん、近隣の競合イベントの有無、さらには昨夜あった地震の影響、等々まで。あらゆる「変数」を読み解き、「今日、このパークには何人来場するか」を弾き出すのです。予測が当たれば、食事の仕込みもスタッフの配置もベストに調整できる。算数(予測)の力が、巨大なテーマパークの運命を左右していたのです。

データサイエンティストという職業

ヘッドハンターが私のツテを頼ったのは、彼の頭の中では、それがリサーチだという認識だったからでしょう。しかし、私の正直な当時の感想は、「それ、リサーチャーの仕事か?」でした。私も思わず「予言者」と呼んでしまうようなその仕事は、今では「データサイエンティスト」という名前で、世界中で最も必要とされる職業の一つになっています。
彼らは単に計算が速い人ではありません。「昨日の地震でみんなの気持ちはどう動くか?」「ライバル校の行事と重なっていないか?」といった、一見数字とは関係なさそうな「世の中の出来事」や「人の心」を想像し、それを「変数」として数式に組み込んでいくクリエイターなのです。
江戸時代の商人が「天候や物流の不確かさ」を読み解きながら商いをしたように、現代のデータサイエンティストもまた、数字というレンズで未来を透視しています。砂利の山を前に「どう計ればいいか」と考えるその試みは、まさにこの最先端の職業への第一歩だといえるのではないか、私はそう考えます。

「遺題継承」: 問いのバトンを渡す

江戸時代の和算には「遺題継承」という文化がありました。自分が解けなかった問いを、「続きを頼む」と次に託すのです。
今回の「遺題」はこれです。「イベントの来場者数を変えるのは『雨』だけではないはず。みんななら、他にどんな『隠れた変数』を計算に入れますか? その予測モデルを奉納してください」
計算間違いを指摘するより、構造を捉え、未来を想像しようとする子を褒める。そんな「社会算数探究」の時間を、一緒に作っていきませんか。

10歳からわかる「まとめ」

(先生、ニヤリと笑ってこう語りかけてみてください)

「みんな、算数のテストで100点を取るのもいいけれど、社会に出るともっと大事な『算数』があります。
例えば、イベントの日が雨だったら? 公式には『雨は関係ありません』と書いてあっても、みんなの心は『濡れるの嫌だな』って動くよね。その『心の動き』を、どうやって数字にするか。
算数は、目に見えない『人の気持ち』や『未来の出来事』を透視するための魔法のレンズです。計算間違いを恐れるより、何を計ればみんながハッピーになれるかを考えられる人になってくれたらなぁ、と先生は思います。
さて、雨以外に、みんなの足を止める『隠れた理由』、何か思いつくかな? そして『その影響度合いの数字』、それはどれくらいだろう?」

*本原稿は、ジェミ兄さんとの対話を基に構成されました。

※本稿では、「構造を捉え、未来を想像する」ために算数を使うことについて、考えました。