2025年、探究総括

頭の中の「問い」

「探究では、子どもをどこまで『子ども』として扱うべきなのか。」

福井県坂井市では、探究活動支援の私の対象は、小中学生とその先生達です。2025年、委嘱されている探究学習アドバイザーの仕事に関わる中で、何度もこの問いが頭に浮かんできました。

わかりやすく説明すること。失敗しないように先回りすること。子どもが戸惑わないように配慮すること。どれも大人として自然で、善意に満ちた行為です。一方で、それらが子ども達の思考の深まりや当事者意識を、知らず知らずのうちに制限してしまってはいないか——そんな違和感を覚える場面がこれまで何度となくありました。

そこで2025年は、探究活動支援における自分の立ち位置を、意識的に変えてみようとした一年でもありました。発表会という「節目」だけで関わるのではなく、プロジェクトの立ち上げから、子ども達の迷いや停滞も含めて伴走すること。あるいは、限られた時間の中でも、安易に肯定せず、実現の難しさをそのまま返すこと。その実践を通して見えてきたのは、探究サポートにおいて大人が果たすべき役割を、改めて問い直す必要性でした。

本稿では、2025年に坂井市で取り組んだ探究活動支援の中から、特に象徴的だった二つのケースを紹介しながら、今年得た手応えを整理してみたいと思います。

「発表」から「プロセス」へ

昨年の私は、先生達への研修を別として、子ども達との直接的な接点という面では、主に中間発表や最終発表の場でコメントをする、いわばコメンテーターとして探究に関わることが多くありました。発表の質を高めること、問いのズレを指摘すること、次につながる視点を示すこと。それらには一定の意味がありましたが、同時に、探究の中心が発表会に集約されてしまう危うさも感じていました。

2025年は、探究を「イベント」ではなく、「時間をかけて育つプロセス」として捉え直す一年でした。その象徴的な取り組みが、以下の二つのケースです。

ケース① 中学校での長期伴走

坂井市立丸岡中学校の3年生が取り組む地域活性化プロジェクト「丸岡ラバーズ」には、1月のプロジェクトキックオフから12月の最終発表まで、ほぼ月に一度のペースで関わりました。対面でのやり取りのため直接学校を訪問することもあれば、オンラインでの対話もありましたが、いずれにしても「定期的に会話を重ねる」ことを大切にしました。

ここで意識したのは、答えを与えることではなく、考え続けるための問いと現実を共有することです。アイデアが広がりすぎているときには、実現性の壁を示す。逆に、現実に引きずられすぎているときには、なぜそれをやりたいのかを問い返す。

こうしたやり取りを重ねる中で、生徒たちは次第に「先生や外部の大人に評価されるための探究」ではなく、「自分たちが納得できるプロジェクト」へと軸足を移していきました。

探究は、短距離走ではなく長距離走です。長期的に伴走することでしか見えてこない思考の変化が確かにあることを、今年は改めて実感しました。

ケース② 短い関わりだからこそ率直に

一方で、坂井市立東十郷小学校の5年生との関わりは、各チームにつき2回のみでした。初回は6月。子どもたちは「困りごとを解決する」ためのアイデアを意欲的に提示してくれました。その際、私はあえて、そのアイデアが抱える実現上の難しさを率直に指摘しました。技術的な壁、協力者の問題、継続性の課題。小学生に対して厳しすぎるのでは、と迷いがなかったわけではありません。しかし、安易に肯定してしまえば、後で必ず行き詰まると感じたからです。

そして12月の発表会。子どもたちのアイデアは、時間をかけて練り直され、とてもよく考えられたものに仕上がっていました。最初の案をそのまま磨いたのではなく、指摘された壁と向き合い、自分たちなりに乗り越えようとした痕跡が、随所に見られました。

短い関わりであっても、思考の重さを子ども自身に引き渡すことはできる。その確信を、この実践から得ることができました。

子ども扱いしない探究支援

二つのケースに共通していたのは、「子ども扱いしない」ことを意識した関わりでした。

それは決して突き放すことでも、厳しくすること自体が目的でもありません。年齢を理由に問いの深さや現実の制約を軽くしないこと。子どもであっても、一人の思考主体、一人の実践者として向き合うこと。その姿勢が、結果的に子どもたちの当事者意識や粘り強さを引き出してくれたように思います。

探究において大人がすべきことは、正解を示すことではなく、考え続けるための環境と対話を整えることなのだと、2025年の実践を通して、少しずつ言葉にできるようになってきました。

2026年に向けて

2025年は、私自身にとっても、探究支援のスタンスを問い直した一年になりました。

子どもたちをどう見るのか。どこまで関わり、どこで踏みとどまるのか。その問いに対する明確な答えが出たわけではありませんが、少なくとも、進むべき方向は実感を伴って見えてきたように感じています。

この一年の手応えを踏まえながら、来年の探究支援において特に注力したい分野について今後、整理していきます。そのことについては、次回のブログ「2026年、探究支援の注力分野」で、改めて書いてみるつもりです。

探究は続きます。子どもたちと同じように、大人である私自身も、問いを持ち続けながら。

10歳からわかる「まとめ」

・探究を、「イベント」ではなく、「時間をかけて育つプロセス」として捉え直すことが大切

・一方で、短い関わりであっても、思考の重さを子ども自身に引き渡すことができるのも事実

・探究において大人がすべきことは、考え続けるための環境と対話を整えること

*本原稿はチャッピー君との対話を基に構成されました。