探究伴走: 担任教師の進め方への試案

生徒の様子は千差万別

外部の探究アドバイザーとして、普段、中学生や高校生と接していて気付くのは、生徒によって探究の進め方や取り組みの様子が相当異なるということです。自分でテーマを決めて自由に進めてよいというプロジェクト形式に慣れている生徒とそうではない生徒、テーマ決めがスムーズに進んでいる生徒とそうではない生徒、「情報の収集」段階で、必要な情報が何かについて見当がついていそうな生徒とそうではない生徒、その情報の適切な集め方をおよそ想像できている生徒とそうではない生徒、等々、まさに混在しています。

「コントロール」は可能か、また、すべきか

もちろん、上記のように様々な生徒が存在するのは至極当たり前です。これに対し、教師の側がどのように進めようとするかについては、学校によって特徴が見られます。一つのやり方は、全員に共通シートやテンプレートを配布し、それに沿って順に、全員の進度をほぼ揃えながら進めていこうとするやり方です。ここで、もし、クラス全員のテーマまで同じにしてしまえば、そのシートに書き加えていく内容を教師はコントロールできてしまうかもしれません。また、教師の中には、そうしたい人もいるのかもしれません。

私が学生の頃には、授業の始めに教師お手製のプリントが配布され、授業中はプリントの空欄部分に書き込む重要用語を聞き漏らさないよう、最大の注意を払って教師の話を聞くという方式の授業がありました。探究学習でもこれと同様のやり方が一部の教師から好まれるのは、この名残りかもしれません。しかし、取り組むテーマを生徒が自由に決める場合に、どんなテーマにも応用できるテンプレートを用意できるかといえば、私は懐疑的にならざるを得ません。

実際、私は社会人向けにマーケティングリサーチを自身で組み立てられるようになるための講座を今も定期的に開設しています。その際、調査準備用の整理に役立つ大項目が載った用紙を参加者に配布します。現在、共通で渡すシートは「調査の背景」「調査の目的」と書かれた一枚だけです。そのシートは、どのような事情で調査が必要になったのか、また、現在、調査を通して何を明らかする必要に迫られているのかを自由に書いてもらうためのものです。記入後に、目的に応じて具体的にどのような調査を実施すべきかを話し合い、それに応じて調査設計を考えていくのですが、そこからは各自に合わせたカスタムメイドにならざるを得ません。無理にパターン化しようとすると、気付かないうちに大切な要素を切り落としてしまっていることにもなりかねないからです。もちろん、例えば、インタビューをすると決まれば、それに必要となる要素を洗い出すための項目リストは出せます。しかし、それを先に渡すことで、インタビューが役に立たない課題に対してもインタビュー調査が必須だと勘違いさせてしまうことは、避けねばなりません。

タイムリーな声掛けが重要

ここからは、具体的な例を挙げながら、どのような声掛けをどのタイミングですると良いだろうかということを考えていきます。

【テーマが決まらない生徒に対して】

文科省が現在、次期学習指導要領の策定に向けて作業を進める中、「自らの人生を舵取りする力」を身につけてもらうには、「『好き』(興味・関心)を育み、『得意』を伸ばす」ことが大切というように、いくつかキーフレーズを挙げながら議論を深めている様子が伺えます。テーマが決まらないという生徒は、まさにこの育むべき自分の興味・関心がどこにあるのかわからないということで悩んでいます。ここで、自分の気持ちがわかるのは自分だけだということで「とにかく考えなさい」というだけでは、そこから動けないままの生徒が出てしまいます。そんな時、第1週目の探究の時間はそれでよいとしても、2週目も3週目もそのままという訳にはいきません。最初からテーマを持ってその時間に臨んだ生徒はさっさと情報収集作業にかかっていくでしょうから、進度の差がどんどんと開いていってしまいます。一方で、先に進みたい生徒に、他の生徒との足並みを考えて「ちょっと待っていて」とストップをかけて進度を合わせようとしては本末転倒です。

