総合的な学習から探究へ

「探究」連携への「総合」時間活用

高等学校で始まる「総合的な探究の時間」をより充実させようとすると、中学校での「総合的な学習の時間」の過ごし方がとても大切になってきます。来年度、私は中学校の先生たちとの交流の機会を各地でこれまでより増やしていく計画を持っています。

2024年度に先生たちとともに注力したいと考えていることを、2023年度末の現在時点で、先にここに記しておくことにします。これを時々振り返ることとし、実際に活動してみて発見したことや予想と異なったことなどを、都度レポートしていくことにします。

サポートの主役は先生と学校

総合的な学習の時間に行うこととして、生徒が教科で学ぶ知識の活用・実践を思い描く中学校は多いと見受けます。OECDが実施するPISAの数学の内容を見ても、数学の知識を実社会に応用・活用できる力を問う問題が多く、現代の教育が、学校での学びと社会生活とのスムーズな結び付けを大いに意識していることを強く実感します。その流れで、教室内での授業より校外に出て実際に体験・体感することを重視し、地域の大人や企業との触れ合い、それらの人々から話を聞く機会をつくることを大切にしています。気になるのは、その際、外部に「丸投げ」してしまっているような印象を受ける学校を時々目にすることです。学校教育に熱心な地域の大人が大勢いることは確かで、中には「親切・丁寧に」学校側の気持ちを汲んで、素晴らしいプログラムを「わざわざ」用意してくれる企業もあります。しかし、それにおんぶに抱っこで甘えて任せ切りにしていると、いつしか外部協力者の心に「学校はもっとしっかりして欲しい」の気持ちが湧いてきてしまうことでしょう。

そうならないよう、学校は当事者意識を強く持たなくてはなりません。遠慮せずに、あるいは面倒臭がらずに、外部協力者と事前に打ち合わせをする機会を必ず持ち、生徒が訪問する目的や、そこで生徒にどんなことを感じ取ってもらいたいか、その趣旨に沿って協力者側から提供してもらいたい話や素材、見学場所等には何がありそうか、などをしっかり確認しておくべきです。外部協力者には訪問で貴重な時間を割いてもらうわけですが、だからこそ、その時間を最大限に有効活用させてもらうための準備を怠ってはいけません。そして、もちろん、生徒にも訪問前の準備・下調べをじっくりとしてもらわなくてはなりません。協力者から、「事前に何も調べずに来たの?」といった不信感を抱かれてしまっては、協力関係の継続は期待できません。

先生と外部協力者が合意しておくこと

高校での「探究」に繋ぐことを考えた時、総合的な学習の時間の充実を図る上で中学校の先生が意識すべきことには、下記のことがあると考えます。これを、外部協力者の方々にも一通り理解しておいてもらうと、総合の時間はより有意義なものになりそうです。外部協力者へのブリーフィングに活用するという観点から書いてみることとします。

自身による目標設定: 学校では、探究活動の目的や目標を生徒が自ら明確に設定することを重要視していること。生徒が何を達成しようとしているのか、探究活動を通じて何を学びたいのかを、自ら考えてもらっていること。

興味・関心の掘り起こし: 生徒が関心を持つことであれば自主的に学習に取り組む姿勢が養われると考えられます。そのため、大きな括りは学校が提示するにせよ、その中で、(小)テーマは、生徒一人ひとりの興味に基づいて決めることを大切にしていること。

情報収集と分析: 総合的な学習を通して、情報の信頼性や有用性を見極める力を身につけてもらうことを重視し、さまざまな情報源からのデータ収集の仕方と、得た情報を批判的に分析する方法(クリティカル思考)を指導していること。

問題解決能力の育成: 失敗を恐れずにチャレンジする心構えを育てることを重要視する観点から、都度直面する問題や課題に対し、複数の解決策を考えた上で、それらを評価するプロセスを通じて問題解決能力を養っていること。

伝わるように伝えること、評価の受け入れ: コミュニケーション能力の向上と自己反省の重要性を伝える観点から、活動結果を他者に正しく伝えるスキルの上達を目指しており、実践のたびに他者からの評価を受け入れ、次に活かそうとしていること。

振り返り: 自己成長のためには他者からの評価とともに自己評価も大切であるため、活動を自身で振り返り、学んだことや感じたことを整理するリフレクションの時間を持つよう促していること。

