コミュニケーション上の悩み

困りごと解決アプリ制作

私が関わっている福井県坂井市の、ある小学校の5年生は今、自分達の困りごとを解決するアプリの制作に班ごとに取り掛かっています。数多くの子ども達は「宿題を早く済ませるアプリ」や「勉強を簡単に済ませるアプリ」など、言ってみれば、実に子どもらしい悩みの解決のためのアプリ制作を目指しています。

子ども達のアイデアに対して、私は、「ズルをしてはダメでしょ。宿題は自分で考えて解くから意味があるのよ」という声がもし家族から上がったら、みんなならどう応えるの?ということを問い掛けながら子ども達のアイデアを更に引き出そうと努めます。時には、「今の困りごとは、みんなの自分の困りごとだけど、みんなの宿題の音読を聞いてチェックをしなくてはいけない家族や、そもそも、宿題を毎日出さなくてはいけない先生は、困っていないのかな?」などとも問い掛けながら、児童の視野を広げようとすることもあります。

周りの環境をきれいに保ちたいと思っているグループが考えた「ゴミ拾いをしたり、部屋の片付けをしたりすると、アプリがその様子を見て何かご褒美をくれる」ことを検討しているチームに対しては、「拾ったものがゴミかどうかはどう判断するの?」や「家の中ならどこかにカメラを設置しておけばよいかもしれないけれど、屋外ではどうやってその様子をとらえるの?カメラはどこに置いておくの?」といった意地悪な質問で問い詰めもします。「中身が空のものはゴミと判断する」というなかなかの回答があっても、「自分の部屋に、趣味でそれをコレクションしている人の場合はどうする?」と聞いてみます。

AIを活用したアプリ開発の場合は、中身がブラックボックス化されてしまっていて、適当な指示でも何となく形になってしまうこともあるかもしれませんが、思考を整理する目的でこの作業に取り組むのであれば、「この場合はこう判断する」「別の場合では別の判断をする」という指示書を書けるようになっていることが大切です。

このグループは、途中経過の段階では、屋外のことは一旦諦めて、自分の部屋をいつもきちんと整理整頓された状態に保つ上でアプリの力を借りることになりそうです。整理整頓された部屋の状態を写真でアプリに記憶させ、カメラのとらえた「今」の状態がそれと異なっていた場合に、「この道具を元の位置に戻しなさい」という指令がアプリから飛んでくるような仕組みを考え始めました。

忘れ物をしないようにするためのアプリも同様に、その日の持ち物リストと実際に鞄に入れた物が合致しているかを確認する作業が必要ですが、持ち物リストには日々変更が入るため、その更新をどうするかがポイントになってきます。

コミュニケーションが難しいというチーム

さて、あるチームの困りごとを聞いた時は、複雑な心境になってしまいました。そのチームのメンバー3人は「自分達は皆、コミュニケーションが苦手だ」というのです。その年でそこに悩みを感じているの、と驚きと共に切なさを感じてしまったのです。うまくいかなくたっていいじゃないと思ってしまいました。でも、私も悩んでいました。ただし、小学校5年生の時、コミュニケーションという単語はまだ知らなかったはずです。当時、話をするのは人一倍苦手で下手でしたが、それを表す言葉はせいぜい「話し下手」でした。もっと幼い頃、私は、言いたいことを言葉にできずに泣いてしまっていた子どもでした。したがって、「コミュニケーションが苦手」というのがどの程度大きな悩みかというのはわかります。子ども達と話す中で、「ボクが自分の喋りにまずまず満足できるようになったのは50歳を過ぎてからだよ。焦らずにやろう」と言いました。

話し下手の原因は

当時、話し下手であることの原因は、自分なりの分析によると以下の通りでした。項目は歳を経る毎に加えて行っています。

・物の名前を知らない。知らないと言えないし聞けない。国語の、即興でお話を作って説明する授業の中で、絵に描かれた土管の名を知らず、それを尋ねることも出来ずに泣く

*小一の時の担任の先生がいつもイライラしているタイプで聞けなかったのです。

・気持ちや思いを言葉にできない。名前以外の言葉のストックも足りなさ過ぎで、適切な表現を見つけられない

・説明には順番がある。思っていることを思った順番に喋っても相手には伝わらない。発生した順序と、わかりやすい説明になる話の順序は違うことに長く気づかなかった

・頭の中の動きに、言葉、口が付いていかない。間に合わない

伝えるための特訓は、必要に迫られて社会人になってから始めました。まずは書くことからでした。書き言葉は推敲ができます。推敲した文章の塊を覚えておきます。仕事ではそれを使う機会が何度も訪れます。そのうち慣れて上手くなり、時にはそれにアドリブを加えることもできるようになりました。それが50歳を過ぎてからでした。

3番目の「相手・聞き手を意識することの大切さ」に気づいたのは、私は随分と時間が経ってからでしたが、先のグループの中の子どもは既に気付いています。驚きました。ゆえに強く思います。練習しよう!と。

ICTを使う前に

ICTは、Information, Communication, Technologyの頭文字からできています。ICTを使用することは今やもう日常です。私が社会人になった頃、テクノロジーという単語はハイテク製品などとしてよく会話に登る単語でした。財テクも一般用語でした。InformationとCommunicationについては、日本語にどう訳すかということで、毎日この言葉と格闘していました。プランナー職にあったためどちらも非常に大切だったのです。前者は情報ですが、私のお師匠さんは、これを「情(なさ)けへの報(しら)せ」と訳し、後者を「いのちの触れ合い」と訳しました。Commonと語源が同じですから、相手と何かを共有するために行われるのがコミュニケーションです。相手と何かを持ち合うことが実際に行われている時に、コミュニケーションはうまくいっていると実感されます。お互い自分をさらけ出して触れ合うこと、その際、自分を晒すのが先という意識で向かうのが良いコミュニケーションを成立させるための鉄則だと感じます。いつもいうGiveが先、Give firstです。その後、相手からTakeします。

まずは伝える練習をする

子ども達に言いたいのは、安易にアプリに頼ってはいけないということです。文化や言葉が異なるところで育った人同士が、今すぐコミュニケーションしなくてはならないという状況なら、積極的にアプリを頼りましょう。緊急事態において時間を無駄にしてはなりません。しかし、少し余裕があるなら、人間らしい試行錯誤を重ねて欲しいと思います。なぜなら、その試行錯誤は後で、どんな場面ででも応用が効くからです。

アプリに頼ることを前提にしては危ないというのは、アプリを動かすエネルギーがいつもあるとは限らないことも一つの理由です。生成AIを動かすためには、普通の検索の10倍の電力を使用するといわれています。非常時に電気が必ず使えるとは限りません。人間の思考する力を強化することも忘れずに、アプリ開発に取り組んで欲しいと願います。

10歳からわかる「まとめ」

・探究では、子ども達は困りごと解決のアプリ制作にも取り組んでいる

・子ども達の困りごとの中には子どもらしいものもあれば、それと聞いて、少し切なさを感じてしまうものもある

・友達とのコミュニケーションがうまくいかないという困りごとなどがそれに該当するが、これの解決にあたっては、簡単にアプリに頼ってしまうのではなく、練習によって克服するという手段にもチャレンジして欲しい