まずはスモールデータの扱いに慣れる

ビッグデータ活用・分析で「最下位」の日本

スイスの国際経営開発研究所(IMD)発表の「世界デジタル競争力ランキング」で、2022年、日本は引き続きランクを一つ下げ、63カ国中29位でした。中でも、Future Readiness (未来への備え) の分野で、サブファクターの Business Agility (ビジネスの敏捷性) に並ぶ小項目の低順位が目につきました。その中の一つに Use of big data and analysis (ビッグデータの活用と分析) 63位があります。

【参照】 World Digital Competitiveness Ranking 2022

そもそもビッグデータとは

ビッグデータはよく、5つの「V」の特徴を持つと言われます。Volume (量)、Variety (種類)、Velocity (速度)、Veracity (真実性)、Value (価値) です。「量」と「種類」は関連します。一定の形式に整理されていないデータも扱え、例えば、文字も音声も画像も位置情報なども「混在したまま」処理できます。「速度」については、データをリアルタイムで活用する場面では特に大切です。「真実性」は、活用する元データ自体の真偽に問題があれば分析に意味がないことを指し、ビッグデータ特有の要素とはいえません。「価値」には、元データそのものの価値も、各データが組み合わさり生まれる新たな価値も、両方あるでしょう。

「価値」が問題

最後の「価値」についてが、最も注意を要することであろうと私は考えます。データを組み合わせて処理し、出てきた結果に全て意味・価値があるとは限りません。よく指摘されることに「相関関係はわかっても因果関係はわからない」ことがあります。相関関係ですら、ただの偶然で「関係ありそう」に見えることもあります。検証が必要です。

データの意味をしっかり意識してもらいたい探究では、まずは、検証がしやすいスモールデータから取り組むことを勧めます。扱いが簡単で、有意義な洞察が可能だからです。

福井の幸福度を例にとると

前回、福井県がその幸福度の高さに比べ幸福「感」が低めであることに触れ、幸福度が高いと言われ続ける県民の反発があるかもしれないという疑問を投げかけました。

第25回 「幸福度と幸福感は違う」

今回は「いやいや、それだけではないだろう」「幸福感が低い原因がきっと何か他にあるに違いない」と考える際の、仮説の立て方と、仮説の有効性確認の方法について紹介します。

文化面スコアが低い福井県

一般財団法人日本総合研究所が隔年で実施する「全47都道府県幸福度ランキング」で直近5回連続1位の福井県ですが、研究所が抽出する80の指標すべてでトップというわけではもちろんありません。福井県のホームページに簡潔なまとめが掲載されています。それを見ると1位は仕事分野と教育分野のみです。そこに生活分野4位、健康分野11位が続きます。一方、基本指標では21位、文化分野に至っては47都道府県中41位という結果です。

【参照】 幸福度日本一ふくい

文化について、文化庁は「人々に楽しさや感動、精神的な安らぎや生きる喜びをもたらし、人生を豊かにするものであり、豊かな人間性を 涵養(かんよう)する上で重要です」と説明します。

こうなると、「文化分野の不充足とそれへの不満が、県民の幸福感が高くないことに影響しているのではないか」という仮説が浮かびます。

日本総合研究所の文化分野指標に何が含まれているか具体的に見てみましょう。【余暇・娯楽】カテゴリーでは、教養・娯楽(サービス)支出額、余暇時間、常設映画館数、書籍購入額、「学術、文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動」を行うNPO認証数の5つ。【国際】カテゴリーでは、外国人宿泊者数、姉妹都市提携数、語学教室にかける金額、海外渡航者率、留学生数の5つ。合計10です。

指標を見ながら文化の意味を考える

指標を見ると、ここでの文化の定義がなんとなく見えてきます。と同時に、博物館や美術館あるいは劇場や音楽ホールの数、加えて、展示・上演の数や内容、および来場者数は勘案しないのか? 図書館の数や蔵書の種類と冊数、利用者数・貸出数は? といった疑問が浮かぶでしょうか。いわゆる文化講演会と呼ばれるものについても気になります。これについては、教育指標の【社会】カテゴリーに社会教育費、社会教育学級・講座数という項目があり、そちらとの兼ね合いも要確認でしょう。

また、文化活動はもっと広く捉えなくてもよいか? 地元の伝統行事やお祭りなどがしっかり残っていることも文化の継承ではないのか? 伝統産業についてはどうか? プロ・アマを問わず、地元に様々なスポーツのチームがあり、参加できたり直接会場で応援できたりする環境が整っていることは文化の充実度に繋がるのではないか? 等々のことも一考の余地があるでしょうか。

