番外1・大学編: 講義での探究アプローチ

※理論を「使う」とき、学びは専門になります。本稿では、大学における講義型授業がどのように「探究」となり得るのかを、実践例と理論的背景から考えます。

大学での探究は何が違うのか

幼児期、子どもたちは感覚で世界をつかみました。児童期には、それを言葉にして整理しました。中学生になると「自分とは何か」と問い始め、高校生になると「どう生きるか」を引き受け始めました。では、大学では何が起きるのでしょうか。

大学での探究は、「問いを持つこと」から一歩進み、理論を使って世界を読み解くことへと移行します。自由に考えることは大切です。しかし、大学ではそれに加えて、概念・枠組み・モデルといった“知の道具”を手にします。幼い頃、「好き」や「関心」から始まった探究は、それを専門性へと高めていく過程に入ります。

幼児期から高校までの探究が「育つ過程」だとすれば、大学は「磨かれる過程」といえるかもしれません。

私の講義での「探究」の進め方

2019年度から毎年前期、福井工業大学環境学部デザイン学科3年生を対象に、マーケティングの講義を担当しています。

扱うテーマは次の通りです。

  • マーケティング戦略
  • 消費者行動理解
  • ブランディング
  • プロダクト
  • コミュニケーション
  • リレーションシップ
  • デザイン&マーケティング

各テーマを講義で扱った後、次回講義までの2週間で、学生は課題に取り組みます。課題は一貫しています。

「あなたが興味を抱く企業を選び、その◯◯戦略を考察せよ」

◯◯には、ブランディング、プロダクト、コミュニケーションなどが順に入ります。学生はテーマごとに企業を変えても構いません。あるいは、就職を希望する企業を一貫して分析してもよいと伝えています。もし後者を選び、各戦略を丹念に探究するなら、その成果はそのまま就職面接で語れる材料になります。

講義で得た理論を、自分の将来と接続することができるのです。

発表後のディスカッション

ある学生はセブンイレブンを対象に、その製品(この場合は、品揃え)戦略について発表してくれました。発表に続いては、当然ディスカッションがあります。クラスの他の学生や私からの質問が口火を切る役目を果たします。この学生がセブンイレブンを選んだのは、彼がそこでアルバイトをしているからでした。つまり、「舞台裏」をある程度は知っています。そこで、私はこんな質問をしてみました。

「セブンイレブンをはじめコンビニエンスストアで、最も種類多く棚に並んでいる商材はなんだと思う?」

比較的狭い売り場に必要とされる商品を数多く並べるには、選択肢として横に並べられる同じ種類の製品の数を限る必要があります。文房具店ではないので、例えばハサミは一種類しか並んでいないかもしれません。しかし、コンビニでハサミを買う人はおそらく、とにかく今ハサミが必要ということで買いに来ています。多少使いづらそうでも、多少高くても、納得して買います。そんな中で、コンビニでも同じカテゴリーの商品で、数多く種類を並べなくてはいけないものがある。それは何か。考えている彼に、

「レジにいる時、君の背中側に並んでいるものだよ」とヒントを出します。

「あっ、タバコですね」

そこで、嗜好品とは、の議論に入っていきます。あるいは、街のタバコ屋さんの減少について話が展開することもあります。

議論を通し、彼の視点は「アルバイトの経験」から「小売業の構造」へと広がります。

表層から構造へ

初学者は、企業の広告や商品デザインといった“目に見えるもの”に注目します。

しかし、理論を学ぶことで、

  • なぜこのブランドは一貫性を保てるのか
  • なぜこの価格戦略が成立するのか
  • なぜこの顧客層が維持されるのか

といった、構造を見る目が育っていきます。これは、専門性の芽生えでもあります。

中高の探究が「問いを育てる」段階だとすれば、大学の探究は「問いを磨く」段階といえるかもしれません。

理論は「答え」ではなく「レンズ」である

大学での探究が中高と決定的に違うのは、理論というレンズを通して対象を見る点にあります。教育思想家ジョン・デューイは、学びを「経験と省察の往還」と捉えました。また、デイヴィッド・コルブは、経験学習モデルにおいて、

  • 具体的経験
  • 省察
  • 抽象化(概念化)
  • 実践

という循環を示しています。

私の講義では、

  • 講義(概念の提示)
  • 企業分析(具体化)
  • 考察(省察)
  • 次のテーマでの再適用(再実践)

というサイクルが自然に回っています。

理論は暗記するものではありません。世界を切り取るための道具です。

「好き」を「専門性」に変える

大学生の多くは、まだ将来像が明確ではありません。

それでも、自分の興味を持つ企業を選び、理論を使って分析し続けるうちに、「なんとなく好きだった」理由が明確になり、「この企業の、ここに価値を感じる」に、そして、「ここで働いてみたい」「消費者として、このブランドのファンであり続けたい」へと展開していきます。

大学での探究は、感情的な関心を論理的な理解へと昇華させる営みです。自由な発想に理論的枠組みを与え、自分の関心を社会構造と接続する営みです。

問いを持つことから、問いを使いこなすことへ。

興味を語ることから、価値を説明できることへ。

大学という場で、探究は「専門性」という形を本格的に取り始めます。

10歳からわかる「まとめ」

・大学の探究は、理論というレンズを使って世界を見ること

・講義で学んだ概念を、自分の関心対象に当てはめてみる

・「好き」を「説明できる力」に変えるのが大学での探究

・探究は、発達段階に応じて形を変えながら続いていく

*本原稿はチャッピー君との対話を基に構成されました。

※この記事では、大学における講義型授業がどのように「探究」となり得るのかを、実践例と理論的背景から考えました。