そうすると、決まらない生徒に対してのみ「考えるためのヒント」を授けるのが良さそうです。例えば、時間の最後に「今の時間に決まらなかった人は、次週までの一週間は毎朝新聞に目を通すようにしてはどうだろう。全国の話題であっても、もし同じようなことがこの近所で起きたらどうするかを想像しながら記事を読むと、自分の興味・関心が定まってくるかもしれません。そこまでいかなくても、一週間で目にした記事の中で、自分が最も興味を感じた記事は選べるはずです。次週は、まずは、そのテーマについて調べ始めるところから動き出してみるというのはどうだろうか」というような提案は出来ます。

「案」という字の中にある「木」は机を指すそうです。机上で考え、アイデアを捻り出す感じなのでしょうが、浮かばないなら机から離れ、自分の目を外に向けることの促しが必要です。そして、完全な腹落ちはしていなくても、とにかくスタートを切ると、動きながらまた新たな材料が目に入ってくるものです。動き出しのきっかけを授けましょう。

【視野が狭くなっている生徒に対して】

テーマが決まり、自分の仮説が定まったような生徒は、それを確かめたいという気持ちを強く持っています。先日、将来看護師になりたいと考えている生徒と話をしました。彼女が色々と調べる中で「どうも看護師は人手不足でストレスを抱えているようだ。自分もそうなってしまうのか心配なので現役の人達から話を聞いてみたい」と考えました。思いついた質問は、ダイレクトに「人手不足でストレスを感じる時はありますか」と尋ねるものです。そう聞かれたら、どのような答えを返すでしょうか。普段そのように感じることはほとんどないという人が、もし、「そうではないとは言い切れないなぁ」と考えてしまったとします。そうすると、「はい」と答えてしまうかもしれません。彼女とは、そんな「不正確な回答」を避けるにはどう聞いたらよいだろうかという話をしました。その結果、質問の順番として、「普段仕事をしていてストレスを感じる時はありますか」「それはどんな時ですか」「仕事中、他の時にもストレスを感じることはありますか」「それらの時にストレスを感じるのはそれぞれ何が原因だと思いますか」「解決策としては、それぞれどんなことが考えられますか」「実際に、解決策を病院内で話し合うようなことはありますか」のように段階を踏んで聞いてみることになりました。最後の質問は、もし、彼女の当初の予想通り、「看護師の多くは現状、人手不足が原因でストレスを感じることが多い」との結果になったとしても、それに対して対策を取ろうとしていることがわかれば、「私は看護師になる夢を諦めなくても大丈夫そうだ」と思えるかもしれないからです。そんな心配も元々必要なく、「人手不足でストレスを感じる看護師は思ったより少なかった」という結果が素直に導かれたなら、アンケートをやってみて良かったと思うことでしょう。

一方、当初の計画通りの一つの質問だけをして、その答えが集まってきた段階で私が呼ばれたとします。すると、「先日、アンケートを取ってみたのですが、10人中9人が『人手不足でストレスを感じている』という結果が出ました」と、報告を受けることになります。「私、自信がないので看護師になる夢は諦めようと思います」という言葉が続いて口を突いて出てこないことを祈りながら、私は話を聞いていることでしょう。

このケースは、生徒の職業選択にも影響が出るかもしれないことを想像しました。そこまでのことはあまりないにしても、別のタイミングで交流ができていたら、違う話し合いができたと感じることは日々よくあります。毎回、各班・各人の進度を正確・丁寧にウォッチして、間に合うタイミングで都度、生徒の「思考の拡大」に資する助言ができることが望ましいと考えます。身近にいる教師の役目は、これに尽きるのではないでしょうか。教室を巡回しながら「大丈夫か」とだけ尋ね、生徒からの「大丈夫です」との返答を真に受けたり、「自分で考えなさい」と突き放したりするだけではうまく進みません。

10歳からわかる「まとめ」

・プロジェクト学習において生徒の進め方が千差万別なのは至極当たり前

・助言が必要な生徒を早めに見つけ、タイムリーかつ適切に支援の手を差し伸べることが大切

・物理的に、それが容易に出来る立場にあるのは学校の教師

教師には、声掛けの言葉の種類を工夫すること、返答・相談へ臨機応変に対応できるように引き出しの数を増やしておくこと、が求められる