セルフブランディングと探究

ブランドとは

ブランドやブランディングについて語ろうとする場合、どこから話を始めるでしょうか。その昔、放牧する家畜がどこの家の所有かわからなくなってしまわないよう、家畜に焼印を入れたこと、その焼印(を入れること)を古ノルド語でbrandrと呼んだこと、それがbrandの始まりだという話を聞いたことがあります。そこまで遡るなら、他との区別や差別化のためにマークが果たす役割が重要であることに相手の意識を向けさせることになるでしょう。さらには、ブランドには、識別機能と差別化機能があり、その上に、そのマークが付いていることが品質を約束するという意味で、保証機能を併せ持つというように話を展開させるでしょうか。

また、ブランドが重視されることとなったのには、商品のコモディティ化とともに商品の氾濫も見られるようになり、その数が人間の想起集合サイズの限界を超えてしまったことで、ぱっと一番目に思い出してもらえる工夫が必要となったということが背景にある、という説明を加えるでしょうか。

セルフブランディング

少し前から、セルフブランディングという言葉をよく耳にし、目にするようにもなりました。自身のブランディングをするということですが、特に、大きな組織や企業に所属しない「個人」が、自分自身を「商品」として捉え、あるいは自分自身をメディア化し、自らの力で自らをプロモーションしようとすることを指しています。

中には、プロモーションすることまでは重視せず、まずは、自身独自の価値を見出そう見定めようとするところまでを考えている人もいるかもしれません。いずれにせよ、それがなければターゲットを定めた上で自身を売り込むプロモーションを行うことは当然無理ですから、価値や目標の確立は大切なプロセスです。

自身と向き合う探究

その大切なプロセスを、社会人は大抵、生きる糧となる仕事を鍵として行なっています。それまでの実績を振り返りながら自身の専門性を確認します。この時点で、自身についてのSWOT分析を改めて行ってみる人もいるでしょうか。

一方、中高生の場合にはまだ自身の専門分野は確立されていないでしょう。将来、就きたい職業についても、今まさに考え始めたというところでしょう。そこで、探究プロジェクトを通して自身の強みや弱みや興味を改めて確認し、そこから高校卒業後に専攻したいと思う将来の専門分野に対する関心や、その先の仕事に対する思いを深めてみてはどうでしょうか。探究プロジェクトを通して、自分自身についての探究を進め、自分の価値や将来の目標について深めていこうというわけです。本来の、総合探究の目的はこれにこそあると、私は以前から考えています。

知識を言葉で問う試験で良い点数が取れることと、その知識を何らかのプロジェクトに実際にうまく活用できることとは異なります。何かのプロジェクトに取り掛かることを通して、強みの程度をはっきりと認識できるでしょう。大抵の場合は何らかの壁にぶつかり、期待したようにはうまくいかないことを思い知ることになるでしょうか。

うまくいかない原因は様々に考えられるはずです。知識が断片的で繋がっていなかったり、経験不足から、せっかくの知識を実用に向くように加工応用できていなかったりということがあるでしょう。また、プロジェクトによっては、問題点が知識や経験の不足だけとは限らないということに気づくこともあるでしょうか。粘り強さが足りない、他人からの信頼が足りない等の問題からプロジェクトを完成させられない人がいるかもしれません。計画立案に不備があり、進行管理をうまく出来ずに締切日に間に合わない経験をする人もいることでしょう。

どう探究するか

探究は、何を探究するかももちろん大切ですが、どう探究するかは同じように大切です。自身が有する知識、経験、人脈等の全てを駆使し、全身全霊を傾けて問題に取り組もうとすれば、得るものもそれだけ大きなものが必ずあることでしょう。それには、まず、頭も心も身体もくたくたになるまで取り組んでみたいと思える対象が見つかることが必要です。その対象を見つける基準は、自分自身の興味・関心です。自分の外にはありません。世の中全体にとっての重要度だけで選んだ場合は、探究を長続きさせることに難しさを感じることになるでしょう。反対に、他の人にとっては大きな関心事でないことは、注目度が低いことから探究の仕方が確立されていないこともあるかもしれません。やり方・進め方から、自分で工夫しなくてはならないとなると、大変は大変でしょうが、後には益々のめり込んで、楽しいと感じることの方が増えてくるようにも思います。

自己を知る

そんな試行錯誤を繰り返すことで実現できるのが「自己を知る」ことです。思考の癖であったり、喜びを感じる対象であったり、どうして自分はこのように思い考えるのだろう、このようにするのだろう、と気付き始めると、きっとキリがありません。

冒頭の話から、ブランディングは他との区別や差別化にスタートがあった印象ですが、この「自己を知る」過程を突き詰めると、無理に差別化しようとする必要はないことに気づくことになるでしょう。差別しようとわざわざしなくても、他人とは異なっている点が数々見えてくるはずです。他人に自分を合わせたり、両者を統合しようとしたりすることの方が余程難しいものです。

探究を通して、自分らしさ(Authenticity)を嫌というほど味わうことを、楽しんでもらいたいと思います。

10歳からわかる「まとめ」

・ブランディングは、他との区別や差別化という点にその出発点があった

・セルフブランディングを行い、ターゲットと定めた相手に自分を売り込もうとするには、まずは、自分の特性について深く理解する必要がある

・自分自身を理解するプロセスを、中高生は探究プロジェクトを通して行えばよい

・自身の強み・弱みや興味を理解する行為においては、他人との区別や差別化を意識する必要はない

・自分らしさを嫌というほど味わうことを、探究を通して楽しんでもらいたい

第59回「探究は『何を』かつ『どう』」を読む