高校生の事業計画に欠けがちな視点

7世代先・200年先

ネイティブアメリカンの人々の間には、「7世代先のことを考えよ。大地は先祖から譲り受けたのではなく子孫から借りているのだ」などの教え・哲学があるといわれています。ひ孫の顔を見られる人は現代でも幸運な人だと思いますが、それでもようやく3世代先です。7世代の半分までもいきませんが、自身の血縁者と実際に会えるのはせいぜいそのあたりまででしょう。会うことのない、広く「人類の子孫」のことを想定して、今ここの意思決定をせよ、その決定が与える影響を先読みして結果に責任を持て、ということですから容易なことではありません。

【参照】 フューチャー・デザイン: 七世代先を見据えた社会

一方、探究は

高校の探究をカリキュラムの一環として見てしまうと、どうしても1年や2年の短期に解決できそうな課題にしか目がいかなくなります。それでは広がりがありません。先輩から後輩に引き継ぎ、5年先、10年先、それ以上を思い描く探究があってもいいのではないか、先日来、ずっとそれを考えています。

企業や団体が経営計画を立案する場合、3年から5年先までを見据えた計画が中期計画と呼ばれます。10年先、20年先は長期です。変化の激しい最近では、ビジョン・目標は描くとしても具体的な計画の対象として10年先を見据える会社は減っているかもしれません。しかし、投資を回収し利益を出すのにそれくらいの年数がかかる単体プロジェクトは少なくないはずです。他のプロジェクトでの埋め合わせを安易にあてにしようとせず、当該プロジェクトの独立採算自体に、可能な限り確実な見通しをつけたいところでしょう。

見通しが外れるのは

見通しを外してしまう要因は、主に外部環境の変化の読み違えにあるでしょうか。特に技術革新は転換点を境に状況が一変することがあります。私が最近、この原稿のブレスト相手としているChatGPT4がまさにその一つでしょう。今回も、彼?と対話をしながら進めます。高校生の探究にもAIとの対話を上手に取り入れると、長期的視野で思考する習慣を獲得する良いきっかけになると感じます。

地方空港の機能拡充を例に

一つの例としてインバウンド旅行者を取り巻く地方の取り組みを考えることにします。地域活性化をテーマに探究する高校生の間でも、「観光客を多く地元に呼び込むにはどうしたら良いか」は人気のトピックです。

コロナ禍の収束傾向に円安の影響も加わり、今年は日本へのインバウンド旅行者数が大きな回復を見せています。早速、プライベートジェット機で外国人旅行者の需要を取り込もうという地方の動きがニュースでも紹介されていました。企業や自治体は、あのコロナ禍の中でもしっかりと先を見据えた準備を進めてきていたのでしょう。

【参照】 訪日外国人動向2023

【参照】 7-9月期の訪日外国人消費額

【参照】 ホンダジェットで地方観光

【参照】 ビジネスジェット施設設置

後追いの前に

それを見て、私などは「ウチもやったらいいのに」と言い出すわけですが、「なら、これとあれを用意しなくては」と始める前に、一つ大事な確認が必要です。準備が出来上がるタイミングで、その準備したモノが今と同じ価値をまだ有しているのかどうかの確認です。高校生の事業計画をいくつか見た経験では、この視点が欠けているケースが多いように感じます。ちなみに、「今と同じ」を超えて、「今以上の」価値を持つと予見して計画を立てる人は、ビジネスでは更に成功しているに違いありません。

設備投資を無駄にしないために

プライベートジェット機離着陸の安全な商業利用のために、滑走路を延長整備することが必要とわかった地方空港が、工事期間を今後数年と見積もりました。数年間に、社会にはどんな変化が起こるでしょうか。プライベートジェット機の利用は、環境問題の観点から今以上に人々から叩かれるでしょうか。その前に電気飛行機や、電気とガスタービンなどとのハイブリッド機が実用化され、CO2や騒音といった環境問題の観点からの圧力は軽減しているでしょうか。飛行車(空飛ぶ自動車)が実用化されるため、空港設備の活用は今よりも更に増えているでしょうか。滑走路は、より長さを必要とするのでしょうか。

