
※この記事では、AIが推論を行う時代に、人間に求められる「状況を引き受け、考え続けるマネジメント力」を、高校の探究実践と中学生のゴミ箱提案の事例から考察しています。
自らの人生を舵取りする力
今年度、茨城県のある高校で、2年生を対象に一年間「マネジメント探究」というゼミを担当させてもらっています。その学校には複数の探究ゼミがあり、生徒が自分で希望所属を選択する仕組みです。私のゼミを選んでくれた生徒は6人。少人数ではありますが、だからこそ一人ひとりと丁寧に向き合う一年になりました。
学校から「マネジメント」というお題をもらったとき、私の頭にまず浮かんだのは、次期学習指導要領の策定においてキーフレーズの一つともなっている「自らの人生を舵取りする力」という言葉でした。
マネジメントというと、どうしてもフレームワークや管理技法を教えることを想像しがちです。しかし私は、そうした「型」を中心に据えることはしたくないと思いました。現実は、あらかじめ用意された枠組みの通りには進まないことも多いからです。また、「ほぼ毎月定期的に実施する形態で一年間」という時間が与えられたことを活かした、内容設計にしたいとも考えました。
新旧のAIの比較
かつてのAIには「フレーム問題」と呼ばれる限界がありました。想定された状況の中では正しく振る舞えても、前提が少し変わるだけで対応できなくなりました。
以前(チェスで人間に勝った頃)のAIをわかりやすく表現すると、
- ルールやパターンを大量に覚える
- 「この状況ならこの手」という対応表を広げる
- つまり、考えているように見えるが、実態は高速な照合
でした。当時はまだ、「状況を判断し、考えることは人間にしかできない高度な知的活動だ」と言うこともでき、私達にとっては、ある意味少し安心できた時代でもありました。
ところが現在の生成AI、いわゆる推論モデルと呼ばれるものは違います。
推論モデルは、
- まず一度、状況や条件を整理する
- 何が前提で、何が制約かを把握する
ことをします。そうやって、いきなり答えを出さず、どこから考えるべきか、何が分かっていて何がまだ分かっていないのかを踏まえて、一つひとつ筋道を立てて結論に近づいていきます。言い換えれば、今のAIは状況そのものをマネジメントしながら思考しているとも言える振る舞いをしているのです。
以前は人間にしかできないと思われていたことを、AIはすでに実現し始めています。そうなると、私たちは改めて考えざるを得ません。人間に求められる力とは何なのか。どうなれば「学ぶ意味」が残るのか。
問題を引き受ける力
この一年の経験を通して私自身の中に残ったことが、「それこそマネジメント力ではないのか」ということでした。 うまくいかない状況に直面したときに、思考を止めず、問題を引き受け、前に進もうとする力です。生徒達は、自分でやりたいと思ったイベントを企画し、実際にそれを運営する中で学びを深めていきました。2種類のイベントに取り組み、2回目には、1回目の振り返りを活かした改良の成果も味わったはずです。
なお、この高校は茨城県内でも1位・2位を争う進学校です。知識量や理解力という点では、すでに高い力を持った生徒達ばかりです。だからこそ必要なのは「正解を当てる力」ではなく、「正解のない状況をどう扱うか」という体験ではないかと、スタート前から考えたのでした。
小中学校でよく見るケース
小中学校の探究活動に接する中では、こんな場面によく出会います。たとえば、観光地のゴミのポイ捨て問題を考えている際、子ども達からは「ゴミ箱を設置すればよい」という提案がまず出てきます。そして、お決まりのように、市や施設の担当者からは「それは難しい」と言われます。問題は、多くの場合その案が、そこでそのまま議論のないまますっと引き下げられてしまうことです。子ども達は素直に「分かりました」と言い、そこで思考自体が止まってしまいます。案が通らなかったこと自体は問題ではありません。私が残念に思うのは、「なぜダメなのか」を突き止め理解しようとしないまま、その「経験」を終わらせてしまうことです。
理由が分かれば、「なるほど、そういう考え方があるのか。であれば、別に考えていたこの案も難しいな。でも、もう一つのこれはいけるかもしれない」などと、思考を巡らせることができます。却下は失敗ではありません。次の一手を考えるための大切な材料です。
最近では、渋谷区がゴミ箱の設置を民間に義務付ける動きが話題になっています。観光客が捨てていくゴミを、住民の負担で処理し続けるのは妥当なのか、という問題提起が背景にあります。
ゴミ箱を置けば、あとは自動的に物事が回っていくわけではありません。回収も、分別も、処理も、すべてに人とお金が必要になります。その流れを、皆が納得し得る形にどう設計するかは、まさにマネジメントの問題です。
だから私は、子どもたちにこう問いかけるようにしています。
「なんでダメと言われたのだと思う?」
「ゴミの処理費用は、誰が負担しているのだろう?」
「ゴミ箱さえ置けば、あとは勝手に流れていくと思っていないかな?」
答えを教えるためではありません。考え続けるための視点を手渡すためです。
探究活動はどう「消化」されたか
探究活動は、やったかどうかよりも、どう消化されたかが大切だと思います。うまくいかなかった経験をそのまま記憶から消してしまうのは、あまりにももったいない。人生の舵取りが必要になる場面で、人は過去の経験から学んだことを材料に判断するからです。学びとして自分の中で噛み砕いていれば、記憶に留まる可能性は高まるはずです。
総合探究で行うのは、状況を整理し、問題に向き合い、簡単に答えが出なくても考え続けることといえるでしょう。「良い頭」とは、よく動き続けている頭のことではないでしょうか。探究の場で起きた一つひとつの出来事は、すぐに成果に結びつけられるものではないでしょう。けれども、思考を止めずに向き合った経験は、形を変えて、いつか別の場面で、自分の中で立ち昇ってくるはずです。
そのとき、静かに自分の人生の舵を切れるかどうか。総合的な学習・総合的な探究の時間は、そのための準備のために使う時間なのだと感じています。
10歳からわかる「まとめ」
・マネジメント力とは、自らの人生を舵取りする力
・推論モデルの生成AIは状況そのものをマネジメントしながら思考しているようなもの
・うまくいかない状況に直面した時に必要なのは、思考を止めず、問題を引き受け、前に進もうとする力
・ダメと判断された時、子どもは理由を確認する。大人は考え続けるための視点を手渡す
・探究活動は、やったかどうかよりもどう消化されたかが大切
*本原稿はチャッピー君との対話を基に構成されました。
【この記事の要点】
この記事では、AIが推論を行う時代に、人間に求められる「状況を引き受け、考え続けるマネジメント力」を、高校の探究実践と中学生のゴミ箱提案の事例から考察しました。

ジャートム株式会社 代表取締役
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