
収集開始のタイミング
文科省が提示する有名な螺旋図「探究における生徒の学習の姿」を見ても、探究学習に関する他のガイドや手引きを見ても、大概「情報の収集」が必須項目・必須ステップとして書かれています。しかも、やることが決まったらすぐ、つまり「課題の設定」の直後に情報の収集をすることになっています。これをそのまま鵜呑みにしてはいけません。改めて情報を収集しようとするまでもなくスタートを切れる人は大勢いるからです。その人達は一旦プロジェクトのスタートを切って、その後、分かれ道に来た時に、どっちに進むかを判断すべく情報の収集に入るということで構いません。
私は、これを学校に呼ばれるたびに説明することになるのですが、何故そうなるかというと、学校からのリクエストが「『課題の設定』が終わりましたので、次に『情報の収集』に生徒達を進ませようと思います。ついては、そのやり方について生徒に教えていただけないでしょうか」という内容で届くからです。先生達が愚直にあの螺旋図を守ろうとしていることは伝わるのですが、そもそも、その「臨機応変でない」ところが、学校で探究を必要としている理由なのだろうなぁと思ってしまいます。
分かれ道
普通に考えれば、課題とは「問題(=理想と現実のギャップ)を生み出している原因を取り除くために取り組まなければならないこと」です。課題解決に向けては、実現可能な解決法を見つけることが求められます。もし、その候補が複数ありそうなら、その中で最も効果的な方法を見つけるところまで行かなくてはなりません。分かれ道では、候補が一つであっても複数であっても、それ(ら)がうまく機能するかを確認しなくてはなりません。一番わかりやすい方法はプロトタイプ(試作品)を作って、それで実験をしてみることです。当然、うまくいくはずとの期待の下に行う実験ですが、必ずその通りに行くとは限りません。そして、意に反してうまく行かなかった時に湧いてくるのが「何故なんだ?」という疑問です。その疑問を解くために行うのも情報収集になります。わかっていたつもりでいたが実はよくわかってはいなかったということを自覚することになったからです。
必要な情報はここでは2種類
その際、必要になる情報は、まずは自分が行った実験のやり方そのものに対する情報です。やり方は間違っていなかったのかについての確認です。正しくない手順や方法が見つかったなら、それを正してもう一度実験をしてみます。それでもうまく行かない時には、いよいよ次に、うまく行かない原因、つまり2種類目の情報を探ることになります。生徒が元々自身で興味・関心を抱いていたテーマであれば、およそこの通りの順番で「情報の収集」プロセスを全体の中に取り込むことになるはずです。
言い換えれば、これまで特に興味・関心を抱いてこなかったテーマを課題に選んでしまった場合に、まずは「情報の収集」から始めなくてはならない、そうしなければどちらに進んでいいのかもわからない、という事態に陥るのです。
「課題の設定」も困難では?
加えて、その程度の知識・認識しかないテーマに取り組もうとするなら、実は「課題の設定」もうまくいっていないはずだと言えてしまいます。その段階では課題解決手段の予想すら立たないはずだからです。「課題の設定」の後に「情報の収集」というのは、実は、現実的にはあまりないケースのように思えます。そして、課題解決手段についての予想、つまり仮説が立つなら、次は、実験でそれを確かめてみれば良いということになりますから、この段階で必要な情報収集は、どうすれば正しい実験、理想的な実験を行えるのかに関することになるかもしれません。理想的な実験道具や環境はこういうものだというのを指定・規定して、それを手に入れるにはどうすればいいのかを調べ上げるという具合です。
どういう実験なら確かめられるか
私が生徒に、探究で最も頭を使って欲しいと願うのは、この模擬実験に関する部分です。「実際に、同じ規模でやってみなければわからない」では、予算を充分に持たない学生には叶わないことばかりになってしまいます。予算を持つ企業であっても、できるだけ損・無駄は出しなくないわけですから、最小限の費用で「実際を、より高い確度で予想できる方法」を見つけ、まずはそれで試すというのが定石です。模型を作って試したり、地域を限定してテストマーケティングをしたり、モデルやコンピュータを使用してシミュレーションを行ったり、といったようなことをやります。「小さくやってみる」であり、「仮想してやってみる」です。
どうすれば「的中確率」の高い実験を行えるか、そして、そこから、協力者を納得させるに足る「情報の収集」を行えるか、に頭を悩ませて欲しいと思います。
説得材料としての情報
例の螺旋図は、考えるためには情報が必要だろうということで、あの位置に「情報の収集」が来ています。しかし、情報の使い方はそれだけではありません。「わがこと」として取り組んできたテーマにまわりの人からの興味・関心を引き、その人達に「ともごと」としてそれを捉えてもらうには説明が必要になります。有効な説明・説得のためにはエビデンスを提示することが有効です。説得材料としての情報の収集・活用を意識しましょう。さらに高度になると、説得すべき相手によって説得に有効な情報が変わってくるということも起こりえます。そうすると、その相手を知るための「情報の収集」も必要になります。
10歳からわかる「まとめ」
・探究プロジェクトを進めるにあたり、収集しなければならない情報の種類は数多い
・探究の螺旋図で、「情報の収集」は「課題の設定」の後に来ているが、情報収集のタイミングはそこだけではない。むしろ、より良い課題を設定するのに必要な情報収集もある
・プロジェクトの道を進みながら、どちらに進むか(=どちらの案を採用すべきか)を迷った段階で必要となる情報収集もある
・その際に、模擬実験が必要となる場合もあるため、得られる結果の的中確率がより高くなる実験方法を考えつくよう、充分に頭を悩ませなくてはならない
・自分が取り組んでいるテーマにまわりからの興味・関心を引くには、その人達の理解を深めるのに有効な情報を提供する必要が出てくる。それに相応しい情報、相手に通じやすい情報という観点も踏まえた上で、情報の収集に当たることが必要になる

ジャートム株式会社 代表取締役
学校・企業・自治体、あらゆる人と組織の探究実践をサポート。
Inquiring Mind Saves the Planet. 探究心が地球を救う。