
探究の入り口を考える
探究学習アドバイザーとして活動をはじめて丸四年が経過しようとしています。各学校で教師が立てた総合や探究計画の実行を手伝うという役割が中心ですが、ご要望があれば、「探究活動とは何か」「探究活動を行う目的」といったことを、教師や保護者、時に児童や生徒に対して直接話すこともあります。また、自身が専門としてきた市場調査に関連してアンケートやインタビュー実施の基礎について講義し、生徒自作のアンケート票やインタビューガイドにフィードバックすることもあります。
そんな中で、最近、もっと伝わって欲しいと願うようになったのは、まずは「探究を決して難しく考える必要はない」ということです。探究は、「身近な日常」を少し違う角度で見るだけですぐに始められるものです。特に小学生の子ども達は、まだまだ経験や知識が限られているため、ついついものの見方が思い込みに縛られがちです。「別の視点で見る = 視点を広げる」という習慣が身に付けば、世界の見え方が一変し、なるほどこういうことかとわかるはずだと思います。そこで、「視点ワークショップ」なるものを考えてみることにします。
なぜ「視点ワークショップ」なのか
- 児童生徒が普段見ている日常の風景——例えば、公園、バス停、住宅地内の通り等——を教材にすることで、どの学校でも無理なく始められます。
- 何より、視点すなわち見る人の立場を変えることで世界の見え方が変わるということを実感・体験することにより、探究の土台となる「ものの見方の多様性」が子ども達の中に育ちます。
私が関わっている福井県坂井市を例に取れば、坂井市には、住宅地や商業地はもちろんのこと、海沿いの水産加工地域・田園地域・畜産地域・工業地域など、地区ごとに異なる環境・風景があります。丸岡城や東尋坊に代表される観光資源も豊富です。少し意識するだけで、どの地域にも多くの素材が見つかり、各学校が独自色を発揮できるよう応用を考えることは決して難しくないはずです。
子ども達自身は、そこで働き暮らす人や、そこを訪れる人など様々な人々を日々見かけ、たまには直接交流を持つこともあるでしょう。しかし、その人達になったつもりで、自分達が暮らす「まち」を見つめたことはあまりないかもしれません。このアプローチは、リベラルアーツの精神——特定の知識や見方に偏らず、幅広い領域を横断的に眺め、自由な思考力や創造性などを大切にする学び——に通じるものです。
【参照】 第29回「“Face to face” より “Side by side”」
ワークショップのモデル構成(45分)
必要なのは「日常風景の写真」と「紙とペン」、そして少しの時間だけです。特別な知識は不要です。

狙いと期待される効果
- 子ども達は「世界の見え方が変わる瞬間」を体験し、探究への関心を自然に高めることができます。
- 教員にとっては、地域や学校の状況に応じて応用しやすい「汎用テンプレート」が手に入ります。
- 市や教委全体で探究学習の共通言語として「視点」という概念を共有できます。
- 長期的には、「地域・地区による差」を学びの資源に変え、小・中・高を通した探究のスパイラルを育てることができます。
なぜ今、このタイミングか
現代は社会の変化が激しく将来予測が難しい時代です。子ども達には「ひとつの答え」ではなく、「問いを立て続ける力」が求められています。坂井市のように地域ごとに暮らしや風景が異れば、なおさら「多様な視点」を育てる学びが価値を持つと考えられます。このワークショップは、特別な教材や準備なしに始められる「入り口」に過ぎません。しかし、それは誰にでも再現可能で、その先の「探究の目と芽」を育てることができます。
これからの展望
このモデルワークショップをきっかけに、以下のような展開を目指します。
- 各校が自校の「身近な風景」でワークショップを実施することで、身近さゆえに子どもの実感が強まります。
- 「マイ視点カード」を通年で使い、子ども自身が「日々の視点メモ」を貯めていく習慣づくりができます。
- 小学校から中学校、中学校から高校へと、探究につながる「視点のバトン」をつないでいきます。
- 教師間での共有や、自治体単位での統一的支援につなげていくことも可能です。
探究は最初から難しいものではありません。まずは「いつもの景色を、ちょっとだけ違う目で見ること」から始めましょう。私達の探究の旅は今ここから始まります。
10歳からわかる「まとめ」
・今の子ども達には「ひとつの答え」ではなく、「問いを立て続ける力」が求められている
・異なる視点に気付く「視点ワークショップ」は、探究導入として有効であろう
・「視点ワークショップ」を通して「探究の目と芽」を育てていきたい
*本原稿はチャッピー君との対話を基に構成されました。いつもとややトーンが異なります。
例: 私達の探究の旅は今ここから始まります。

ジャートム株式会社 代表取締役
学校・企業・自治体、あらゆる人と組織の探究実践をサポート。
Inquiring Mind Saves the Planet. 探究心が地球を救う。