柔軟さと適応: 計画はもちろん大切ですが、全てが計画通り直線的に進むというより、むしろ非線形で進むのが「探究」だといえます。そのことを理解し、計画が変更になることもあるという柔軟性を持つことの大切さを伝えていること。

総合すると、教師は答えを教えるのではなく、生徒が自ら考え行動できるようになるためのサポート役に徹するという姿勢で取り組んでいるため、外部協力者の方にも、可能な限り、その認識で協力してもらえるとありがたいという旨をしっかりと伝えます。

高校生と中学生の違い

上記は、学校が既にそれぞれの項目を実施できているという前提で書きましたので、中学の先生の中には驚かれた方もいるかもしれません。現在すべてを出来ていなくても、もちろん大丈夫です。また、中学生に対して高校生に期待するようなことを望んでも負担が大き過ぎます。対中学生ということでは、以下の点に注意・配慮することが重要です。

段階的な導入: 複雑な課題よりも身近なことから始めること。徐々に難易度を上げていくことで、生徒の興味を引きつけ学習へのモチベーションを高める工夫が求められると考え、探究学習の概念やプロセスを中学生にも理解しやすいよう段階的に導入すること。

具体的なガイダンス: 中学生は自己管理能力や情報収集、分析能力が発達途上にあるため、具体的なガイダンスが必要です。情報の探し方、整理の仕方、問題解決のステップなど、生徒が迷わずに進められるようサポートするには、自主性を過度に求めず、時には明確に指示することも大切であること。

グループワーク活用の際の留意点: 協働学習を通じて互いに知識を共有し、学び合う環境を提供することで、コミュニケーション能力や協調性を養うことを狙います。ただし、中学生にはまだ個人差が大きいことが予想されるため、グループの組み方や役割分担に注意し、全員が活躍できる機会を作ること。

フィードバックの重視: 生徒が自身の学習過程や成果について、具体的かつ建設的なフィードバックを受けることで自己認識と自己改善の機会を持つことができます。その際、教師からだけでなく、生徒同士からもフィードバックを得られるように促すこと。

安全な学習環境の確保: 特に中学生の場合、探究学習を通じて失敗を経験することも多いため、失敗を責めるのではなく、そこから学び取ることの価値を伝え、安心してチャレンジできる環境を提供すること。

保護者との連携: 家庭での話題提供や、家族が探究活動への興味・関心を示すことが、生徒の学習意欲をさらに高めることにつながることから、家庭と学校が連携し、探究活動への理解と支援を促すこと。

まとめると、中学生が自信を持ち楽しみながら総合的な学習の時間に取り組めるようにするには、対高校生の場合と比較し、生徒一人ひとりの発達段階や個性に合わせた支援をより強く意識することが求められているといえます。

10歳からわかる「まとめ」

・高校で充実した「総合的な探究の時間」を過ごすには、中学での「総合的な学習の時間」を大切に活用しておく必要がある

・中学時代に自身の興味・関心に気づき、それに主体的に取り組む練習を始められることが理想

・ただし、まだ発達段階にある中学生には高校生に対するよりもきめ細やかな支援が必要となる。自主性に任せて放り投げてしまわず、時にはやり方を具体的に指示するようなことも必要になる

・保護者と学校の連携により、本人のモチベーションを維持することも求められる

以下、余談です。

広げる・深める

小学校の夏休みの自由研究が好きで得意で頑張ったような子どもを除くと、「探究」のテーマを自分で決めなさいと言われてすぐ何かを答えられる生徒はあまりいないのが普通でしょう。中学校の特に1年生は、学校が指示するテーマでスタートするケースがほとんどだと思います。とはいえ、共通のテーマは勢い大きなものになりがちです。例えば、「地域」がテーマでも、地域の産業、地域の特産品、地域の観光、地域の伝統など、様々あるでしょう。最初は、その中からどれか選ぶような方式でも自分の興味が少しは活かせるはずです。絞った中で広げてみる、広げた中で深めてみる、を繰り返しながら、生徒には、より関心の向く事柄を探してもらいましょう。大人は、悩んでいる生徒の途中経過を聞きながら、5W1Hの質問を投げ返すことで、生徒の頭の中の整理を手伝います。頭の整理を促すため投げかけるに相応しい質問については、是非、先生方同士で話し合ってもらいたいと思います。

第53回「キャラ設定で進める探究」を読む