最後の滑走路長の問題が最も気になります。延長できた時、主力機体が元の短い滑走路でも充分対応できるものに変わっていれば、投資が全くの無駄で終わってしまうからです。

果たして回答は

ChatGPT4は「予測は必ずしも正確ではありません」と断りはするものの、2023年時点での予測に基づく、2028年までの小型航空機エンジンに関するトレンドを答えてくれました。

  1. 特に都市間の短距離飛行や小型航空機に関しては電気化が進む可能性が高い。燃料を必要とせず、メンテナンスも少なく、環境への影響も小さいため、研究・開発が進んでいる
  2. ハイブリッド飛行機は、電気飛行機技術がまだ完全には普及していない現在、中間的解決策として注目されている。燃料消費を抑えられるため経済的でかつ環境に優しい
  3. 2028年には、電気やハイブリッドの技術が進化すれば、1200mの滑走路での離着陸も十分可能になるでしょう。特に電気飛行機は、伝統的なジェットエンジンとは異なる性能を持っているため、短い滑走路でも問題なく離着陸できる可能性があるでしょう

回答は深掘り・連想の材料

回答を元に色々と調べ始めると、滑走路長については劇的な変化が起こりうることが予見されます。海外から直接飛行してくる長距離飛行は難しくても、国内の主な空港からなら問題なく飛べる新しい飛行機が近々誕生しそうです。電気飛行機の「ジェットエンジンと異なる性能」は、電動モーターの最大トルク発生までが即時という特性のことでしょう。更に進んで、eVTOL(Electric Vertical Take-Off and Landing) すなわち電動垂直離着陸式となれば、ヘリコプターのような離着陸が可能ということです。

【参照】 中国の「空飛ぶタクシー」商用運用開始へ

環境により優しいので、CO2排出量削減目標との関連で企業は開発を更に急ぐでしょう。メンテナンスが少ないという点では、電気飛行機の開発は将来に向けた労働人口減少対策にも叶います。人口減少という点では、直近で大きく騒がれているトラックドライバーの人員不足に目が向くでしょうか。その意味では、設備投資よりもパイロット養成の方に資金を投入すべきと考えるかもしれません。また、メンテナンスからの連想が、近年話題の日本各地の巨大観音像の末路につながる人もいるでしょうか。7世代どころか1世代で管理者がいなくなってしまう事態を目にしています。たとえ永続的な管理が望める公共施設であっても、計画性のない開発は行えません。

高校生が探究を通して、より綿密な事業計画を立てる訓練をすることは有意義なことと思えます。詳細計画を練り、その顛末も見守るという意味では、中期・長期と続く、「代々引き継ぎ」「過去も振り返られる」探究に取り組む学校があってもいいのではないでしょうか。中高連携がうまく取れる環境であれば、個人でもそれに挑戦してみてはどうでしょう。

10歳からわかる「まとめ」

・探究は、カリキュラムの関係で1年2年といった短期で片付く対象をテーマにしがち

・企業の中期計画は3年から5年先を予測する。せめてその程度の中期思考に挑戦することを目標にしても良いのではないか

・中高連携なら、個人でも「5年探究」の可能性が見えてくる

・AIブレストは、連想の材料や深掘りの対象を見つけるのにも有効

・若いうちからのAIブレストを通して、ネイティブアメリカンには敵わなくとも、長期思考の訓練に取り組むことは有意義ではなかろうか

以下、余談です。

動体視力・動態予見力

何かモノを見る時、時間軸を意識することは重要です。おたまじゃくしが蛙に変態することは幼稚園の頃から知っている私たちも、それを他のモノに当てはめて応用することはなかなか難しいようです。モノ自体は変わらなくても周りの環境が変われば結局それも同じことというのも頭ではわかっています。変化を見落とさないためにはモノと周りの両方を見つめることが大切です。

両目を使うといえば、大谷翔平選手が今年打率を上げた要因は、ピッチャーに対して顔を正対し、両目を使って投球の変化にうまく対応したからだと聞きました。確かに以前とはテレビに映る顔の角度が違います。動体視力はその方が高まるでしょう。探究では、自分も動きながらモノを見て、更に先を読むことも必要になります。いわば動態予見力を養う時間にもなれば、探究をより楽しめるでしょう。

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