
ゲームで興味をひきたいワケ
前回は「探究ゲーム」について書きました。子ども達が各々、様々な分野に興味を感じて取り組むことを大人が望むなら、「触れてみるまで興味を感じるかどうかわからない」という問題を乗り越え、まずは触れてもらえる仕掛けを作らなくてはなりません。そこで、ゲーム形式なら取り掛かってはくれるだろうと期待した訳です。さらに、ゲーム中の指示に従うことで、自ら新たな知識を獲得しに行ってくれることまで望みました。「食」の探究ゲームの中で、子ども達でもおよその内容が想像できそうな言葉が付いたガチャを用意します。例えば「農業AIガチャ」のようなものです。このガチャを引くと、テクノロジーの力を借りて生産性を高められ(て、ゲームに勝て)そう、と子ども達が直感的に受け取ってくれればそのネーミングは上出来です。そこに書かれた「スマート農業について調べ、未来の新しい農業の可能性について知ろう」などの指示を読んで、スマート農業ってなんだ?と興味を持ち、その謎解きまで自分でやってくれることを狙っています。
今回は、「食」に代わるテーマとして「福祉」を選び、かつゲームとは異なるやり方で子ども達の興味をひき、広く探り深く究める「探究」につながる導入を考えてみます。
福祉の学びで気になること
「環境」や「福祉」については、小学校4年生あたりで取り上げ、主体的に学んでもらうような取り組みを学校では行なっているようです。この二つを比べると、「環境」の方が取り扱いやすいテーマのようで、「福祉」については、弱者救済のような第一印象から抜け出せないままに授業のコマ数を使い切ってしまっているように見えます。可哀想な人を助けるのが福祉というような誤解あるいは一面的な理解で、「福祉の勉強」を終えてしまいがちなのです。中学生になると、歴史で、イギリスの「ゆりかごから墓場まで」の言葉にも触れる機会があり、少し見方も広がるようですが、小学生のうちから「福祉はすべての人の幸せのため」という認識を持っていた方がよいのでは、と現在の取り組み内容などを耳にするたび、いつも感じます。尤も、どう取り組めばよいかといった相談が私のところにまで届くのは、教師自身も悩んでおり、現状が良いとは思っていない証左です。
「福祉探究」にどう取り組むか
先生達の話を聞いていると、一面的な理解から抜け出せない状況を作り出す要因は、どうやら導入に問題がありそうです。「来週の総合の時間からは福祉について取り上げます。来週は早速、どこどこの施設にお邪魔して様子を見学させてもらいます」というような導入です。突如どこかの福祉施設を訪問し、その翌週以降、訪問での発見や感想をまとめているうちに制限時間が来てしまっているようなのです。
私にとって「福祉」は難しい言葉の代表です。まず、「祉」という漢字を小学校では習いません。また、この漢字が、福祉という熟語以外で使われているのを見ることもほとんどありません。意味が「さいわい」であることを、その漢字の成り立ちや、この漢字を含む他の熟語から連想するのが困難なのです。「止」という漢字は小学校2年生で習います。しかし、「止」をつくりに持つ漢字は、示す偏以外にも、土偏、さんずい、こざと偏、足偏などもありますが、どれも小学校で習う漢字ではありません。示す編は「お供え物を載せる机、祭卓」を指し、福の字のつくりは「酒樽」を指します。神前に酒樽を供えて幸いを求める「福」は、さいわいの意です。
一方、「止」は左足の足跡の形で「行く、進む」の意と、足に力を入れて強くあとをつける「とまる、とどまる」の意を持ちます。「祉」は、示す編との組み合わせで、幸いを求めて進む・とどまるの意になりそうです。両字とも幸の意を持つ福祉は、古代から中世にかけては「さいわい」の意で使われました。近代以降に「社会福祉」の言葉が使われるようになり、戦後、生活保護法、児童福祉法、身体障害者福祉法を社会福祉三法と呼ぶなどする中で、意味合いの受け取り方に変化が生じたように感じます。しかし、英訳のWelfareはWell-beingにも通じる言葉です。現在、ウェルビーイングは各所で叫ばれています。その意味でも、福祉という言葉の意味と使い方を改めて確認しておく必要がありそうです。福祉探究に取り組むにあたっては、まずは、その辺りから入りたいと考えます。
福祉に関する理解材料の提供
さて、ゲームでない方法で児童の興味を引き、そのテーマについてよく考えてもらうにはどうするかを具体的に考えます。ヒントにしたいのは私自身の経験です。
社会人に成り立ての頃、私は、当時まだ発行されていた「国民生活白書」から適当なグラフや図表を選び、その説明文を自分で考えて書くという「一日一問自主トレ」を行なっていました。正解は白書の中に記載されていますから、それと比較し、自分に欠けている分析・解釈の視点や、グラフの説明に使えるうまい言い回し(例: 漸増・漸減など)を学びました。
関連する図表やグラフを見せて児童に考えてもらうことを計画します。「胎内から墓場まで」をイメージし、まずは、胎児期、乳児期、幼児期、学童期だけに限定したもののみを順に提示していきます。医療費助成や就学援助等の「サービス」がそこに含まれます。そして、青年期、成人期、高齢期、あるいは、通常クラスにおけるユニバーサルデザインやバリアフリー等、児童が実感を持って考えることが難しそうな分野については後回しにすることにします。福祉を「誰もが関わるもの」と捉え直して欲しいと考えるからです。
また、身近な(近隣の)施設マップの提示も福祉についての思考にあたって有効と考えます。そこに示す「施設」には、公園、図書館、公民館、児童館、給食センター、保健所、等々があるでしょう。他には、スクールカウンセラーなどの「制度」についても、自分に直接関わるものを紹介します。これらは全て、自分事として考えてもらうことを意識して準備します。
意識を広げる問いかけ
考えを深めてもらうには「良い問いかけ」も必須です。まずは「(誰かが困ったときだけでなく、)自分の毎日に役立っている福祉には何がある?」あたりからスタートするのがよいでしょうか。ヒントとして「病気やケガをした時、どんな支援があったか覚えている?」や「今後そんな時があったら、どんな支援があるといいと思う?」などを投げ掛け、その延長で、「将来、みんなが大人になった時、どんな福祉があると助かると思う?」と繋げていくような工夫が求められます。
また、そこからの考察として、「誰が、誰を、どんな仕組みで支えているのか?」を議論してもらうところまで行けたら、福祉テーマの探究を、教師にとっても児童にとっても「より腹落ちするもの」に出来ると感じます。
10歳からわかる「まとめ」
・児童に何かを考えてもらおうとする際には、そのテーマが、児童にとって具体的にイメージ出来るものであることが大切
・見に行くことはイメージにとって、ある程度は有効。しかし、見た内容を「他人事」と捉えたままでは、積極的な思考や議論につなげることは困難だろう
・探究は思考訓練であり、そこでは、積極的な議論を経つつ考察することが期待されている。ならば、刺激材料は「実感できるもの」を提示することを徹底すべき

ジャートム株式会社 代表取締役
学校・企業・自治体、あらゆる人と組織の探究実践をサポート。
Inquiring Mind Saves the Planet. 探究心が地球を救う。