番外2・職業編: 市場という試練

※本稿では、大学で学んだ理論が、実際の職業の世界でどのように試されるのかを、市場という視点から考えます。

市場という試練

幼児期、子ども達は感覚で世界をつかみました。児童期には、それを言葉にして整理しました。中学生になると「自分とは何か」と問い始め、高校生になると「どう生きるか」という問いに向き合います。大学ではさらに、理論という知の道具を手にし、世界を読み解こうとします。

しかし、社会に出るともう一つの現実が待っています。それが、市場です。

市場では、理論通りに物事が進むとは限りません。むしろ、理にかなった製品が必ず売れるとは限らないのが現実です。消費者の声を丁寧に聞き、その要望を反映して改良した製品ですら、別の会社が発売した、少し奇抜なアイデアの製品に人気を奪われることがあります。あるいは、商品そのものではなく、TVCFやSNSでの伝え方の面白さから人気が出ることもあります。

さらに、企業にはスタート地点の差もあります。元々評判の良いブランド、すでに多くのファンを持つ企業、強い販売網を持つ会社。そうした条件がすでに整っている企業と競争するのが、市場の現実です。市場は、必ずしも公平ではありません。

そして最終的な評価は、売れたかどうかで決まります。

それでも探究する

しかし、だからといって、理論や探究が無意味になるわけではありません。むしろ逆です。

市場が複雑で予測が難しいからこそ、企業は仮説を立て、試し、検証し続けなければならないのです。企業活動とは、ある意味で巨大な社会実験の連続でもあります。製品の開発、価格の設定、広告の打ち出し方、販売チャネルの選択。それぞれが仮説であり、市場がその結果を示します。

成功することもあれば、期待した結果にならないこともあります。その結果を受けて、また次の仮説を立てる。企業における探究とは、この繰り返しの中にあります。

私の経験から

私自身も、コンシューマーリサーチャーとして、数多くのクライアント企業の調査に関わってきました。消費者の声を丁寧に集め、その結果をもとに製品改良の提案を行うこともありました。しかし実際には、顧客の要望通りに製品が改良されないことも少なくありません。

メーカーには、譲れないこだわりがあるからです。私はそれを、必ずしも誤った判断だとは思いません。ブランドの一貫性や、長年培ってきた技術、企業として守りたい価値。それらを簡単に手放さないことも、また企業の重要な判断です。

しかし、そこにいつまでも留まり続けると、その判断がいつか「誤判断」に反転する可能性もあります。

顧客の声を気に留めながら、世の中の動きと照らし合わせ続けること。そして、
捨てるべきこだわりを捨てる勇気。それもまた、企業に求められる探究の姿勢です。

企業と職業人の探究

悪いこだわりを捨てないことが、現場の従業員の判断に影響することもあります。忘れているわけではないでしょうが、従業員は会社のためにすべてをなげうつ存在ではありません。人はそれぞれ自分の人生や生きがいを探究しながら、働いています。企業の価値観と自分の価値観が合致すると判断すれば、その会社で働き続けるでしょう。

しかし、そこに違いを感じれば、別の場所へと移ることもあります。いわゆる「転職」です。企業もまた探究を続ける存在ですが、そこに集まる一人ひとりの職業人もまた、自分自身の人生を探究しています。

私自身の選択

私自身も、一つの会社に勤め上げるという判断はできませんでした。やりたいこと、やるべきだと思うことは、その時々の状況によって変化します。そして、その変化に合わせて、自分の進む道も変わっていきました。

探究する人であるならば、なおさら、自分の選択に責任を持ち、後悔しない道を選ぼうとするはずです。

補: 研究と探究の違い

自然科学の研究では、研究者は真理を見つけることに邁進します。児童・生徒が取り組む探究活動の中にも、これに近いものがあります。

一方、地域探究のように「まちの人」の声を聴きながら考える活動もあります。こちらは、まさに社会・市場に耳を傾ける営みです。分野としては社会科学に近いものと言えるでしょう。

対象が、うつろいやすい人間社会であっても、それを深く理解しようと科学的な方法で取り組むのであれば、それもまた「研究」の名に値します。

では、研究と探究の違いは何でしょうか。

私は、そこに「自分」があるかどうかだと考えています。

テーマと自分との関わりが明確で、その取り組みが自分自身の成長につながっているもの。それが「探究」です。

子ども達には、こんなふうに伝えています。

探究で取り組むテーマが決まったら、最後に「と私」をつけてみよう。

「環境問題と私」「地域の未来と私」

そうやって、自分との関係を意識してみてください。自分の思いを大切にしながら考えること。それが探究なのです。

10歳からわかる「まとめ」

・市場では、理論通りに結果が出るとは限らない

・企業は仮説を立て、市場で試し続けている

・会社も、人も、それぞれ探究を続けている

・職業とは、自分の人生を探究する場でもある

*本原稿はチャッピー君との対話を基に構成されました。

※この記事では、大学で学んだ理論が、実際の職業の世界でどのように試されるのかを、市場という視点から考えました。