生成AIと歩む新しい探究

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情報活用を未来へひらく

探究学習・活動のプロセスとして示される有名なサイクルは、「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」の四段階のスパイラルです。特に高校や一部の中学校では、多くの教員や生徒がこの流れに慣れ親しみ、探究といえば「課題に関する情報を集めて分析し、発表する活動」とイメージすることもあるでしょう。しかし、このサイクルには、ある重要な言葉が直接には見当たりません。「情報の活用」です。もちろん「整理・分析」の段階で情報を活かして考えることは行われているでしょうが、「収集」して「整理」と続くと、どうしても「過去の出来事を調べ分類して考える」ことに重きが置かれがちではないでしょうか。そこからは「未来に向けて行動を変えていく」という視点を十分に引き出すことは難しいように感じます。

今、子どもたちが育つ社会・時代には、未来からの変化の波が次々と押し寄せてきています。気候の変動、技術の進化、地域人口の変化、働き方の変化──。このような激動の中では、過去の分析だけではなく、「これから何が起きそうか」を読み取り、備え、望ましい未来を自分達でつくり出すという思考が必要になってきます。そしてそこに、生成AIが新しい可能性を広げてくれると期待します。

予測し、回避し、つくり出す

これまでの情報活用は、主に「過去に起きたことを理解する」ために使われてきました。統計表を読み、文献を調べ、歴史をたどり、因果関係を考えることは、学びの基礎として非常に大切です。しかし、それだけでは足りないでしょう。情報を未来へ活かす発想が必要です。

情報を未来へ活かす発想があれば、例えば次のような問いが生まれます。

  • これらのデータから考えると、これから先、何が起こりそうか?
  • もしその未来が望ましくない場合、事前にどんな手を打てるか?
  • そして、自分たちの地域を、どんな未来の姿に育てていきたいか?

このように、「情報を未来に向かって活用する思考」こそが、いま学校現場に必要な、探究のアップデートなのではないでしょうか。

生成AIは未来の可能性を共に考える相棒

ChatGPTをはじめとする生成AIは、これまで人類が蓄積してきた膨大なデータや文章からパターンを学びます。「学ぶ」という言葉が適切でないなら、こちらの指示でそれらを「瞬時に引っ張り出してきてくれる」と言い換えたらいいでしょうか。いずれにせよ、複数の情報を組み合わせた時に生まれる未来の可能性を、短時間で豊かに示してくれます。

例えば、私が関わっている福井県坂井市に関して、次のような質問を投げかければ、生成AIは考えを広げるのを手助けしてくれます。

「坂井市で、気温上昇・農作物の不安定化・人口減少が同時に起きた場合、10年後にどんな未来の可能性がありますか?」に対して、悪い未来(収穫量の低下、観光客の減少、地域医療の負担増)、良い未来(新しい農産品の開発、スマート農業の普及、若者の起業機会増)など、複数のシナリオを提示してくれます。

これはあくまで「可能性の図」であって、正解ではありません。しかし、この「予想図」があることで、子どもたちは自分達の考えを広げやすくなります。そして、この図やシナリオを基にした、次のような新しい探究の展開が可能になります。

  • 悪い未来を「どうすれば回避できるか?」と議論する
  • 良い未来を「どうすれば実現に近づけられるか?」と逆算する
  • 自分たちができる小さな行動を考える
  • 坂井市の未来のキャッチコピーをつくる

生成AIは、正解を与える道具ではなく、「未来を一緒に考える思考のパートナー」 として機能すると考えられます。

探究サイクルに未来へ活かす意を加える

私は、探究のサイクルに次の一言を加えたいと思っています。「(未来に向けた)情報の活用」です。これは、新しいサイクルを作り直そうという話ではありません。むしろ既存のサイクルの「重心」を少し未来に寄せましょうという提案です。そうすることで、探究は一気に、子ども達が今生きる世界とも、より強く結び付くことになります。

児童生徒にとっても、「未来の坂井市をどうしたいか」という問いは、自然と前のめりになって取り組める題材になるでしょう。未来は誰にも見えません。しかし、未来をつくることは誰にでも挑戦できることです。その時、情報は「過去を学ぶため」だけに存在しているのではなく、「未来をデザインする材料」へとその意味を変えていきます。

未来を育てる学びへ

生成AIとともに行う未来予測は、探究の情報活用を新しい段階へと引き上げてくれるでしょう。過去を調べるだけでなく、そこから未来の可能性を描き出し、望ましい未来に向けた行動を考えることができるようになります。文科省でも現在、次期学習指導要領の策定の中で、情報科と探究の連携・連動に関する議論が活発になされています。

坂井市の子ども達が、地域の課題や魅力を理解しながら、「10年後の坂井市をどうしたいか」「そのために今、自分達にできることは何か」「何をしなければならないか」と考える姿を想像すると、探究という営みの未来も、ますます楽しみになってきます。情報を未来へとつなぐ探究。そして、生成AIという新しい相棒とともに歩む学び。これからの学校現場には、こうした学びも広げていかなくてはならないと感じます。

また、そうすることで、おそらく「ふるさと学習」も、その形態や意味合いを変えていくことになるでしょう。自分が住む土地の未来を考えることは、単なる郷土愛を育むことを超えて、郷土愛からくる自覚や当事者意識、すなわちシビックプライドの醸成にもつながるはずだからです。

10歳からわかる「まとめ」

・探究活動の中では、情報の「未来への活用」をより意識していきたい

・その際、生成AIは、共に考える相棒になりえる

・未来をひらくことに向けた、探究での情報活用と生成AIの活用は、ひいてはシビックプライドの醸成にもつながる