キャラ設定で進める探究

ペルソナ

マーケティング活動の中で「ペルソナ」という用語をよく耳にします。新商品や新サービスを何か開発する際、大量生産・大量消費の時代であれば、対象となるユーザー像の決め方は、ざっくり「働き始めて間も無い独身の20代男性」程度のものだったでしょう。時代が進み、ターゲットとなるユーザーに、よりマッチさせた機能等を有する商品やサービスを開発する必要が出てきてことで、更に詳細にユーザーをイメージする方法としてペルソナの活用が一般化してきました。外的側面だけでなく、その人の内的側面まで含めて細かくユーザー像を定義します。職業や趣味や家族構成のようなことはもちろん、その人の職業観や、住んでいる所の周りの環境やそこを選んだ理由、それと家族への思いや趣味への入れ込み具合との関係といったところまでもイメージし、そういう人に必要な機能や不要な機能などについて想像を膨らませて企画のブラッシュアップに活かします。

探究に活かすペルソナ発想

この、ペルソナの考え方を中学や高校の探究に活かすことを考えた場合、プロジェクトに影響を与えそうな関係者(ステークホルダー)のことについて想像を膨らませる際に使えるのではないかと思います。探究導入時に、クラス全員で意見を出し合い、協力してもらいたい関係者にはどんな人がいて、その人は自分たちのテーマに関することにどんな考えを持っているだろうかと想いを馳せる際に使ってみると面白いでしょう。ゲームや漫画に限らず、小説や物語に普段から触れている生徒たちなら、キャラ設定の重要さは自然に理解していると思います。

例えば、地域探究なら

学年テーマで「地域探究」をすることになっているなら、その地域に暮らす人々にはどんな人がいるかを、クラス全員でどんどん挙げて黒板に書いていきます。地元の駅の駅長さんや駅員さん、バス会社の社長やバスの運転手さん、タクシー会社の社長や運転手さん、レンタカー店の店長や店員さん、交番のお巡りさん、地元に住んでいて職場も地元だという会社員、地元に住んでいるが職場は地元ではない会社員、八百屋さん、お花屋さん、スーパーの店長や店員さん、飲食店の店主や店員さん、銀行の店長や店員さん、お土産物屋さん、農家さん、お寺の住職さん、神社の神主さん、挙げていけばキリがないでしょう。もちろん、最も「身近」な自分たちや学校の先生も入れて構いません。そうすると、職業だけでみても、少なくともクラスの生徒数を簡単に上回る数の「タイプ」の人たちが地元で生活していることが簡単にわかることでしょう。

その中で、各人がどれか一つを選び、その人について想像を膨らませて架空のキャラ設定をします。もちろん、職業自体をある程度架空のもので設定しても構いません。現存する仕事だけで考えていると、具体的に実在する人が思い浮かんでしまい支障が出る恐れもありますから、その辺りは臨機応変に行って欲しいところです。キャラ設定においては、その人の年齢・性別、服装や持ち物などファッション、住んでいる場所、家族構成、平日の過ごし方、帰りに寄り道するかしないか、するとしたらその場所、休日の過ごし方などといった目に見える部分の様子をまず想像します。次に、直接は目にすることができないその人の心や頭の中に思いを馳せ、どのような考えが、それぞれの行動に現れているのかを想像します。この内面についてどれだけ具体的に想像できるかで次の展開の広がりが変わってきます。上述の職業リストでは、鉄道、バス、タクシー、レンタカーなどと、交通機関と一括りにせずにわざと分けてみました。それぞれの違いなどもあえて意識しながら、ゆっくり時間をかけて想像力を膨らませてみてください。設定はフィクションですから自由に想像してもらって構いません。ただし、あなたがそう考える根拠・理由はしっかりと持つようにしてください。

テーマと「絡める」

キャラ設定ができたら、それぞれのキャラが、自分たちのテーマについてどんな思いを抱いているだろうかを考えます。地域の観光をテーマに探究しているなら、駅長さんやバスの運転手さん、飲食店の店長さんやお土産物屋さん等が地元の観光資源や観光施策、観光客についてどんな意見を口にするか演じてみたり、紙に書き出したりします。それぞれの立場に立ってそのつもりで物事を見たり考えたりすると、自分の立場とは違った視点での見え方や考え方ができるものです。これが、このエクササイズの目的です。

セリフに投影される自身の考え

生徒は、駅長さんならこんなことに関心が向いているだろうなぁ、バスの運転手さんなら街の風景を毎日見ながらこんなことに気づいているだろうなぁ、等のことに意識を向けながらセリフを捻り出すことになるでしょう。とはいえ、セリフの中身には生徒自身の考えが投影されています。このエクササイズの効果は、声にしやすい雰囲気作りにあります。「あなたはどう思う?」と聞かれると恥ずかしさもあってなかなか意見を言いづらいものですが、「駅長さんが言いそうなセリフを考えてみて」と言われると、責任逃れができることもあり、素直に色々と言い出しやすくなるものです。そうやって、生徒が皆、誰かに自身を投影し、どんどんと意見を出し合います。

10歳からわかる「まとめ」

・探究のテーマについて考える際、関係してくる人にはどのような人がいるかを想像し、それらの人の立場に立ってみると、意見に広がりが出る

・その際、関係者のキャラ設定もしてみると、さらに想像が広がる

・自分の代わりにそのキャラに喋らせるようなこのやり方は遊び半分のエクササイズだが、リラックスして取り組むと思わぬ充実感を味わうだろう

以下、余談です。

プロジェクティブテクニック

消費者リサーチでは、様々な投影法(プロジェクティブテクニック)が使われます。ある製品カテゴリーの製品について、銘柄による違いを明らかにしたい場合、それぞれを花に例えたり、車に例えたり、料理に例えたりなどするのも一種の投影法です。あるブランドの製品のことはバラに例えて、別のブランドのことはチューリップに例えた人がいたとしたら、なぜ片方はバラなのか、もう一方はなぜチューリップなのかがわかるように説明をしてもらいます。その説明を聞きながら、その人が考える両者に対する微妙なイメージの違いや、その人の深層心理にあることなどを明らかにしていきます。

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