“Face to Face” より “Side by Side”

インタビューは face to face

対面のface to face、もしくは一対一のone on oneは、インタビューの基本形式です。聞き手側からすればしっかりじっくり訊きたい時、答え手側からすればプライベートな話や込み入った話をしなくてはならない時、特にこの形式が好まれます。しかし、このやり方にも不都合な点があります。顔を見合わせ目を見つめ合うということは、インタビュアーとインタビュイーの目の向きがお互い逆方向になります。真ん中に何かを置いてそれについて話す際、二人がその対象物の反対側の面を各々見つめている可能性があるのです。

ちなみに、interviewはinter + viewで「お互いに」「見る」です。インタビューされる側も質問ができ、対等で自由な雰囲気になれば、齟齬のない有意義な「対話」を進められそうではあります。

目線の方向を揃える side by side

一方、side by sideは状況が異なります。聞き手と答え手が対象物を同じ方向から見つめます。聞き手は、答え手にモノがどう見えているのかをわかりながら質問を出せ、より的確にやりとりが進むことが期待できます。

この立ち位置・座り位置の関係がよいのはインタビューの時だけではありません。相談の場面でも有効です。相談される側が相談者の隣に腰掛けます。この場合はお互い空(くう)を見ながら話すかもしれませんが、相手の目を直視しなくてもよいことで心を開きやすくなるというサブ効果も期待できます。

エスノグラフィーは「虫の目」「魚の目」

生活者の理解を、観察を通して行おうとするのがエスノグラフィーです。リサーチの世界ではこれを日本語に訳して使うことはありませんが、訳は民族誌・民族誌学です。文化人類学者が異文化社会の中に自ら入り込み、気づいたことをノートに記述してまとめていく手法に倣っています。現地の人の言葉が充分にわからないため、とにかく観察で理解しようと努めるやり方です。葉っぱの上に舞い降り「虫の目」のような接眼で見つめたり、水の中を泳ぐ魚群の一部のように「魚の目」で同じ流れに乗りながら観察したり。流れ・時流自体を読むのが「魚の目」だともされます。

もちろん、リサーチでの活用には、少し離れた横からの観察も含んでいます。「あの人はあのやり方に慣れていて、それを不便とも面倒とも思っていないから不満はないと言う。でも、道具自体がもう少し小さければ、あの余計な動きは全く必要なくなるのに。よし、一回り小さい道具を作ってあげよう」のような発見は、そのような場面で起こります。

「鳥の目」はサーベイ

鳥瞰図よろしく物事を俯瞰することも大切です。それを「鳥の目」で見ると言いますが、これはsurveyに該当します。日本語でアンケートと呼ばれる定量調査のことで、sur + veyで出来ています。veyはviewで「見る」、surはフランス語読みではシュールで、シュールレアリズム(超現実主義)の「超」にあたります。各地の様子を全て視界に入れるため「頭上をはるか超えた位置から全体を俯瞰して見る」とイメージすると良いでしょうか。

メタ認知もイメージは似ています。さも幽体離脱でもしたかのように、離れたところからそこで活動している自分も含めた全体を、客観的に眺めることで認知します。

「コウモリの目」は逆さに見ること

ひっくり返してみることを、天井から逆さにぶら下がって止まるコウモリに例えて、こう呼ぶこともあります。

アンケートは匿名だから良いのか

「逆さに見る」のつながりで、少し話を飛ばします。アンケートの利点を学生に質問してみると、「匿名なので本音を引き出しやすい」という答えが返ってくることがよくあります。私も、以前、学校でそのように習った記憶があります。でも、果たしてそれは、(現在、)正しいでしょうか。SNS上で炎上騒ぎが起こるのは、むしろ匿名だからということが理由ではないでしょうか。誰が発信しているかがわからないはずだから配慮に欠けた物言いやウソも構わない、という気持ちが起こしたトラブルは少なくありません。私が関わったリサーチ案件では、その人がどういう人なのかがわかってはじめて、発言の真の意図が理解できたということを多々経験してきました。自分が誰かを開示しても構わないという条件下での協力関係が必要な場面は確かにあります。その実現を可能とするのがコミュニティです。

コミュニティは side by side

インターネットの普及も相まって、数年前から、顧客との間でのコミュニティを積極的に運営する企業が出てきています。顧客を単に、自社製品・サービスを「消費する人」と考えるのではなく、「利活用する人」さらには「次の開発に協力してくれる人」と捉え、顧客と対等な関係を結んで、その声をより尊重しようとしています。使い手は、作り手が全く想像しなかったような方法で製品を利用することがあります。また、製品に不具合が生じた時、その直し方に一番詳しかったり、緊急対処法のあれこれをよく知っていたりするのが、作り手よりも使い手であるということも決して珍しくはありません。

オンラインコミュニティの代表格「&カゴメ」

運営が始まってもう9年目に入るのがカゴメ株式会社の「&KAGOME」です。「ファンを知る」「ファンに伝える」「ファンと一緒に体験する」を目的に設立されました。

&カゴメ

誕生の背景、当時抱えていた課題や問題意識、また現在の活動など、詳細については運営協力を行う株式会社イーライフの実績紹介ページに詳しく掲載されています。

【参照】 eLife

10歳からわかる「まとめ」

・「対面」は目と目を見つめ合う体勢なので相手のことがよく見えるような気がする。しかし、何かモノを共に見ようとするとお互い反対側から見ることになる場合もある

・横に並んで二人同じ方向から見ると、相手のモノの見方や、相手の視線の先にあるものに気付かされる

・他にも、モノを見る目には、鳥の目の俯瞰、虫の目の接眼、加えて、流れ・時流を読む魚の目や、逆さから見るコウモリの目などがある

・コミュニティは「仲間」。腹を割った関係が築けるコミュニティの中で、それぞれが「自分の見方」を自由に、また長期的に共有していくことは有意義である

以下、余談です。

長期視点での探究につながる方法

高校生活は3年しかありません。探究テーマを決めるにあたり、その制限時間を念頭に置いて、その中で出来ることを優先して選ぶというのでは本末転倒です。コミュニティを代々にわたって運営し続ける「探究」があってもいいのではないか。ふとそんなことを考えました。特に地域探究であれば、ある一つの高校が先輩から後輩に運営を引き継いでじっくりしっかり地域と繋がりながら、時に同じ課題を長期にわたり、時にタイムリーな問題に即解決型で取り組むのも悪くはないと思います。その探究チームに入る生徒は、代々の取り組みの流れをまずしっかり学習し、その上で、自分が解決したいと思う地域の社会課題をコミュニティの仲間にぶつけていきます。単発で終わらせない探究へ。

第30回「高校生による地域コミュニティ運営」を読む