もちろん、設備や道具を揃えるだけで文化度が高まるわけではありません。文化庁は先の文言に続け、「また、正義感や公正さを重んじる心や、他人を思いやる心などは文化を大切にする環境の中で培われます」と述べています。自分が暮らす土地で、そのような心に日頃触れないなら、幸福感を抱くことは難しいでしょう。ますます文化と幸福感は関係がありそうな気がしてきます。

【参照】 文化を大切にする社会の構築について 〜 一人一人が心豊かに生きる社会を目指して

調査票を組み立てる

ここまできたら、いよいよ文化と幸福感の関係を明らかにするのに役立つスモールデータを自分で集めてみたいと考えるはずです。「県民インタビュー」「県民アンケート」の素案を考えます。どのように聞けば有用な声が聞けそうか、探究開始です。

なるべく素直な意見を吸い上げるにはどのような質問から始めますか。「あなたは今、幸せを感じていますか」でしょうか。それとも「あなたは普段、どんな時に幸せを感じますか」でしょうか。「どんなことに幸せを感じるか」を問い、「それはなぜか」を忘れずに尋ねます。すると、いくつか挙がる具体的な幸せの例に共通した「一つ上の概念」がだんだんと見えてくるはずです。そこに文化的な要素がどの程度関係していそうかを明らかにしていきます。

その際、自分の想定ストーリーを無理に当てはめようとすることは避けねばなりません。仮説が間違っていた際、それに気付くことができなくなります。その失敗例について今月の読者交流会でお話しします。ご興味ある方はご参加ください。

第6回 「10歳からわかる!エビデンス対話」読者交流会

探究は調べ学習では終わらない

文化と幸福感に関係がありそうだとわかれば、この線に沿って更に探究を進めます。幸福感に繋がる文化施策の具体案を実現して、その効果を測る。効果が充分でなければ施策の改良を図る、という具合に探究を深めていきます。探究活動は「調べてこんなことがわかりました。以上」とはなりません。

10歳からわかる「まとめ」

・ビッグデータの活用・分析で、日本は最下位といわれる

・ビッグデータ活用が今後大切になることはわかる。データの扱いに慣れるため、まずはスモールデータの収集から取り組みたい

・それには仮説を立てるところから入る。素案を裏付ける既存データや言説を集め、できるだけ精度の高い仮説を組み立てる

・仮説が立ったら、それを検証するための調査を計画する

調査中は、自分に都合の良いストーリーに縛られないよう留意することが大切人々の考えや世の中の現実が、自分の仮説と異なる背景・理由に因ることが見え始めたら、そこから素直に学べるよう自身の頭を切り替える

仮説の間違いは最終的には何ら問題にならない。事実がよくわかってくるのは、仮説を立ててそれを検証しようとし始めたからこそ。疑問をどんどん抱くこと、疑問に対する自分なりの答えを怖気付かずに持つこと、それを日々実行しよう

・自分の考えが合っていたとしても、それが最良の解決策とは限らない。日々改良やアップデートを続ける姿勢を持ち続けよう

以下、余談です。

「すご福」が始まったのは

すごい福井人になる! ゼミと、その公開セミナーを始めたのは、福井ではいわゆるセミナーの開催が少なく、その時点で自分が興味を抱くものに参加するには大阪や東京まで出かけなくてはならないとの不満を耳にしたからです。会場までの交通費と移動に必要な時間。セミナー終了後に講師との懇親会にも出席しようとすると終電に間に合わなくなり一泊する必要まで出てきてしまう。福井に住むゆえの不便や負担。「なら、先生を福井に呼ぼう。どんな話を皆さんは聞きたいの? 一人五千円の参加費で参加者を50人集められたら大抵のことはきっと実現できるよ」で始まったのが「すご福セミナー」です。初回の会場では「人生初の有料セミナー参加です」という声も耳にしました。

そんなことを思い出すと、やはり、幸福感と「文化行事」の関連は深いように思います。

すご福は、私にとっての探究ツールでもあります。どんなコンテンツなら参加者をより多く集められ、かつ満足感も高いのか、それ(の変化)を今後も探っていきます。

【参照】 すごい福井人になる! ゼミ

第27回「日本人にこそ推すエビデンス思考」を読む